アダム・グラントの『ORIZINALS』を読みました。
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「オリジナルな」人になるための考え方がたくさん紹介されています。今回はその中から、発想についての面白い話をピックアップしてみましょう。
まずは、「ブ・ジャ・デ」から。
「当たり前」からの脱却
これまで一度も体験したことがないはずなのに、奇妙なほどそれを「知っている」感覚を覚えることがあります。デジャブ(既視感)と呼ばれています。
著者はその逆が、アイデアの出発点になると言います。つまり、「ブ・ジャ・デ」です。
「ブ・ジャ・デ」とはその反対で、既知のものを目の前にしながら、新たな視点でそれを見つめ、古い問題から新たな洞察を得ることだ。
これはジェームズ・W・ヤングの『アイデアの作り方』に出てくる、アイデアの定義__アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない__の実践的な言い換えと言えるでしょう。同じようなことは、『超メモ術』という本で私も言及しています。
もし、世の中の全てのことを「当たり前」だと考えていれば、アイデアはどこからも生まれてきません。「当たり前」とは、昔からそうあって、今後もそうでありつづける事象のことです。言い換えれば、それは固定されていて変化を拒絶しています。
しかし、アイデアとはまさにそれを動かすことなのです。よって、「当たり前」思考から脱却しなければアイデアは掴めません。
次なる問題とその対策
いったん「当たり前」思考から脱却すれば、アイデアの素材はいくらでも見つけられるようになります。なにせ「既存のもの」すべてがアイデアの対象範囲なのです。
これでアイデア不足に悩まされることなく、めでたくアイデアパーソンになれる__かというと、なかなかそうはいきません。
だが実際は、オリジナリティを阻む最大の障害はアイデアの「創出」ではない──アイデアの「選定」なのだ。
斬新なアイデアがいくつもあったとしても、その中から適切なものを選び出すことが難しいのだと著者は述べます。まさにその通りです。
本書が面白いのは、そうしたアイデアの選択につきまとう失敗を、「偽陽性」と「偽陰性」に分類しているところです。見込みがないのに見込みがあるように扱われてしまう失敗と、見込みがあるのに見込みがないと断じられてしまう失敗の二つです。直感的に考えても、そうした失敗はどこでも起きていそうです
また、こうしたアイデア選びの失敗は、それを仕事にしている専門家だけでなく、アイデアを生み出したクリエーター自身でも起こるようです。つまり、何が価値を持つのかを事前に測るのは簡単なことではないわけです。
では、どうすれば価値を持つアイデアを生み出す可能性を高められるでしょうか。著者は二つの方針を提示します。
「多くのアイデアを生み出すこと」
「同じ分野の仲間の意見をもっと求めていく」
あらかじめ価値が計れないのであれば、ともかくたくさん生み出してしまえ__いささか強引であり「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」的ではありますが、一番実際的な方法です。ようは、確率として、あるいは打率として捉えるわけです。
たしかに、著名な作家でも、その作品すべてが「極めて優れている」ということはないでしょう。凡作やときに駄作すらあるはずです。まさにその事実こそがクリエータ自身が正確に価値を計れていない証左でもあります。だからこそ、たくさん作り出すのです。
自分が価値があるとおもったものを10送り出せば、そのうち3くらいは本当に価値があるものが生まれてくるかもしれません。それで3割打者です。十分な成績でしょう。
もう一つの方針は、独りよがりになったり、権威主義に堕ちるなというアドバイスとして受け取れます。これらは別の意味での「当たり前」を発生させてしまうので、アイデアの可能性を狭めてしまいます。
回り道クネクネ
著者は、私のような性格の人間に素晴らしいエールを送ってくれています。
先延ばしは「生産性の敵」かもしれないが、「創造性の源」にはなる。
かのレオナルド・ダ・ヴィンチも「余計なこと」をたくさんして、作品の完成に何年もの時間を使っていたようです。でも、その「余計なこと」は、人生を通したブレインストーミングのようなもので、彼の最終的な作品のアイデアとして結実したとあります。
オリジナルなアイデアに辿り着くためには、「最短ルートを一直線」ではダメなわけです。むしろそれは凡庸に近づくための最短ルートです。必要なのは、そのアイデアをさまざまな角度から検討し、可能性をたしかめ、盛り込めるものが他にないのかを考えるための時間です。
しょせん人間が最初に思いつくことの射程など限られています。それをそのままポンと形にしたところで、感触ある作品など生まれてきません。ここに効率原理主義とクリエイティビティー尊重主義の対立が見て取れます。
創造性は、効率化できないのです。むしろそれは非効率の中にあるとすら言えるでしょう。なにせ、誰も見つけたことがない組み合わせを試行錯誤の中で発見する行為なのですから。
さいごに
さて、ここまで書いてきたことで、一つ矛盾というか困難が発生していることにお気づきでしょうか。
- オリジナルなアイデアに辿り着くためには「最短ルートを一直線」ではダメ
- 事前に価値を予測できないのでたくさん作るようにする
となると、足りないものが出てきますね。そうです「時間」です。
たくさん生み出さなければならないのに、効率主義ではダメなのです。つまり、止まっている暇はありません。日々是発想日です。
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▼参考文献:
古典でもあり、原典でもあります。発想法に興味があるなら間違いなしの一冊。
上記のようなお話を、実践的なメソッドに落とし込んで紹介しています。
» 超メモ術 ―ヒットを生み出す7つの習慣とメソッド (玄光社MOOK)
Follow @rashita2
もちろんレオナルド・ダ・ヴィンチはメモ魔だったわけで、彼も日常を「当たり前」とは見ていなかったのでしょう。そして、日々考え、日々発想し、日々作りながら打席に立つ回数を増やしていったわけです。打席と打率。大切な考え方ですね。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。
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