今さら自慢にもなりませんが、大学受験ではどちらかというと勝ち組でした。現役で早稲田(教育)と上智(外国語)を始めとする私立上位校に合格し、すべり止めとして受けていた中位校も漏れなくパス。最終的には第一志望だった──後で知ったのですが、あの神田昌典さんと同じ──上智大学外国語学部英語学科に入学しました。
僕にとって受験勉強は楽しい思い出です。たとえば、英語では大きめの単語カードを駆使したり、日本史では古代から現代までを俯瞰できるオリジナルの巻物風チャートを自作し、問題集や模試で新たに仕入れた知識をどんどん書き足していく一元管理を徹底したり、教科に限らず穴埋め問題集はオレンジの極細ペンで解答を書き込んでしまうことで(赤色のセロファンシートをかぶせることで見えなくなる)、問題のページと解答のページとを行き来する手間をカットするなど、工夫の余地ありまくり、工夫すれば即成果(=偏差値UP)が得られまくりな、まさにゲーム感覚で取り組むことができたからです。
そんな中で、特に思い出深いのが、英語構文を暗記するために『基本英文700選』のすべての例文と訳文を自分でテープに吹き込み、自宅と学校と予備校のトライアングルゾーンを動き回る時はもちろん、夜寝る前にもヘッドホンをして聴き続けたこと。
それこそ寸暇を惜しんで勉強をしていたわけですが、そこまで自分を追い込むことができたのは、受験直前に通っていた予備校の先生からいわれた一言があったからです。忘れもしない1991年12月16日。
このままじゃ第一志望どころか、すべり止めも危ないよ。
上智の受験日は1992年2月7日。残り2ヶ月足らずでどこまで行けるのか。限られた時間を最大限に活かすために思いついたのが、目や口が勉強に忙殺されている中で、こっそり遊んでいた「耳」を活用するテープ学習法だったのです。
そんな過去を持つ人間として、今回ご紹介する『脳が良くなる耳勉強法』の著者・上田渉さんの以下のエピソードはとても共感するものでした。
受験勉強を始めたときは、SVOが分からない英語音痴、現代文が頭に入ってこない国語音痴、古文は意味不明、社会も暗記が苦手、数学は記号が羅列しているようにしか見えない、という悲惨な状態でした。しかし、最終的には、当時英語の試験で最難関だった慶應大学湘南藤沢キャンパス(SFC)を英語のみの受験で楽々突破、現代文だけでなく小論文の試験も楽勝、古文は原文を趣味として読むようになり、社会も十分な暗記量、数学は合格ラインまではいく、という状態まで持っていくことができました。
このときの勉強の中核にあったのが、耳を使った勉強法でした。
今や「耳勉強法」のコアプロダクトであるオーディオブックの啓蒙および普及活動を展開するオトバンク社の社長として活躍している上田さんですが、本書には彼を偏差値30から今に引き上げた耳勉強法のすべてが詰まっています。
今回は、そのうちのハイライトをご紹介。
耳は簡単に鍛えられる
速読は目を鍛える必要があるため、習得までに手間と時間と、場合によってはお金が必要になるのに対して、耳学習はその必要がほとんどないそうです。なぜか。
耳(すなわち聴覚)を鍛えるのは簡単です。耳には鍛えなければならない筋肉はありませんし、聴覚は耳から自動的に入ってくる音を処理する感覚なので、目とは違い、受動的に情報を得ることができます。従って、受動的に入ってくる情報量が増えても理解できるように、脳を鍛えれば良いということになります。
聴覚は普段遊んでいるわりには、ここぞと言うときには大変フレキシブルな名プレーヤーと言えそうです。
オーディオブックの7つの聴き方
- ながら聴き
- 目を閉じて集中して聴く
- 本を読みながらオーディオブックを聴く
- 先にオーディオブックを聴き、後で本を読む
- 集中して倍速版を聴く
- マルチタスク
- 何度も聴く
詳細は割愛しますが、「聞き漏らした個所があっても後で聴けばいい」とか「聞き漏らしたら大して重要な情報でもなかったんだ」といったアドバイスが、実は耳学習初心者にはありがたいものだったりします。
7つの中で個人的に最も強力だと考えているのは、「先にオーディオブックを聴き、後で本を読む」です。僕も実際によくやるのですが、「あ、この本はいつか読んでみたいと思っていたんだよな」というオーディオブックを見かけたら、すかさず購入してiPodに入れます。数日もあれば、移動中の時間でひととおり聴き終えますから、そのうえで本も購入して読んだ方がいいかを判断します。
内容が良ければ本を購入して読むわけですが、すでに耳で一通り聴いていますから、非常に高速で読むことができます。「あぁ、知ってる知ってる」ということで目が高速でページをスキャンしていきます。これは実に快感。
仮に聴いた後で「本を買って読むまでもない」という結果になったとしても、耳で聴いたことは少なからず残っていますから、無駄にはなりません。
ちなみに僕が以前聴いて、さらに本も買ったのは以下です(巻末の「著者おすすめのオーディオブック」でも紹介されています)。事例豊富で、すぐにでも実践したくなる良書。2000年発売以来のロングセラーなのも頷けます。
» プロカウンセラーの聞く技術/オーディオブック版
(倍速版なので、2時間42分26秒で聴き終えられます)
「沈黙」にも意味があるのです
部下とのコミュニケーションに役立つ
それなりに勉強になりました。
話べたな人におススメします。
“アイドル”を探せ!
耳学習のポイントは、なんといっても耳(聴覚)が普段は遊んでいるという点に注目すること。想像以上に耳はアイドルタイムを過ごしているのです。
上田さんは一日のうち起きている時間について耳がどれだけ遊んでいるかを調べています(すきま時間マッピングとして図示しています)。以下はその結果。
この中で、聴覚だけが空いている時間と、聴覚と視覚の両方が空いている時間を整理しましょう。すると、聴覚が空いている時間が7時間、聴覚と視覚の両方が空いている時間が1時間となります。そのうち、30分はお風呂での時間なので、視覚も空いているとはいえ、できることは限られます。
しかし、なんと聴覚だけで、1日の3分の1近くの時間が空いてしまいました。私はこの時間を、ながら聴きで勉強する時間に充てています。
上田さんは超多忙な経営者ですが、それでも1ヶ月(平日のみ20日間)で140時間もの耳学習時間が確保できるのですから、一般の人ならもっと多くを確保できるはずです。
まとめ
実は、本書を読む前は失礼ながら「要するにオーディオブックを聴きましょう、って話でしょ」と高をくくっていたところがありました。上田さんの「オーディオブック・ハック」については以下のエントリーでもご紹介していたこともありましたし。
» オーディオブックを仕事に活かすための10のポイント
» オーディオブックマスターによるオーディオブック勉強法
でも、実際に本書を読んでみたら予想外に奧が深い。二の腕まで腕まくりをしてその穴に突っ込んでみましたが、底にまで手が届く気配もありません。そんな“虎の穴の主”である上田さんの実践的耳勉強法を解説した本書は、知識としての勉強法は知っていても、時間の壁に阻まれて、行動としての勉強にまで到達できていないビジネスパーソンには救い一冊となるはずです。
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本書はビジネスの理論書ではありません
わははははははっ。
神田昌典2.0に乗り遅れるな
これで最後にします
発売直後は星1つのレビューばかりでしたが、見直されてきていますね。459ページにも及ぶ「弁当箱か!」と思わせるようなズッシリとした一冊ですが、内容もギッシリ詰まってます。
これ一冊で、スピーチの達人になる魔法、シンプルなマトリクスで一瞬で理解できる実践的なロジカル思考の方法、頭の中のごちゃごちゃを整理する方法、多様な人々をまとめるリーダーになる方法など、それぞれが1冊のビジネス書として成立するくらいの濃い内容が一挙に手に入ります。しかも今挙げたのは全8章のうちの第6章のみから抜き出したもの。つまり、穴の奧はもっと深く、広く、濃いのです。
方法だけにとどまらず、その方法がなぜ効くのか、どのようにして成立したのか、誰がどのように使って効果を上げているのか、といったところまで分析・考察・追究されており、その迫力には読みながら何度ものけぞってしまいます。
21,000円と言われても買ってしまいそうですが、実際の価格は2,100円ということで、さらにのけぞってしまいます。
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