・位相の異なるインプットを心がける ~Idea Arts その1~
・アイデアの種を拾い集める ~Idea Arts その2~
の続きです。
第三の習慣:頭を開く
第一の習慣と第二の習慣は、日常的な行為に関するものでした。こうした行為がアイデアの基礎力を高めてくれることは確かです。しかし、どこかの段階で実際のアウトプット作りに着手しなければいけません。そんなときに必要なことはなんでしょうか。
それは、「頭を開く」ことです。
といっても、もちろん外科的手術を行うわけではありません。簡単に言えば、他者と意見を交わす、ということです。
具体的には、
- 分野を同じくする人に自分のアイデアをぶつける
- 分野の異なる人に自分のアイデアを説明する
- 「現場」の情報を収集する
- 改良できるプロトタイプを作る
の4つがポイントとなるでしょう。
分野を同じくする人に自分のアイデアをぶつける
頑張っていろいろなアイデアの種を蓄えてみても、結局の所それは「自分の視点」でしかありません。考慮不足の要素は必ずあります。
アイデアを一段階上に引き上げる上で効果的な方法は、同じチームの誰か、あるいは同業の誰かにそのアイデアを聞いてもらうことです。そこで、アイデアに足りない要素、付け足せるような視点を指摘してもらえれば、アイデアの厚みが増します。
たとえば、私がEvernoteのテクニックについての本を書こうとしているならば、別の著者にその本のアイデアを説明する、というのがこのパターンです。実体験から言うと、必ず2、3は良いアイデアがもらえます。たいていは「ちょっとした思いつき」なのですが、それは自分一人ではまず考えつかないものなので、ありがたみは非常に高いものです。
ただしそれは「相談する」という形は取らない方がよいでしょう。そうしてしまうと、往々にして「現実的なアドバイス」が飛んできます。現実的なアドバイスはたしかに現実的なのですが、アイデアから新規性を奪いかねません。そのアイデアを実行するかどうかではなく、アイデアそのものに焦点を当ててもらえればGoodです。
※もちろん、話す相手を選ぶ必要もあるでしょう。
分野の異なる人に自分のアイデアを説明する
もう一つ効果があるのが、上とは逆にまったくに「異分野の人」に自分のアイデアを説明することです。
説明する中で自分の頭が整理される効果もありますが、それ以上に「意外な疑問」「素朴な疑問」に出会える効果が期待できます。あるいは、その人の専門分野からのアイデアが出てくるかもしれません。
まったくの異分野ですので、必ずしも期待通りの効果が上がるとは言えませんが、もし効果があがれば非常に高いものとなるでしょう。当然、それを行うためにはそのためのパイプラインを持っておく必要があります。人付き合いというか、コネクションは大切ですね。
著者の場合であれば、編集者がその聞き手の代表例と言えるでしょう。
「現場」の情報を収集する
話を交わす3つめのタイプが、自分のアイデアが適用される「現場」にいる人の話を聞いたり、逆に自分のアイデアの話をすることです。
Evernoteの例を続ければ、実際にEvernoteを使っている人ということになります。
机上的に優れていても、実践が伴わないのならばそのアイデアは致命的に役に立ちません。もちろん「現場」という言葉はいかようにでも解釈できますが、ともかく実践の近いところにいる人と意見を交換してみることです。自分自身がその実践者になる、という方法もありますが、それでも他者の意見を聞いてみるのはアイデアに強度を与える上で有効でしょう。
改良できるプロトタイプを作る
以上のようなことを行うためには、当然アイデアを人に話せる形にしておく必要があります。短時間で大きな話を説明するのは難しいでしょうから、できるだけコンパクトにまとめて置くのがよいでしょう。ものを作る行為なら、プロトタイプを作っておくのがベストです。
そして、それは改良できなければいけません。
改良できるとは、改良する余地があるということではなく、「これからどんどん変えていくつもりがある」という意識を持つ、ということです。初めから完成形はこうだと決めつけてしまっていては、「頭を開く」効果は非常に小さいものになります。きっと、ミスがあったらそれを直す、ぐらいのものにしかならないでしょう。
できれば、返ってきた意見・アイデアによっては大きく方針を変えるぐらいの「余地」が欲しいところです。その余地が、アイデアを大きく広げてくれます。
しかしながら、一通り完成してからでは大きな方向転換は難しいでしょう。そのため「頭を開く」ことは早めの段階__アイデアの準備段階__、で行うのが良いのです。
さいごに
第三の習慣は、アイデアの準備としての「頭を開く」でした。
アイデアの種は一人でせっせと収集できます。しかし、それを大きく広げていくならば、ときに人の助けを借りることも必要です。できるだけ、早めにフィードバックをもらえるように、そして多様で(かつ寛容な)意見がもらえるようになれば、アイデアの大きさは広がりを増します。
もちろん、アイデアの種類によっては(秘密にする必要がある場合など)、一人で進めていく必要もあることは留意しておいてください。
▼今週の一冊:
タイトルの通り、フェルマーの最終定理が証明されるまでの歴史が語られた一冊。サイモン・シンの本はどれも面白いですね。
数学のことはさっぱり、という方でも充分読める内容になっています。おそらくドラマ的に楽しめるでしょう。また、数学の歴史の厚みを感じる一冊でもあります。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。