『知的生産の技術』のアップデートを試みた以下の一冊。
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この本では「センスの磨き方」が紹介されています。
今回は、それについて考えてみましょう。
箱の中身
そもそも「センス」って何でしょうか。
たとえ、まったく同じ情報がインプットされ、そして同じメディアがアウトプット先として与えられていても、アウトプットが必ず人それぞれ異なるものになります。
この違いを生んでいるものが「個人のセンス(個性)」である、と本書にはあります。
拙著『真ん中の歩き方』に、次のような文章を書きました。
X→□→X
ならば、□の中は、空っぽと判断されるでしょう。
X→□→X’
ならば、□の中に、何かしらの存在を感じ取れるはずです。
受け取った情報をそのままパスしているだけでは、箱の中は空っぽに感じられます。だとすれば、あってもなくても同じようなものと扱われてしまうかもしれません。
しかし、たとえわずかであっても元のインプットと違うものが出てくるのなら、箱の中身が感じられます。
『真ん中の歩き方』には、こんな文章もあります。
個性とは差異だ。個性とは差異ある反応だ。
刺激が与えられ、反応を返す。その中央にあるブラックボックスこそが個性の源泉である。
仮に、X’という反応を返しても、100人中100人がそれを行うのなら、個性があるとは言えません。箱の中身はあるのかもしれませんが、特別な意味は見出しにくいものです。
総じてみると、「センスとはインプットとは異なったアウトプットを生み出す源であり、それが他者と違っているとき個性が見出される」と言えるかもしれません。
センスの磨き方
では、そのセンスはどうやれば磨いていくことができるのでしょうか。
『知的生産の技術とセンス』にはこうあります。
個性・センスを磨いていく。そのセンスによってフィールドを選び、情報を取捨選択してインプットし、自らの個性によってアウトプットする。アウトプットという成果に対して、他者からのフィードバックを受け、個人のセンスが磨かれていく(後略)
自分のアウトプットに対して、他者からのフィードバックを得る。そのことが個人のセンスを磨くことにつながる。でも、そのためには自らの個性によってアウトプットする必要がある。そんなところでしょうか。言い換えれば、自分の感性を他者の評価に晒さなければ、センスが磨かれていくことはないわけです。
そして、ここに難しい問題があります。
ファースト・フィードバッカーの功罪
上記の説明では、センスによってインプットを取捨選択し、個性によってアウトプットするとあります。そして、そのフィードバックからセンスが磨かれていき、磨かれたセンスが次なるインプットやアウトプットに影響を与える。そうやって、徐々にセンスの研磨率が上がっていくわけですが、逆に言えばスタート時点では、たいしたセンスがないことも意味します。
つまり、はじめたばかりのアウトプットは、1と1.01ぐらいの違いしかないものであったり、ほとんどコピーと変わらないものであったりするわけです。
もし、優れた審美眼を持つ(あるいは褒める特殊な技術を有する)人に、そのアウトプットが発見されたのなら幸いです。1と1.01の違いに注目し、「ここを伸ばしていけばいいよ」といったフィードバックがもらえます。
しかし、その違いに気がつけないような人がファースト・フィードバッカーであったらどうでしょうか。こんなものは無価値だとさんざんにこき下ろされて、心が折れてしまうかもしれません。ほんとうは違いがあったはずのものが、無かったことにされてしまうのです。なかなか、恐ろしい話です。
たとえ稚拙に感じられても、まずはアウトプットしてみる。そして受けた評価について自分なりに考えてみる。それがセンスを磨く第一歩となるでしょう。
ただし、どこにアウトプットするのかは慎重になった方が良いのかもしれません。自己満足のためのあら探ししかしないような人が集まる場所だと、いささか厳しいものがありそうです。
さいごに
ちなみに、「センスを磨くために何かをする」のは的外れでしょう。
センスというのは、結果的に磨かれるものです。「センスを磨きたいからアウトプットします」というのは、どこかしら変な感触があります。そうやって磨いたセンスをどうするの?という疑問が湧いてくるのです。
「結果的に磨かれる」は、「良きアウトプットを目指していくうちに鍛えられていく」と言い換えてもよいかもしれません。
鉄を鍛えるためには叩くことが必要ですが、センスを磨く上でも(多少なりとも)心の痛みは避けて通れないのでしょう。ただし、強すぎる力で叩けば鉄だって折れてしまいます。そこには十分注意してください。
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▼参考文献:
考えるためのヒントが詰まった一冊。
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Follow @rashita2
あ~っというまに月末です。そうです、電子書籍発売の締め切りです。現状表紙作りまでは終わっているので、後は細かい校正を進めるだけ、なんですが、これが結構時間かかるんですよね……まあ、なんとか間に合わせます。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。