先日創刊された『月刊群雛 2014年02月号』を読みました。
「インディーズ作家を応援するマガジン~」と題してある通り、プロではない作家さんの作品(および作品サンプル)が多数収録されています。
これまでの出版業界の文脈に即して言えば、「同人雑誌」になるのでしょう。しかし、その言葉では捉えきれないものが含まれていそうです。
同人誌?
そもそも同人誌は、志を同じくする人(同好の士)が資金とコンテンツを出し合って一つの雑誌を作るスタイルが発祥です。
本を作るのにはお金がかかるので、複数人でそれを割り算するわけですね。
しかし『月刊群雛』は、参加者にコンテンツは求めるものの、資金は求めていません。電子書籍は__在庫を持つ必要がないので__低コストで出版できるからでしょう。
また、同じような思想を持つ人が集まっていたり、同一系の作品を集めた雑誌でもありません。読ませていただきましたが、掲載作品のジャンルは驚くぐらい多様でした。3年後に__「白樺派」のような__「群雛派」が形成されるとも考えにくいものがあります。
形態としても、志向としても「同人雑誌」とは異なった位置づけの雑誌。そんな印象を受けました。
ではどんな雑誌なのかというと、副題にあるとおり「インディーズ作家を応援する雑誌」なのです。
難しい工程
拙著『KDPではじめる セルフパブリッシング』では、本の中身を書くだけでは「出版」とは言えない、というお話を紹介しました。
それはクリエートではあるけれど、パブリッシュではないのです。
個人であっても、出版者であるならば出版社と同系の機能をこなさなければいけません。
その中でもやっかいなのがマーケティングとプロモーションでしょう。特にクリエーター気質の人ほど、この二つと距離を置く傾向があります。しかし、(ある程度でも)それらをやらないと「本」はなかなか売れてくれません。
『月刊群雛』は、そのプロモーションの手助けをしてくれます。
複数人のクリエーターで「雑誌」を作る。
すると、雑誌に興味を持った人と、クリエーターがつながります。興味を持った人が周りの人に周知すれば、そのつながりは広がっていきます。さらに、クリエーター自身も、自分の読者に向けて雑誌を告知するでしょうから、Aというクリエーターの読者が、Bというクリエーターとつながる、なんてこともあるでしょう。
10人が別々にプロモートするよりも、とりまとめた方が波及力という点では大きくなります。
たとえこの雑誌への投稿で利益を上げられなくても、「まだ見ぬ読者」とのつながりが生まれるならば、やる価値は十分にあります。
読み手として見た場合
以上は、クリエーター視点でのお話です。
では、読み手視点ではどうでしょうか。
まず、お気に入りの作家の新作が掲載されているなら買う価値はあるでしょう。そこは議論するまでもありません。あるいは「新しい作家と出会いたい」場合も、『月刊群雛』はその探し場所として機能します。
好奇心旺盛な読者が、まだ見ぬ作家を求めたり、既存の出版社(編集者)が、書き手を探して読むなんてことはありそうです。
が、「純粋な読み物」として考えた場合、少々博打くさい要素が入り込みます。
「月刊群雛」はやる気さえあれば、誰でも手を上げられるのがポイントです。そんなことは既存の出版物ではまずできません。だからこそ、やる価値があります。しかし、その反動として、コンテンツの質は一定レベルに担保されません。
極端な言い方をしてしまえば、コンテンツの福袋を買うような感覚になってしまうこともあるでしょう。
それが良いとか悪いとかの話ではありません。単にそういう風になる、というだけの話です。読み手が、それを納得して買うのならば何の問題もありません。世の中には、プロとかアマとかに関係なく、面白いコンテンツを書ける人はいっぱいいらっしゃるので、こういう雑誌で発掘してみるのも悪くないでしょう。
ちなみに、『月刊群雛』は毎号買うスタイルではなく、気になっている作家の名前があったら買う→たまたま他の作家の存在も知る、というような流れになるのではないかと予測します。
さいごに
読了後の感想がわりに、__一人の書き手として__こういう雑誌に投稿しようと思われた方のために、二つだけアドバイスを書いておきます。
- 「つかみ」を大切に
- 「プロフィール」も大切に
「つかみ」とは、文章のはじめの部分。そこで読者の心をつかめないと、すぐに飛ばされてしまいます。なにせ電子書籍は目次タップ一つで次のコンテンツに飛べるのです。パラパラとめくってもらうことすらできません。最初の6行あたりは、シビアに考えた方が良さそうです。
もう一つ、『月刊群雛』では作品(あるいはサンプル)後に、クリエーターへの簡単なインタビュー(&プロフィール)が掲載されています。もちろん作品だけで読者の心を魅惑できればベストですが、多少力及ばずでも、プロフィールとの合わせ技一本で、読者に興味を持ってもらえることはあります。
大きな声では言えませんが、「作品は飛ばしたけど、プロフィールだけは読んだ」というパターンもありました。そこから作品に戻ることもあるでしょうし、「名前だけでも覚えてもらえば」的な考え方もあります。気合いを入れて作品を書いたのなら、プロフィールも手抜きしない方がよいでしょう。
▼参考エントリー:
・ついに創刊! 「月刊群雛 (GunSu) 2014年02月号」のオンデマンド印刷版・電子版をBCCKSで販売開始!! #群雛(日本独立作家同盟)
・「月刊群雛 (GunSu)」へ作品を掲載するための共通レギュレーション #群雛(日本独立作家同盟)
・同人雑誌「月刊群雛 (GunSu)」が目指すこと(マガジン航)
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。