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一撃で説得されないために役立つ一冊

倉下忠憲
「攻撃は最大の防御なり」

という言葉があります。いろいろ解釈する余地がありますが、

「攻め方が分かっていれば、守りやすい」

と解釈することもできるでしょう。攻撃方法に精通していれば、防御方法も組み立てやすい。そんなに不自然な話ではありません。


つまり、相手が一撃でこちらを仕留めてくる(説得してくる)ための方法を知っておけば、それを回避するのも容易になるわけです。



一撃で仕留める説得

本書によると、「超」説得法は「瞬間的に相手の心を掴む方法」とあります。その中身は

  • 相手の関心を引き、信頼を獲得した上で
  • 相手の判断を変更させ
  • 最後にとどめの一撃を打つ

の3つのプロセスです。

研ぎ澄まされた刀で、相手の首を、一瞬で斬り飛ばす。少々物騒な表現ですが、こんなイメージかもしれません。

本書では、それぞれのプロセスにおけるノウハウが、いくつかの例と合わせて紹介されています。また、説得における強力な二つの武器__比喩と命名__についての解説もあります。

攻めてくる手段を把握する

これらのノウハウは、もちろん自分で誰かを説得する上で有効に使えます。

ちなみに、本書での「説得」とは

相手の決定を変えさせること、あるいは、ある行動をとるよう決心させることである。

と定義されています。

自分が働きかけることによって、相手の決定を変更させる。そんなシチュエーションは、日常に転がっています。面接や論文といった大仰なものでなくても、営業活動や、仕事の割り振り、さらにはデートの行き先を決めることだって「説得」です。これが、うまくできるにこしたことはないでしょう。

しかし、逆から見ると、私たち自身も日常的に誰かから「説得」の圧力を受けています。

たとえば広告がその最たるものでしょう。あるいはメディア情報も「説得」であふれかえっています。

そんな環境の中で、「一撃の説得」で仕留められてしまい、重要な事柄を安易に決定しないためにも、相手の手の内を把握しておくことは有用です。

魔女のルール

たとえば、本書の第2章「魔女に学ぶ一撃説得の極意」では、魔女の「超」説得法として4つのルールが紹介されています。この最初の二つをみてみましょう。

まず、一つ目のルールが、“注意を引く。無視されないようにする。名を呼ぶのが有効”です。

広告が注意を引いてくるのは当然です。この場合のポイントは「名を呼ぶ」にあります。もちろん、本当の名前を呼ばれることはないでしょうが、属性やクラスタに対する呼びかけは頻繁にあります。広告だと「転職を考えている20代」「頭皮が気になる男性」といった表現ですね。こうした表現はどこにでも見受けられます。

もちろんこれは、必要な人に必要な情報を伝えるための表現手法なわけですが、それが説得の第一歩になっていることは知っておいた方がよいでしょう。それをチェックするということは、説得される方向に自分から歩みを進めているのに等しいわけです。

では、二つ目のルールはどうでしょうか。これは、“関心を持たせる。興味を抱かせる。聞く価値がある話だと納得させる。「相手が聞きたいと願っているメッセージ」を投げかけるのが有効。(後略)”とあります。

ここでは、「相手が聞きたいと願っているメッセージ」がポイントになるでしょう。やはり人間は、自分が聞きたいと願っているメッセージがあると、つい同調したくなってきます。うんうん、と頷き、納得したくなってきます。でも、そこで信頼の扉を開いてしまうと、さらに一歩、説得者に踏み込まれてしまいます。

ちなみに、本書では「バーナム・ステイトメント」(誰にでも当てはまる命題)として、

「あなたは実力があるのに、認められていない」

が紹介されています。このメッセージは形を変えて、さまざまな説得に登場します。多くの人が「聞きたい」と願っているメッセージならば説得において強力に機能することでしょう。

このバーナム・ステイトメントを利用するかどうかは個人の判断ですが、誰かがこういうメッセージを出してきたら、心のかんぬきをかけ直した方が良いかもしれません。

さいごに

考えてみると、高度情報化社会は超説得社会と言えるかもしれません。

それぐらい大量の説得が、リアルやネットで日々生産されています。ブログの記事タイトルをずらーっと並べてみれば、それが少し実感できるでしょう。あるいは本書を読んで、書店のビジネス書コーナーを見回せば、「なるほどな」と思えることが多く発見できるかもしれません。

攻撃に使うにせよ、防御に使うにせよ、説得が私たちの生活から切り離せないのならば、そのノウハウについて知っておくのは決して無用なことではないでしょう。


▼編集後記:
倉下忠憲



この本を読んでいて、改めて「ネーミング」の重要性を確認しました。たしかに、『「超」整理法』が『反整理法』だったら、読まなかったかもしれません。本書の表現を借りれば「セクシーさ」にかけるタイトルです。これは、正確なだけではつまらない、ということなのかもしれません。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。