「自然のままに任せる」というのはよいことのように感じられますが、「自然のままに任せて」おいても仕事が一向に進まなかったりします。
脳というのは生来怠けもののため(難しい言い方をするならコストが高め)「自然のまま」だとなるべく仕事をせずにすませようとします。
脳の「サボる戦略」にはいくつかありますが、ここではとくに仕事に障害となる6つの特徴を取り上げます。以下の特徴に対抗するようなライフハックを活用すれば、仕事は前に進むでしょう。
- 信じたことを裏付けたがる(確証バイアス)
- 感情的な印象で評価してしまう(ハロー効果)
- 目に見えないものを無視しようとする
- 特徴に注目し全体を無視したがる
- 答えるのに簡単な質問に置き換えたがる(ヒューリスティック)
- 無用な情報処理を自動的に行う
信じたことを裏付けさせない
脳の得意なことの1つに「自分がいったん信じたことの証拠を自動的に集め出す」というものがあります。「見方を変える」のは面倒なため(難しい言い方をするならコストが高くつくので)なるべくそれをせずにすませたいわけです。
しかし「別の見方を受け入れられない」とか「バカみたいに鵜呑みにする」といわれるのも、「優秀な頭脳」としては受け入れがたいのです。だから「信じた視点を変えずにすむような証拠探し」に没頭します。
「今日はこの面倒くさそうな原稿書きをしなくても大丈夫そうな証拠」をあなたはどのようにして見つけますか?
締切までまだ日数が充分にあり、必要な日数を「今日以外」で十分に確保できるといったような「証拠」を集めたりするはずです。これができないように手帳やカレンダーにはやるべきことを全部書いておいて先に埋めておくことです。
そうすれば「今日やらなくていい証拠」を集めることは難しくなります。
感情的な印象で仕事を評価させない
「これは面倒そうだ」「手をつけたら手に負えなくなりそうだ」と思うとその仕事はほとんど先に進められなくなります。
心というのは理性的に物事を判断できるのですが、感情の影響を排することはできません。強く感情の影響を受けながら、理性を駆使しようとするのがせいぜいです。
- 机に向かえば勉強できるのだが…
- 教科書を開けばやる気になれるんだけど…
という学生さんは少なくないと思いますが、彼らはウソをついているわけではありません。「教科書を開く」ことの方が、開いてから勉強するよりも実際大変だったりするものです。感情的な印象はそれくらい強いのです。
タスクやカレンダーの予定には、できるだけ仕事で必要なファイルのリンクを張っておくとよいのはこのためです。子供だましのようですが、そうではないのです。時間が来たら自動的にファイルが開くようにセットしておくというのもよいでしょう。
目に見えないものを無視させない
TaskChuteなどで「計画を立ててから仕事をする」という話をする度に「割り込みがあるから無理である」という反論をいただきます。
にもかかわらず、その割り込みの有害性、その頻度を記録している人があまりにも少ない。割り込まれることによって失う時間は平均して何時間くらいか? それはいつ頃の時間帯に多いのか?
これらの情報が事前にあれば、「この仕事は明日の午前中が空いているから、その時にやろう」などとは言えなくなるはずです。
割り込みは「予定」ではありませんから、カレンダーにもタスクリストにも「ない」はずですが、それは「ない」わけではないのです。そのことは「割り込みがあるから無理」という全ての人が良く知っているはずのことです。
「目に見えない」のは「割り込み」だけではありません。病気や体調不良、調子が悪くなる日や、精神的に落ち込まされる頻度なども知っておくと、そうそう「何もない日」などないことに気がつきます。
特徴に注目し全体を無視したがる
これはつまり行動記録を取り、「1日のタスクリスト」が必要であるという結論になります。そういうものを作るのが、ライフハックに当たるのです。
「明日やることはあれとあれとあれ」と頭ですませられる人は、タスクリストなど不要だと思うものです。頭だけで完結させられるので、それは一見理に叶っています。
ですがそこで頭に浮かびやすい「あれとあれとあれ」は、実行するタスク全体の中の「代表的」なものに偏りがちなのです。(「日本人は……」とTwitterなどでつぶやいている人の頭の中には、その人にとっての「代表的な日本人」がイメージされているようにです)。
代表的でないタスクは自動的には浮かび上がってきません。ですからめったに実行しないが重要なタスクなどに、意外と手をつけるのが遅れるわけです。
答えるのに簡単な質問に置き換えさせない
私は自分のブログの中で、次のような置き換えが起こることを、たとえとして書きました。
- この大事な仕事をなるべく早く、しかも質を落とさずに仕上げるにはどうしたらいいだろう?
こういう質問は概して次のように置き換わるのです。
→ これは大事な仕事だから、やる気と時間を充分に注ぎ込むべきではないか?
これに対しては「そうだその通りだ」と思うでしょう。何も問題ないようですが、これは半自動的に次のような質問に代わります。
→ 今この大事な仕事を立派に仕上げるための、十分なやる気と十分な時間はあるか?
これに対して「ない! まったくない!」と答えたら、仕事をまったく進めないまま、丸ごと先送りにしそうです。やっていることは単なる先送りなのに、一見論理的に考えて、重大な決断を下したかのごとくです。
ここでのライフハックは「大事な仕事」をそれっぽく見せないようにすること。つまり短い時間を見積もって、雑用のついでにでもやることにすることです。スターやフラグを着けたり、なにも考えず優先順位を上げるのはやめましょう。
無用な情報処理を自動的に行う
最後はこれです。これへのライフハックは簡単で、
- 余計な情報は隠す
に尽きます。
問題は、それをすることが意外と面倒くさいことと「余計な情報」というものがいつも同じではないということです。これは状況次第でどんどん変わってしまうのです。
タスクリストも多くの場合、「やっているタスク」以外のタスク項目は余計といえば余計ですが、前後関係もあるのでやっていること以外全部見えない方がいい、とまでは言えません。
それに、たとえ「隠すべき」だとしても隠す機能をツールが持っているとも限りません。
ただ、せめて「余計な情報」の方からやってくるのだけは極力阻止したいところです。iPhoneなどの「プッシュ通知」など、特別に重要な人もの以外は、なるべくオフにしておきましょう。
スマホ時代のタスク管理「超」入門 | |
佐々木 正悟 大橋 悦夫
東洋経済新報社 2013-01-25 |
各所で好意的な書評をいただき、一年近くもかけて作り上げた甲斐があったと率直にうれしいです。
著者としては「入門書」の位置づけですが「意外に奥深い」などとありがたいお言葉をいただいています。これはやはり「テーマになじみのない人がいかに多いか」をよく物語っていると思います。
知らない人から見るとうさんくさいのかもしれませんが「怪しげ」な方法ではまったくないと思っています。むしろやや当たり前すぎて地味な方法論です。「野菜を食べると健康によい」くらいなものです。
でもそれだって自覚的にとらえると食生活は変わりますし、長い目で見た場合寿命を左右する事柄です。