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ビジネスパーソンにとって、知的生産はなぜ必要か?

倉下忠憲
1969年に出版された『知的生産の技術』(梅棹忠夫)には以下のような文章があります。

p12
社会には、大量の情報があふれている。社会はまた、すべての人間が情報の生産者であることを期待し、それを前提としてくみたてられてゆく。ひとびとは、情報をえて、整理し、かんがえ、結論をだし、他の個人にそれを伝達し、行動する。それは、程度の差こそあれ、みんながやらなければならないことだ。

今日ではブログの普及によって、誰しもが簡単に情報の生産者となれます。特に意識しなくても「知的活動」はいくらでも実行できるでしょう。このような時代において、ビジネスパーソンになぜ知的生産の技術が必要なのか。これについて今回は考えてみたいと思います。

 

コア・コンピタンス

コア・コンピタンスとは「顧客に対して価値提供する企業内部の一連のスキルや技術の中で、他社がまねできない、その企業ならではの力のこと」(※1)です。これは企業に対して使われている言葉ですが、これからのビジネスパーソンに対しても使えると思います。

顧客を企業に、企業をビジネスパーソンに置き換えればコア・コンピタンスは

「企業に対して価値提供するビジネスパーソンの一連のスキルや技術の中で、他人がまねできない、その人ならではの力のこと」

となります。

現在のビジネスパーソンが行っている「仕事」の内訳はさまざまです。ルーチンワークや事務処理などの「作業」もあれば、アイデアを考えたり仕事そのものを生み出したりという「思考」を必要とするものもあります。

ただ「作業」に関しては付加価値を生み出すものにはなりません。企業が他の国の労働者にアウトソーシングしているように、今や高性能なパソコンが「作業」を代わりにやってくれます。そのような「仕事」は差別化にはつながりません。むしろ仕事術などを使いこなして、「作業」にかける手間を最小限に押さえることが必要でしょう。

差別化していくためには、「思考」に関する「仕事」のスキルを上げていく事です。

その人ならではの仕事の技術、あるいはコンピューターが代わりにできない仕事の力、そういったものを高めていかないと、ビジネスパーソンの存在価値はどんどん低下していきます。

「考える」あるいは「アイデアを生み出す」という仕事は、ビジネスパーソンの存在価値の重要なファクターの一部分です。そして、それを担うのが「知的生産の技術」というわけです。

自分のコア・コンピタンスを持つ事、それがビジネスパーソンが知的生産に取り組むべき理由の一つです。

 

セルフブランディング

もう一つの理由が「セルフブランディング」です。コア・コンピタンスが自身の中核をなすスキルだとすれば、セルフブランディングはそれを広める宣伝のようなものです。

例えば、自分の関心あるテーマについて情報を集めて新しい視点で組み立てなおしたり、仕事上での成功事例をエッセイ風に書いてみたり、業界でホットなテーマについて解説したりというような事です。これは、「この人はこんな事に関心を持っていて、こんな事ができる人なんだ」ということを対外的にアピールする行為です。

セルフブランディングに関してもいろいろなコツがあるわけですが、今回のテーマには直接関係がないので割愛しておきます。

今の所、こうした活動はブログを使って_つまり文章を書くことによって_行われています。継続的に文章を書き続けられるスキルがあればセルフブランディングに役立つでしょう。これもインプットからアウトプットまでの流れ、つまり「知的生産の技術」です。

セルフブランディングを推進していくこと、これが理由の二つ目になります。

 

まとめ

仕事術などで、効率化を図り成果を上げやすい体制を整えていく事は大切です。ただそれだけで十分と言えるかどうかは、この不安定な社会構造の中では断言しづらいものがあります。価値を先鋭化していくことも、それをアピールしていく事も重要ではないでしょうか。

最初に引用した文章から一部分だけをもう一度引いておきます。

情報をえて、整理し、かんがえ、結論をだし、他の個人にそれを伝達し、行動する。

この流れがビジネスパーソンが行うべき「知的生産」の工程です。前半部分がコア・コンピタンスを追及することで、後者がセルフブランディングと言えるでしょう。

「ビジネスパーソンになぜ知的生産の技術が必要なのか」という問いは、逆向きに見れば「知的生産の技術を使ってビジネスパーソンは何をすべきか」という風に置き換えられます。私が考えるその答えは

・自分のコア・コンピタンスを持つ事
・セルフブランディングを推進していくこと

この二つです。

▼参考リンク:

※1 http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/corecompetence.html

▼参考文献:

すでに何度も紹介している「知的生産」のスタートとなる本。発見は汲み尽くせないほどあるはずです。

知的生産の技術
梅棹 忠夫
岩波書店 ( 1969-07 )
ISBN: 9784004150930
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

▼今週の一冊:

Evernoteとペーパーレスの関係について何か参考になるかなと思って何気なく買ったこの本ですが、まったく別の、しかも有意義な示唆をかなり得られました。目先の問題を変えるには、そのバックボーンから考え直す必要があるということを実例を踏まえて紹介してあります。ワークスタイルイノベーションという言葉は今後注目を集めるかも知れません。「紙に悩まされている人」よりは「仕事の環境を整えたい・変えたい」と思っている方にとって参考になる一冊です。

野村総合研究所はこうして紙を無くした!
野村総合研究所ノンペーパー推進委員会
アスキー・メディアワークス ( 2010-02-09 )
ISBN: 9784048684095
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

 

▼編集後記:
倉下忠憲
あっという間に夏の気温になりました。「健全な肉体に健全な精神が宿る」という言葉もありますが、しっかり頭を働かせるためには健康にも十分気を配る必要があります。個人的に生活環境が変わるので、なにかしら運動する必要はあるなと考えております。やっぱりジョギングかな…。

 
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。