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教わる「整理術」から、確立する「整理術」へ

By: Sheila SundCC BY 2.0


倉下忠憲
知的生産にとって「情報」とのお付き合いは切っても切れないものです。

もし、あなたが「完璧な整理術」を身につければ全てがコントロールできる、と考えておられるならばぜひこの一冊を読む事をおすすめします。


著者のダグラス・C・メリルはGoogleのCIOをつとめた人物。Googleという巨大な組織を管理してきたその人が語る情報整理術の20の原則が本書の大きなテーマです。

情報整理に関しての本はさまざま発売されていますが、この本が持つ雰囲気はそれらの本と少し異なっています。この本の中では「完璧な整理術」など一つも提唱されていません。むしろ、そんなものは存在しない、というスタンスで著者は話を進めていきます。

整理術のスタート地点

本自体の構成は15の章立てとそれを区分する大きな3つのパートになっています。

  • パート1:自分を客観的に見つめ直す(第1章~第4章)
  • パート2:新時代の整理術を身につける(第5章~第11章)
  • パート3:大小さまざまな困難に打ち克つ(第12章~第15章)


多くの章が割り当てられているパート2の整理術はすでに日本でもかなり普及しているものが多く含まれています。検索に関するトピックス、GMailの使い方、GoogleCalenderの使い方、そして「整理」から「検索」への転換、などは野口悠紀雄氏の「超」超整理法と重なる部分も見受けられます。そういった情報を提供しているブログを愛読されている方には目新しさはあまりないかもしれません。

しかし、特徴的なのはパート1の存在です。「自分を客観的に見つめ直す」とはまるで自己啓発本のような見出しですが、実は整理法を考える前にまっさきに取り組むべきはこういった作業なのです。

個性的な脳

人が整理術を欲するのは、私たちの脳が整理に適した機能を持っていないからでしょう。もし、ある人が見た情報を一瞬で全て記憶して、それらの情報をいつでもどこでも思い出せるならばその人が一生「整理術」についての本を読む事はないでしょう。

つまり、整理術の必要性は脳の機能(多くはその欠点)と強い関係があるわけです。パート1ではこういった脳の機能の制約について解説されています。

「人間の脳」として共通でくくれる機能の制約もありますが、個々の脳にもそれぞれ得手不得手があります。当たり前のようですが、脳の機能にも「個性」があるわけです。であれば、その機能と大きく関係する整理術にも「個性」が必要になってくるでしょう。また、置かれている環境やすんでいる場所、仕事の種類によっても機能する整理法というのは異なっているはずです。

p15
また、本書でご紹介するのは”万人共通”の整理術ではない。受信トレイを常に空にせよとか、コンピューターのファイルをフォルダー階層別に分類せよとか、明細書をデジタルで受け取るようにとか、そんな方法を押し付けるつもりはない。そんな方法に従って生活しなくちゃならないとしたら、私自身が「整理できない人間」のレッテルを貼られてしまうに違いない。

ある人にとって完璧に機能する整理術も他の人にとっては完璧ではないかもしれません。すばらしい切れ味の包丁でも、手の小さい人にとっては扱いにくい包丁かもしれません。それに対して「手を大きくしろ」というアドバイスは恐ろしく空虚です。

まず、自分がどのような環境、個性を持っているのかを認識することが整理術のスタートになるわけです。

ルールではなく原則

この本は20の原則と沢山のテクニックが詰め込まれています。しかしそれらは「ルール」ではありません。

p24
ところで、私が整理術の「ルール」ではなく「原則」という言葉を使ったのにお気付きいただけただろうか? 正直に言うと、私は「ルール」を紹介するつもりはない。「ルール」は人を縛るためのものだ。私の「原則」は、新しいアイデア、選択肢、ツールを「提案」するのが目的だ。あなたにとって最適な整理術を築き上げてほしい。

例えば原則その1は以下のようなものです。

・脳の負担がなるべく少なくなるように、生活を組み立てよう。

脳の機能を最大限に発揮するためには、脳の負担を最小限にする生活をしたほうが良い、という原則です。これだけをみても実際にどのような行動をとればよいのかはわかりません。しかし、読者がどうすべきなのかは著者にだってわかりません。

自分にとって適切な行動は自分で考える必要があります。

立って本を読めば読書が進む人も入れば、そうでない人もいます。付箋を使う事で物忘れを防げる人もいれば、メールの方がよく見るので忘れにくい、という人もいるでしょう。

結局のところ、「万能で万人向けの整理術」など存在しないのです。

まとめ

この本は、押し付けがましい点がほとんどありません。あくまで原則の提案およびツールとそのテクニックの紹介です。逆に言えば、この本の20の原則を読んだからといって即座に情報がうまく整理できるようになる、ということもありません。

提示された20の原則を見て、自分の人生においてその原則がどのような意味を持ちうるか、実現させるためにはどのような方法があるのかを考え、実行・修正していく必要があります。

そういった作業の中で形作られるものこそが、あなたの「整理術」となるわけです。

多くの情報に押しつぶされている方は、一度深呼吸をして「それは本当に必要なのか」、「どんな目的で使うのか」を自問することから始めて、自分なりの整理術の確立を始めてみてはいかがでしょうか。


▼合わせて読みたい:

本文中でもふれましたが、デジタル時代の情報整理に関してのテクニックは以下の本に情報が満載です。

「デジタル・オフィス」の実現に向けてGメールを活用する野口氏の方法は参考になるポイントが多く含まれていると思います。

超「超」整理法 知的能力を飛躍的に拡大させるセオリー
野口 悠紀雄
講談社 ( 2008-09-18 )
ISBN: 9784062149488
おすすめ度:アマゾンおすすめ度


▼編集後記:
倉下忠憲
本文中で「押しつけがましい点がほとんどありません」と書きました。実は「スマートフォンを持った方がいい」というアドバイス(原則ではない)があるのですが、それだけがやや押しつけがましい感はあります。

すくなくともちょっと試しに持ってみる、というわけにはいきません。

しかし、iPhoneユーザーの一人として、「持ってみてもいいかもよ」ぐらいのオススメをしたい気持ちは十分にわかります。新井ユウコ さんの「今さらiPhone」という連載も参考になると思います。持っておられない方もそろそろ検討してみてもいいんじゃないでしょうか。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。