前回は、知的生活について少し書きました。
自分自身の頭を使って、静かに考えること。十分に納得できるまで、考え続けること。それを生活に織り込んでいくこと。それが知的生活です。つまり、知的生活とは考える生活、考える生き方なのです。
では、こうした生活を送るために必要なものとは何でしょうか?
それは「書斎(ライブラリ)」と、そこで過ごす「時間」です。
書斎の二装備
まずは書斎です。
書斎と言っても、書棚が据え付けられた立派な部屋を指しているわけではありません。もちろん経済力が許すならそういう部屋を作ってもいいのですが、あまり現実的ではないでしょう。こぢんまりしたスペースでも十分です。自分の部屋にこだわる必要もありません。ただ、ゆっくりと考えごとができる空間があればそれでよいのです。
できれば、その書斎には二つのものがあると良いでしょう。
一つは「ライブラリ」で、もう一つは「ワークスペース」です。
ライブラリ
「ライブラリ」は、ようするに本棚なのですが、ある種の資料をストックしておく場所というイメージを持っていただければよいでしょう。考えごとをするためには、参考にしたい本や、思考の触媒となるような資料が必要となります。それを「すぐ手に取れる」場所に配置しておければ、考えごとが妨げられません。
また、その「ライブラリ」には、自分の考え方や価値観の骨子となってきた本も置いておきたいところです。いわば、自分の古典とも呼べる本たちです。
前者の本や資料をライブラリに置いておくことは、単に効率性の問題ですが、後者の古典はそれとはまた違った効能を持つことでしょう。
ワークスペース
「ワークスペース」は、作業場所ということですが、ようするに書き物をする場所が書斎には必要です。
「考えごと」は頭の中で行われるわけですが、実際その場所は混沌としており、また手狭でもあります。補佐する装置がなければ、なかなか前には進みません。複雑な計算は、暗算せずに筆算するでしょう。それと同じことです。
そこでノートやらカードを使うわけですが、それを広げられるだけの空間が必要になってきます。
時間
そうして書斎を準備しても、そこで過ごす時間を作れなければ、何の意味もありません。
そして、おそらくそれが一番難しいことでしょう。
現代を生きる人は、豊かさに裏打ちされた自由な時間を手にしてはいますが、その反面複数の役割を背負い込むことで忙しさも増しています。しかも、それだけではありません。「いつでも、どこでも」私たちのもとに押し寄せてくる情報が問題です。そうした情報に取り囲まれている間は、たとえ空間的に書斎にいても、「静かに」ものを考えることはできません。
しかしながら、今「押し寄せてくる」といかにも情報の方に問題があるような書き方をしましたが、実際は私たちの方が情報を「見に行っている」のです。つまり、ドアの開けようとしているのは自分なのです。
問題が押し寄せてくる情報にあるのならば、スイッチを切れば済む話です。しかし、見たい気持ちが内側から湧き上がってくるならば対処はより困難となります。よって、現代の知的生活では、メディアとの付き合い方、時間の使い方についてより慎重に検討されなければならないでしょう。
さいごに
今回は「知的生活」ではなく「知的生活2.0」としました。
それは、現代的なテクノロジーのおかげで、知的生活の在り様も変化しているからです。
たとえば、Kindleなどの電子書籍によって、スマートフォンやタブレットがあるだけで、自分の「ライブラリ」にアクセスできるようになりました。Evernoteもそれを助けてくれます。そうした技術をうまく使えば、カフェの隅っこの席を自分の「書斎」にすることだってできます。
また、SNSの普及により、物理的には一人でも、心理空間的にはいつでも対話ができるようにもなっています。これまで、思考の触媒を提供してくれるもっとも良いパートナーは本でしたが、そこに他者も加えられるようになりつつあると言ってもよいでしょう。
そうして、知的生活の在り様は広がりを見せてはいるのですが、良いことばかりではありません。どのようなメディアに、どのくらい接するのか。そうした時間の使い方のデザインが、欠かせなくなりつつあります。でなければ、ショウペンハウエルが『読書について』で指摘したような問題に、現代を生きる人も悩まされてしまうことでしょう。
書斎には自分の足で入り、そのドアを自分の手で閉めなければならない。
このことは十分留意しておいた方がよいかと思います。
▼参考文献:
考えないで本を読むことの弊害と、くだらない本のくだなさについて辛辣に書かれています。
当エントリーと趣旨を同じくする本です。実践的な内容も。
» あたらしい書斎
▼今週の一冊:
お手軽ライフハック系の本なのかな、と思ったんですがちゃんとした本です。あと、読んでいても面白いですね。
「たいていのこと」は20時間で習得できるらしいのですが、「なんでも」ではありませんし、また楽々というわけでもありません。やはり、そこにはマジックアイテムはないようです。
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Follow @rashita2
発売から5年ほど経っていますが、このたび『Evernote「超」仕事術』がKindle化されました。結構嬉しいです。他の本のKindle化も期待しております。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。
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