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『数学文章作法 推敲編』で学ぶ推敲の進め方

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photo credit: matsuyuki via photopin cc

倉下忠憲文章は一読にして成らず。

書いては読み返し、読み返しては書き直す。それを繰り返し、少しずつ「良い文章」へと近づけてく。それが著者の役割であり、責任でもある。

ということがよくわかる一冊です。

» 数学文章作法 推敲編 (ちくま学芸文庫)

概要

本書は、「数学文章作法」シリーズの第二弾です。

第一弾の『数学文章作法 基礎編』では、「文章の書き方」の技術が紹介されていました。タイトル通り基礎的な技術の紹介で、書き手の最初の一歩を助けるものでした。本作では、一度書き上げた文章を手直しする技術が紹介されています。つまり、二歩目にあたる一冊です。

続編的な位置づけの一冊ではありますが、本書だけでもライタースキルのアップには役立つでしょう。なにしろ推敲は文章を書く上で欠かせない工程であり、文章の質を決定づける工程でもあります。これを軽んじることは、読者を軽んじることにもつながります。

目次は以下の通り。

第1章 読者の迷い
第2章 推敲の基本
第3章 語句
第4章 文の推敲
第5章 文章全体のバランス
第6章 レビュー
第7章 推敲のコツ
第8章 推敲を終えるとき
第9章 推敲のチェックリスト

「読み返して、書き直す」工程で必要なことが丁寧に解説されています。

読者のことを考える

「数学文章作法」シリーズに通底している原則は「読者のことを考える」です。

よほどひねくれた人でない限り、この原則に反論するのは難しいでしょう。その文章が「伝える」ために書かれているならば、読者のことを無視してよいはずがありません。だから、「読者のことを考えましょう」と言われれば「はい、そうします」と簡単に頷けます。

しかし、「読者のことを考えて文章を書くとは、どういうことか」というのは案外難しいものです。考えているつもりでも、的外れだったり、考えきれていないことは充分ありえます。

本書では、具体的な「文章の手直し」の実例を挙げながら、その中で「読者のことを考えるとは、どういうことか」を明らかにしていきます。つまり、実際にどういう疑問を持って文章を手直しすれば、「読者のことを考えた」状態と言えるのかが語られているわけです。これは大いに参考になるでしょう。

もしかしたら、本書で紹介されているような手直しを「いちいち細かいな」と感じられるかもしれません。でも、多くの(あるいはほとんど全ての)書き手がこうした細かい手直しを積み重ねて文章を書き上げています。荒っぽい言葉で言えば、それが「当たり前」なのです。

たとえば、私の

以前に書いた記事の中で、私が文章をどのように手直ししているのかを紹介したことがあります。

文章の手直しプロセス(note)

ここで私が自分に投げかけている問いは、まさに本書で提示される問いそのものです。こうした自問によって、文章の精度を上げていく、というお話は前々回の記事でも紹介しました。

この工程をすっ飛ばして文章を完成させるのは、切った木材をヤスリをかけないまま販売するようなものです。そうしたワイルドさに価値が出る場合もありますが、たいていは好まれないでしょう。

ヤスリをかけることは難しい作業ではありません。しかし、数を重ねることは絶対的に必要です。文章のヤスリがけにも同じことが言えます。地道に「読みやすいのか?」「伝わりにくくないか?」「誤解されないか?」といった問いで文章を研いでいかなければなりません。

あなたの文章

本書には、好感を持てるポイントがいくつかありますが、中でも「書き手の責任を強奪していない」のが一番好感触です。「こうすれば読みやすい文章になります」という絶対的な「答え」を与えていないのです。

もし、そのような「答え」があり、書き手が盲目的にそれに従って文章を書いたとしたら、まったく読者のことを考えていないことになります。自分はどのような伝えたいことがあり、それを受け取る読者はどのような人なのか。そして、その人に届けるためにはどういう書き方をすればいいのか。そうしたことを一切考えず、ただ「答え」に沿った文章を書くのは、強い言葉で言えば、書き手の責任放棄です。

「読者のことを考える」のは書き手の仕事です。そして、考えた結果に応じて判断を下すのが書き手の責任です。

そのポイントは外さないでおきたいところです。

さいごに

スラスラ文章を書く、というのはたいてい幻想です。熟練した物書きでも、推敲で文章を何度も手直しすることは珍しくありません。というか、日常風景でしょう。

これは、一つの希望です。

自分が書き出した一文が非常にみじめなものでも、推敲を重ねていけばそれなりの形に整えることができます。少なくとも、そう信じることができるなら、書き出す気持ちが楽になるでしょう。

しかし、これは絶望であるかもしれません。

なんといっても、簡単に良い文章を紡ぐことなどできないわけですから。

あなたが希望と絶望のどちらを感じられるかはわかりませんが、推敲が大切であるという点だけは動きようがありません。あとは、それとどのように付き合っていくか、という話です。

▼参考文献:

ほんとうに基本的なことですが、基本的であるがゆえに大切です。解説はまさに「過不足無し」という感じのシャープなもの。本書自身が読みやすく書かれている点にも説得力があります。

» 数学文章作法 推敲編 (ちくま学芸文庫)


» 数学文章作法 基礎編 (ちくま学芸文庫)


▼編集後記:
倉下忠憲



とある場所で今月中に脱稿すると宣言したので、有言実行にすべく日々原稿三昧です。さて、あと何日あるのかしら・・・。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。