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楽しく知的生産 第三回:楽しく発想する



倉下忠憲「楽しく知的生産」シリーズ第三弾。今回のテーマは「発想」です。

そもそもとして、発想は楽しいものです。楽しくなければ、発想は生まれません。というと、いささか語弊がありそうですが、精神がプラスの方向に動いていないとなかなか生まれてくるものではありません。

たとえば、渋滞に巻き込まれてイライラしているとき、イライラしているだけであれば漫然と時間は過ぎていきます。でもそこで、「もし渋滞を絶対に起こさないような道路があるとすれば、どのようなものだろうか」とか「渋滞に巻き込まれても、人が絶対にイライラしないような道路はどのようなものだろうか」と視点を変えられれば、何かしらのアイデアが生まれるかもしれません。

つまり、スタートは負の感情であっても発想は生まれるのですが、負の感情に飲まれている間は思考が止まってしまうのです。そもそもとして、発想とは視点の変更なわけで、感情的な視点に固執してしまっている間は、発想は生まれようもないのです。

だから、楽しく発想するためには、いかに楽しく視点を動かせるかがポイントとなり、そのためにはやっぱりゲームが活躍します。

連想ゲーム

発想の基本は、連想です。そして連想は、反応でもあります。言い換えれば「考える」という意識的な行為よりも、「思いつく」という無意識的な行為に近いのです。

そのため、大切のなのは「より多く思いつけるようになる」ことと、「思いつきを阻害しないようにする」ことの二つです。この二つが、連想力を支えています。

一見、後者より前者の方が難しそうですが、実際は後者の方が難しいものです。私たちはついつい「こんなことを考えている場合ではない」と連想を遮断してしまいがちです。まともな社会生活を送る上では必要なことなのでしょうが、連想はむしろぼんやりとした意識の中で広がっていきます。

なので、「これはゲームなのだ」と言い聞かせて、3分でも5分でもある対象について思いつくままに考えを出していく時間を設けてみるとよいでしょう。要は、発想を行う上での基礎トレーニングです。

しかし、「基礎トレーニング」と呼ぶと眉間をしわを寄せがちになるので__それが連想を阻害するわけです__、ゲーム感覚で楽しむと良いでしょう。

穴埋め問題

「君が見た○○、僕が見た○○」

という文章を見かけた場合、この○に何かしらの言葉を当てはめたくなる方は多いでしょう。正解があるわけではないので、さまざまな言葉を当てはめられるわけですが、まさにそれは発想のトレーニングとなります。

とは言え、上記のような穴あき文章が日常に転がっているわけではありません。そこで、自分でマスキングをします。

たとえば何か気になる本のタイトルを見かけたとして、それが『Evernote「超」知的生産術』だったとしましょう。マスキングの対象は大きく三つ設定できます。

  • 『○○「超」知的生産術』
  • 『Evernote「○○」知的生産術』
  • 『Evernote「超」○○術』

あとは、それぞれで穴埋め問題を楽しみます。ここで生きてくるのが連想力です。仮にEvernoteからDropboxを連想するなら、

  • 『Dropbox「超」知的生産術』

というタイトルができます。あるいはEvernoteから情報カードを連想するなら、

  • 『情報カード「超」知的生産術』

ができますし、シリコンバレーを連想するなら、

  • 『シリコンバレー「超」知的生産術』

ができます。

いくらでも湧いてきますね。それをゲーム感覚__何も成果物がなくても気にしない感覚__で楽しみましょう。

状況パズル

上記の「穴埋め問題」は、一種の言葉遊びです。でも、これは概念操作でもあります。言い換えれば、同じことはコンセプトにも応用できます。

たとえば、カフェがあり、そこに男性客が大勢来店していたとしましょう。その男性客という部分をマスキングして、連想すれば「女性向けのカフェ」や「動物向けのカフェ」といった発想が出てきます。提供される商品をマスキングすれば、飲み物や食べ物だけでなく、男性客がニーズを持つ商品まで展開できるはずです。こういう考え方が、発想の基本的な流れです。

しかし、それだけでは十分ではありません。もう一歩進む必要があります。

たとえば、『シリコンバレー「超」知的生産術』というタイトルを思いついたとして、次に「じゃあ、その本にはどんなことが書かれているだろうか?」を考えなければいけません。カフェのマスキングでも同様に、どんなサービスなのか、どのような制約があるのかをイメージしていく必要があるでしょう。そこまで考えを進められれば、「思いつき」はぐっと「アイデア」に近づきます。

これは要するに、「もし、~~だったら」「もし、~~があったら」という仮説を立て、そこからアイデアを展開していく思考法です。最初に紹介した、「もし渋滞を絶対に起こさないような道路があるとすれば、どのようなものだろうか」も同じです。自らで状況(シチュエーション)を設定し、その解法を探すという「状況パズル」に慣れてくれば、発想はより楽しみを増してくるでしょう。

さいごに

上記のようなお話に、ちらっとでも「面白そう」「楽しそう」と感じたのならば、発想親和性があります。言い換えれば、アイデアパーソンの素地があります。

逆に楽しそうに思えなかったり、拒絶に近い違和感を感じたのならば、あまり発想やアイデアとは関わらない方が良いかもしれません。何事にも適正というのはあります。もちろん、経験を重ねれば、感覚もまた変わりうるでしょうが。

▼今週の一冊:

一言で言うと、有益な本です。

「自分の書いた文章を、自分でチェックしましょう」というアドバイスは多いわけですが、「どんな部分に、どう注目すればいいのか」まではあまり具体的に語られません。かといって、プロの校正術を身につけるのはハードルが高すぎるわけです。

本書は、ジャストサイズの、かつ実用的なアドバイスが詰まっています。

» セルフパブリッシングのための校正術 (群雛文庫)[Kindle版]


▼編集後記:
倉下忠憲



すでにカレンダーは6月を表示しているわけですが、「ダマされているのではないか?」と思うくらい時間の流れが速いですね。そろそろ40歳という年齢が視野に入ってきて、「やれやれだ」と首を振りたくなってきました。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。


» ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由