「買わなければ損」という状況を作り出す
「お客様は神様です」と言いますが、果たしてそうでしょうか。近ごろ、コンビニの前では若者がしゃがみ込んだりして、本当に見苦しいですよね。立ち読みだけで買わないどころか、強盗を企てるようなやからもいる始末です。これではとても神様とは呼べません。
では、どうすればいいのでしょうか。答えは一つ。「買わん客は来んでエエ、行儀の悪い客は店に入れへん」です。
「客足が遠のく」という不安もありますが、心配はありません。売り手市場を作ればいいだけのこと。これは消費者をもうけさせ、「買わなければ損」という状況を作り出せばいいのです。「買う側の競争」ならば、お客さんが押し寄せて売り手市場になります。
『選客商売』(p.16)
損して得取れ、と言いますが、損ばかりでいっこうに得が取れないのであれば、考え方とやり方を改める必要があります。
サービス提供側である「自分」と、提供相手である「お客さん」の損得を考えるために、以下のようなマトリクスに整理してみました。
理想は右上の、双方が得をする「正直な商売」です。ここで言う「正直」とは「バカ正直」ではなく「本来あるべきと考える理想に対して正直」という意味合いです。
残りの3つについては特に解説は不要かと思いますが、気をつけないと「こうすればOK」という有象無象の言説を真に受けて知らず知らずのうちに「いい商売」や「残念な商売」に陥ってしまいます。
よかれと思ってやっていることが裏目に出てはもったいないので、今回は『選客商売』という本の中から「正直な商人」になるための考え方をまとめてみます。
改めて、誰もが損をしない仕組みを作ること
以下でも書いた通り、やはり「誰もが損をしない仕組み」が大事です。
この3つのことを一言に要約すると、「誰もが損をしない仕組み」をつくる、という1つの法則まとめられます。
相手が喜んでお金を払ってくれて、
提供する自分も楽しむことができ、
さらにこの取引関係を無理なく続けられる状態です。(中略)
やはり最初に相手の利益を考えることが大事です。
『選客商売』の主役はファンデという下着店です。市価の半額から9割引で売られており、その販売方法のユニークさで知られています。
ファンデでは「世界一安く」を掲げて実践しています。いつもお客さんがビックリするような価格で商品を並べるのです。
ただし、そのためにはお客さんの協力が不可欠です。まずご理解いただかなければならないことがあります。
(1)段ボール箱での商品展示
(2)狭い店内での買い物
(3)セルフサービス
(4)返品はお断り
(5)レジは一日一回限り
(6)試着はできません
(7)包装はしませんので、購入した下着を入れる袋は用意してきてもらいます。そして買い物中のお願い。
(8)商品は両手で丁寧に扱い、元通りに畳んで戻す。
これらを素直に受け入れていただいた方のみ世界一安いファンデの商品を買うことができるのです。(p.17)
上記のような「ルール」を守らない客はすかさず怒鳴られ、店から追い出されます。
一見すると、ごう慢なお店だと感じられるかもしれませんが、この姿勢の根底には最初に相手の利益を考えることがあります。
「商売の道とは、ただ物を売ることやない。良品を生み出すことや。より良いものを世界一安く作る。一番もうけて得をするのは善良な消費者でないとあかん」(p.16)
ここが出発点になっているのです。
正直者が得をする「正直な商売」
今の世の中「正直者はバカを見る」という風潮があるようです。悪いことをしてもバレなかったらいいと思っている人がどれだけ増えたことでしょう。正直な人、素直な人はさぞかし肩身の狭い思いをしていることでしょう。
でも、ご心配なく。ファンデでは正直者、素直な人が得をする店を銘打っています。ルールを守る正直者、注意を聞き入れる素直な人にはお買い上げ金額に応じて協力金をお渡ししますし、商品の情報もお伝えします。
「○○入荷してるよ。いるんやったら奥から出すけど」「今度、○○仕入れるから来週おいで」といった具合です。(p.20)
では、どんなお客さんが「正直者」なのか? その事例。
高級クラブの経営者だと思うのですが、いつも気持ちの良い買い方をしてくれる常連さんがいます。背筋がシャキッと伸びていてスーツをビシッと着こなしている。それでいて人懐っこい。
「また来たよ。前に言ってたブラジャー入荷した?」と言いながら、サクサクと商品を選んでレジに持ってくる。手際の良さもさることながら、商品の扱い方も丁寧。さすが、プロは違うなあと感心してしまいます。
それに買う商品の単価は高く、量も多い。いつもこの調子ですから、会社がもうかっているのは一目瞭然ですよね。この方の紹介で来る人もまた、きっぷのいい人ばかり。
そして、帰り際に「ありがとう」の言葉を忘れない。こちらも気持ちがいいし、こういった方たちには良い情報をお伝えしたくなります。(p.21)
これこそまさに、双方が得をする「正直な商売」の体現といえるでしょう。
10人のうち2人は、よそのお客さんと割り切る
小さな店では資金も売り場も限界がありますから、お客さんの層を絞り込む必要が出てきます。すべてのお客さんの要望に応えるように何でもそろえようとすると、種々雑多で品薄になってしまいます。
お客さんには、「ロクなものがない店」と映ってしまい、足も遠のいてしまう。だから10人のうち2人は、よそのお客さんと割り切ることが必要なのです。
つまり100人来たら20人にはお引き取りいただくことになる。これはターゲットを絞り込むことであり、ターゲットのお客さんからすると、デパートより品ぞろえが豊富な店になります。(p.36)
さらりと書いてありますが、この「割り切り」を実践するためには、
- 自社(自分)は何を売りたいのか?(何をもって世の中の役に立ちたいのか?)
- それを喜んで買ってくれる相手はどんな人か?
という2つを明確に把握しておく必要があります。
さもないと、戦わずして負けることになります。
自分のことをわかったうえで、どんな人の役に立てるのかを知り、そこに一点集中するわけです。
どんな相手にも対応できるように自分を変えていくのではなく、相手を限定して、そこに自分を最適化させていくのです。
では、どうすれば「自分のこと」が分かるのでしょうか。
一言でいうと、「切実に埋めたいと思えるギャップを見つける」ことです。「短大出の家庭教師」の目を引いたのは、「有名私学を目指す」ことと「せめて高校ぐらいは卒業しておきたい」という2つの間に横たわるギャップです。
世の中を眺めた時に、どうしても放っておけないこと、あるいはなぜか引っかかることが少なからずあるでしょう。そこには自分の過去から現在に至るまでの間に身に起きた出来事と何かしら接点があります。
接点があるから、引っかかるのです。
自分というブラックボックスの中身をを分かろうとすれば、このように外に飛び出した引っかかりに注目するしかないわけです。
こうした引っかかりを丁寧に拾い集めていった先にたどり着くのが、
「自分にとっての戦うべき場所」です。
まとめ
今回は『選客商売』の第1章に絞ってのご紹介でしたが、ファンデの考え方は自分の名前で仕事をしている人、しようとしている人にとって、特に不確実な時代において、欠かせないものだと考えています。
一人または少人数という機動性の高さを活かし、自分(たち)の価値が最大限に発揮できる場所を見つけ、そこに一点集中する。
そのためにも「買わん客は来んでエエ、行儀の悪い客は店に入れへん」という姿勢がどうしても必要なのです。
最後に第1章の「格言」をいくつかご紹介します。
- 店を選ぶのは客の責任、客を選ぶのは店の責任
- 本物のサービスとはゼニをかけずに行うもんや
- 正直者が得をすると、店の評判は自然と上がる
- 「あんたには売らん」と言い切れる商売をせんとあかん
- 「理想は高めに、妥協は低めに」がルール徹底の決め手
- 人の首は縦に振りやすいようにできている
- 金のかかる宣伝はするもんやない
- 一番もうけて得をするのは消費者でないとあかん
第2章以降もハッとさせられる叱咤と格言に満ちていますので、「選客」に悩んでいる方には一読をおすすめします。
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「損をしない仕組み」を作るには、すでに発生している「損」に注目すればよく、その「損」が具体的にいくらなのかを調べれば、おのずと「損をしない価格」が浮かび上がってくる、というわけです。
どんな「損」を解消してくれるのかが明確で、その「損」を解消してもおつりが来る価格設定であれば、相手は喜んで買ってくれる、ということになります。