こういう使い方をする人がいるとは、当初想定していませんでした。TaskChuteのことではなくModeのことです。
Modeはもともと私が大橋悦夫さんに提案したものでしたが、提案理由自体は単純なもので「タスクを実行するということは何かをするということで、その何かの種類は行動の種類で限られているのだからそれによってタスク分類できると便利」といった程度のことでした。
だからあるタスクが「どれほど重要か」とか「どれほど緊急か」といったことをここで分類することは全然考えていなかったのです。たとえば「ブログ執筆」も「書籍原稿」もやることが同じ「執筆」ならそれで束ねたいと思っていたに過ぎません。そういう束ね方をすることは、大変便利なのです。
「7つの習慣」を実践するためのツール
と思っていたのですが、jMatsuzakiさんはTaskChute2のModeをまったく違う使い方をしています。ちょっとしたショックを受けました。
松崎さんはModeを4つだけに限定してしまっているのです。『7つの習慣』でおなじみの「4つの領域」とModeを対応させるという使い方です。
知らない方のために「4つの領域」というのをここで簡単に紹介します。これも松崎さんのブログからの引用ですが、次のような図式が非常に有名です。
一つお断りしておきますとこのそれぞれの領域に「憂い」とか「憂さ晴らし」とか「穀潰し」といった名称をつけたのは大橋悦夫さんです。この辺はセンスですね。
私が留意を促したいのは、この「4つの領域」の分け方はあくまでも「主観的な基準」に従うという点です。人間が現実に行う活動は極めて具体的で「4つ」に分けきることができるものかどうか、はなはだ難しいところです。「7つの習慣」の一つの魅力はこの非常にイメージしやすい「四分割」で人間の活動をスパッと割り切ったところにあるのです。
しかし、ここからが非常に難しいところですが「この通りやれば絶対に人生が好転しそうだ!」と印象づけられるのが優れた自己啓発書というものですが、問題は「この通りやる」ことが誰にでもできるかという点と、著者が本当に「その通りやったか」どうかが実は決して分からないところにあるのです。
『7つの習慣』を読んだ人は世界中にごまんといます。(もっといます)。でも著者の言うとおりにやって大成功を収めた人というのは、その1%に遠く及ばないでしょう。正否に時の運がつきものという点をおいても、そもそも「著者が言ったとおりにやれた人」ですら1%に及ばないでしょう。
松崎さんがやったのは『7つの習慣』を読んだ読後の興奮を抑えて、実際に「第2領域」に時間を注ぎ込む方法を検討したということなのです。そればかりではなく、その自己啓発書にあった方法を実行するためにツールを用いることにしたのです。そのツールというのがTaskChute2であったわけです。
どう時間を使ったかの記録は、どう時間を使うつもりだったかの意図に、どの程度影響されているか?
松崎さんが実際にどうやっているかは、先ほどのと同じエントリから図で引用します。上図の通りです。
これはありきたりのことをやっているのでは決してありません。1日の時間の使い方を4分割しているのです。
TaskChuteでは全ての活動にかかる時間を検討します。同時に全ての活動にかかった時間を記録します。それが4分割されているということはあらゆる活動を4つの領域のうちのどれに費やすべきかを検討し、実際にはどう使ったかを記録することになるのです。
これは非常に具体的で鮮明です。明日から英語の勉強など「喫緊ではないが大事なことに時間をもっと使おう!」と決意しても、いかにそれが実行しがたいかは誰もが知っているとおりです。すなわち「決意する」→「くじける」→「自分の意志が弱いと嘆く」という流れで終わってしまいやすいのです。
そのような流れを避けるには、そもそも「決意する」前にやらなくてはいけないことがあるのです。それは実際自分がどんな時間の使い方をしているかを把握するということです。そうすることで初めて自分自身の「第1領域」や「第3領域」や「第4領域」が何時頃、各何時間ずつあるかを把握できます。それができないならどの時間帯に「第2領域」を何時間くらい確保できるかも決して分からないでしょう。
しかし、第二領域の活動を増やすためには、他の3つの領域がどれだけの割合を持っているか把握することが必要不可欠です。
ただし松崎さんの言うとおり、これは決して容易なことではありません。結局これをやるということは、私が多くの人にしょっちゅう言われるとおり「病的なまでに時間管理を徹底する」ような印象があるからです。すなわちTaskChuteを使うということになるのです。
ただしTaskChute2を使って主観的に時間を4分類できた暁には、極めて有益な環境が手に入ります。自分がどう「大事な時間を確保しているか」が浮き彫りになるのです。
極端な話をすればいろんなことを決意したりイメージを描いたり目的意識を強くする努力すら要らなくなりそうです。ただ「第2領域」=松崎さんのTaskChute2の緑の面積を広げていけばいいのです。そのように自分の行動を方向付ければ自ずと「第2領域」へ使う時間が増えていくというわけです。
この「●●を目指しさえすればいい状態にする」というやり方はとてもやりやすい。人間がふだんやれないことをやり遂げるには簡単化こそ効果的なのです。今のところ松崎さんがあげている成果は次の引用の通りです。これをどうとらえるかは人それぞれでしょうが、たとえば「英語の勉強をしよう」と決意した人が週に40時間も勉強できているなら、私ならそれを多とします。
私はTaskChute2によるタイムマネジメントで、一週間で第二領域に割ける平均的な時間をどうにかこうにか40時間まで増やすことができました。しかし、これはまだ1週間の内の25%に過ぎません。
TaskChute2はほとんどでませんが「まず記録を!」という趣旨で本を出しています。とにかく人は決意してばかりいます。貯金、ダイエット、ランニング、読書。決意より先に記録を残しましょう。
この本は必ずしも「習慣術」の本ではありません。「まず記録」という点に70%の比重を置いた本です。「まず走る!」という人があまりに多い印象があるからです。貯金などは最も典型的かつ残念なフィールドです。お金というのは時間と違って使わなければなくなりません。貯まらないからには使っているのです。
貯金がゼロということは収入をほとんど使っているということです。ほとんど全部使っている以上、使い方を把握しない限りめったにお金は貯まりません。お金を少しでも貯めたいと思うなら、お金をどう「貯めていないか」を把握するのが第1歩です。
記録するだけでうまくいく | |
佐々木 正悟 富 さやか
ディスカヴァー・トゥエンティワン 2012-03-12 |