なんにもしらないことはよいことだ

倉下忠憲
記事タイトルは、『梅棹忠夫のことば』という本の中でトップバッターにあげられている「ことば」から持ってきました。


この本は梅棹先生の著作の中から刺激的な言葉を選び、そこに小長谷有紀氏が解説を付け加える、という構成になっています。この連載のテーマである「知的生産」に関係することばをその中からいくつか紹介してみます。


「なんにもしらないことはよいことだ」

なんにもしらないことはよいことだ。自分の足であるき、自分の目でみて、その経験から、自由に考えを発展させることができるからだ。知識は、あるきながらえられる。あるきながら本をよみ、よみながらかんがえ、かんがえながらあるく。これは、いちばんよい勉強の方法だと、わたしはかんがえている。

これを逆から考えれば、「自分の足であるかず、自分の目でみない」ような経験では、自分の考えを発展させることはできない、とも捉えられます。

現代では情報は検索でいくらでも見つかるので、知識は瞬く間に蓄えられます。情報についての評価も他の誰かがやってくれていることも多いでしょう。しかしその環境に慣れきってしまうとオリジナルな着想は出てきにくいかもしれません。

疑問を持つことがアイデアのきっかけになる場合が多々あります。そう考えると、疑問を持てる状態__なんにもしらないことは別段悪いことではないでしょう。もちろん、そのままの状態で良いわけではなく、そこが出発点としてふさわしい所だ、ということです。

読書カードにかくべきこと

読書カードをつくるときにかくべき内容は、読書によって誘発された自分のひらめきや着想であって、本の抜粋ではない。内容をみる必要があれば、その本をもう一どひらけばよいのだから。

「読書カード」につくり方については、本の種類によって対応が分かれると思います。実用に特化した本の場合だと、本の抜粋を作るのは有用です。

例えば、ビジネス書などでは「レバレッジ・メモ」のスタイルで本の内容を凝縮したメモを作ることは活用において必要なポイントです。しかし、その場合でもそこに書き込むべきことは「自分が大切だと思ったこと」「実行してみようと考えた行動」などです。上手な本のまとめを作ったとしても、それが将来の自分の役に立つ確率は低いと言えます。

実用書以外では、自分がその本を読んで考えたこと、思いついたこと、疑問を持ったことを中心にメモしていけばよいでしょう。

私も、自分の行動に反映させたい内容は「レバレッジ・メモ」形式で、それ以外の着想は読書ノートの形でEvernoteに蓄積してあります。これらは後から見返すといろいろな発見が出てきますし、ブログのネタや新しい企画の際の種にもなってくれます。

これは読書だけの話ではなく、自分が体験する全ての出来事に通じる話かもしれません。

自分という他人

したがって、コードなしの記号や、自分だけにわかるつもりのメモふうのかきかたは、しないほうがよい。一年もたてば、自分でもなんのことやらわからなくなるものだ。自分というものは、時間がたてば他人とおなじだ、ということをわすれてはならない。

これはメモの取り方・カードの書き方についてアドバイスです。一年も経てばとありますが、メモの走り書きならば一晩すら怪しいこともあります。

「自分というものは、時間がたてば他人とおなじだ」というのは肯定的に捉えることもできますし、否定的に捉えることもできます。

肯定的な部分では、時間の経過を利用することで、一つのアイデアを重層的に検討することができるという点があります。「メタ・ノート」的な手法はこれをうまく活用しています。

否定的な部分は、書いたメモの内容が判読しきれない、という点です。メモがあるのに内容が分からないということは、メモしていなければ覚えておくことなど不可能でしょう。

ちなみに、メモをよくとる人ほど「僕は物忘れがひどくて」とか「記憶力に自信が無いんだ」という言葉を使われるのではないでしょうか。それはもちろんメモをとっているから記憶力が悪くなったのではなく、記憶力に自信が無いからメモをとるようになった、ということだと思います。あるいは、メモをとることで、はじめて自分の記憶力のなさを「発見」した、といえるかもしれません。

それはともかく、「自分という他人」との付き合い方は身につけておく必要があるでしょう。

さいごに

今回は3つのことばを紹介しました。本書にはあと90以上もの刺激的なことばが掲載されています。中には次のようなことばも。

博物館というところは、知的欲望を開発する場なのです。

本書はその「知的欲望」を開発する場の屋台的存在と言えるかもしれません。

▼合わせて読みたい:

本の内容を凝縮して自分にインストールするための「レバレッジ・メモ」の手法についてはこの本を。

メタ・ノートという手法で、アイデアを少しずつ醸成していく方法についてはこちらの本を。

▼編集後記:
倉下忠憲
 発売日に購入したiPad2ですが、すごく気に入っています。

特にペンとノートアプリのセットがiPhoneでもPCでもない感覚をもたらしてくれています。ビュアーとしても優秀ですが、個人的には次世代「ノート」として使い込んで行きたいと考え中です。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。

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