文章執筆前の3つのアプローチ

倉下忠憲

いよいよ4月。仕事、職場、といった自分の周りの環境が変わるシーズンでもあります。あるいは新年度からブログを始めてみようと思い立つかもしれません。そうした環境の変化で、今まであまりやってこなかった「文章を書く」という作業が必要になっている方もおられることでしょう。

実は、文章の書き方にはいくつかの方法があります。書き方も一種の「技術」ですので、知識を身につけ実践していけば自ずとスキルは上がっていくものですが、どんな方法でも良いかというと、そこには相性というものが存在します。

そもそも、文章を書くという作業には二つの行程が含まれています。以下は『知的生産の技術』より

第一は、かんがえをまとめるという段階である。第二は、それをじっさいに文章にかきあらわす、という段階である。

文章を書きくだすまえに、まず頭の中の考えをまとめるという作業が必要なわけです。手札が何も無いのに七並べを始めることはできません。

「かんがえをまとめる」というのは、人の思考に関わる作業です。つまりは脳の仕業です。人の脳は見た目は同じようでありながら、「かんがえかた」のクセというのは人それぞれ違っています。だからこそ、文章を書く方法との相性が生まれてくるわけです。

今回は、文章を書きあらわす前の段階__「かんがえをまとめる」について考えてみたいと思います。

執筆者の方々が紹介している方法を眺めてみると、3つのスタイルが見えてきます。

  • 土台をしっかりとつくる
  • 方向性は置いておく
  • 流れに任せる

それぞれ見ていきましょう。

土台をしっかりとつくる

おそらく一番一般的なもので、いわゆる「構成案」を事前に作ってしまう方法です。起承転結とか序破急といった言葉やピラミッド型・逆ビラミッド型など構成案に関するトピックスや山ほどあります。

どのような構成の方法であれ、事前に文章の流れをしっかり作っておくというのは共通しています。もう少し細かくみていくと、二つの組み立て方が出てきます。

トップダウン的組み立て

本であれば、目次を先に作ってしまう方法です。アウトラインとも呼ばれています。章から節、節から小節へと分解していくやり方で、やり始めるのはこれが一番簡単かもしれません。大きなテーマが先にあって、それについて細かく書いていくという場合に適したスタイルです。

ボトムアップ的組み立て

こちらは手持ちの「材料」から構成を考える方法です。カードにアイデアや情報を一枚一個の原則で書き込み、それを並べ変えながら構成案を立てる方法。この場合、タイトルや見出しはトップダウンとは逆の方向で出来上がっていきます。「KJ法」や「こざね法」がこれにあたります。

一枚の紙に書き出されるのは単語であったり、短いフレーズであったり、あるいはパラグラフであったりと人によってさまざまです。

方向性は置いておく

構成をしっかり考えるのに比べると、やや緩い感じの方法です。書くべきトピックスを拾い上げ、あらかじめ配置しておくというのがこの方法です。これについてはリンボウ流の「ビーコン法」を紹介しておきます。

まず、要点を3つ程度のキーワードに押さえておきます。それぞれのキーワードは書きたいトピックスを象徴する言葉で、自分がそれを見れば何を書くのかが思い出せればそれでOKです。書き出しのA、読み手の興味を惹くB、最終的な結論に向かうCというキーワードをあらかじめ打ちこんでおきます。

書くときには画面上のAの部分から始めて、Bに繋げていくことを意識します。そして、結論であるCというゴールに向かって書き進めていく。

つまり、文章の進み方をあらかじめイメージしておいて、要点だけを先に書き込んでおき、それをビーコンのようにしながら流れに沿って文章を書きくだしていくという方法です。上の構成案に比べると、文章を書く際の自由度は高まりますが、あらかじめ方向性をイメージしておくという点は共通しています。

流れに任せる

上の二つに比べるとかなり極端な方法かも知れませんが、「あらかじめイメージしない」というやり方もあります。

これは立花隆さんの『知のソフトウェア』で紹介されています。立花さんは1000枚を超える長編でもコンテ(アウトライン)を一切使われなかったそうです。では、完全に頭の中だけで書き進めていくかというと、そうではありません。

普通は簡単なメモを事前に作る。メモには二つの目的がある。一つは手持ちの材料の心覚え。もう一つは、閃きの心覚えである。前者は事前に作り、後者は随時書きとめる。

「材料の心覚え」というのは、リンボウ流のキーワードに近いもので、それを見れば自分が何かを想起できる言葉です。それを特に順番は関係なくただ書き並べる。あとは、ひたすら「流れ」で文章を書き進めていくことになります。つまり、一行書いて次の一行を考える。一つのまとまりを書いて、次のまとまりを考える。このように進んでいくわけです。

つまり、書きながら考えていく、というのがこのやり方です。

ちなみにこれは、『理科系の作文技術』にも「思いつくままのメモ」から文章を書く方法として似たようなものが紹介されていて、次のような注意点があげられています。

この場合には、自分の書いている文章が一つの論理の流れに乗っているか、次々の文章がきちんと連結されているかを、絶えず反省しながら書き進む必要がある。

書く際の自由度が一番高い分、書く際には、脱線していないか・話の流れ的におかしなものが混ざっていないかをチェックする必要がああります。おそらく一番時間のかかる方法です。

さいごに

今回は、文章を書く前の3つのスタイルを紹介してみました。がっちり構成を立てるものから、流れに筆を任せて出たとこ勝負で書き進める方法までさまざまあります。

これらに特に優劣があるわけではありません。あるのは「適正」と「訓練」だけです。

今回紹介した方法で、普段の書き方とは違うやり方があれば一度試してみるのも面白いでしょう。何か新しい発見があるかもしれません。

 

▼参考文献:

この連載の土台とも呼べる一冊。

KJ法については、この一冊。

リンボウ流の知的生産メソッド。有効な時間を増やし、無駄な時間を削減する考え方。

タチバナ流の知的生産メソッド。書かれたのは古いですが、今でも興味深く読めます。

ビジネス文章の基礎はだいたい学べます。

▼今週の一冊:

慌ただしくて、ほとんど本を読めていないのですが、とりあえず最近読了した本。

「統計学」の一体何が「ヤバい」のか興味惹かれるタイトルです。が、内容的にはそれほど「ヤバく」はありません。統計学が、現実社会にどのようにうまく応用されているのかの事例を5つの構成で紹介しています。

その5つ構成立ては、それぞれ「統計的思考」を象徴したものになっています。ちなみに、「統計的思考」とは

  • 常に「ばらつき」に注目する
  • 真実より実用性を優先させる
  • 似たもの同士を比べる
  • 2種類の間違いの相互作用に注意する
  • 稀すぎる事象を信じない

の5つです。この考え方は現実的に有用だと思います。特に「平均」ではなく、その「ばらつき」に注目するというのは、投資でもビジネスでも言えることですね。「真っ赤な嘘と統計」についての本に飽き飽きしているかたは、一度チェックしてみるとよいかもしれません。


▼編集後記:
倉下忠憲
 四月です。

まあ、年度が替わっても、パソコンに向かって原稿をタイプする毎日はかわりありません。日々精進です。ちなみに、私は「方向性は置いておく」と「流れに任せる」の間ぐらいで書くことが多いです。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。

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