突然ですが、以下の動画(30秒ほど)についてクイズです。
若者6人がバスケットボールのパスをしあっているのですが、
- 白いシャツを着ているプレーヤー同士のパスの回数
は何回でしょう?(答えは本エントリー末尾に)。
» 動画は詳細はこちら。
認知リソースをムダ使いしていないか?
いかがでしたでしょうか。
プレーヤーは全部で6人いますが、そのうち白いシャツを着ている3人が、同じく白いシャツを着ているプレーヤーとの間でパスが成立した時のみをカウントしますから、意外と神経を使います。おまけにボールは2個ありますからなおさらです。
このような注意力を求められる作業を前にするといつも思い出すのが、「認知リソース」という言葉。リソース(資源)というくらいですから、有限のものです。
『ライフハックス─鮮やかな仕事術』という本を取り上げた際に、この言葉を次のように紹介していました。
本書は、このように「ライフハックス」を技術論としてではなく、より人間寄りの視点でとらえることで、新たな切り口と実践の余地を提示しています。
その中で「認知リソース」という言葉が目に留まりました。
- 現代において、まず何よりも減じるべきは、ストレスである
- そのためには「認知リソース」をできるだけ解放する必要がある
- 「認知リソース」とは、目の前の仕事を実行するために消費されるもの
- 例えば、文章を書いているときは、直前に書いたことと、
- 次にどんなことを書こうとしているかと覚えておく必要がある
- このようなことを「覚えておく」ために認知リソースが消費される
- 記憶、注意、思考などのために活用できる脳のリソースには限界がある
- この限界を超えると、作業のパフォーマンスは極端に低下する
- 認知リソースを酷使する仕事を長時間続けると、ストレスになる
つまり、生産性の高い仕事をする上では、認知リソースを有効活用する必要がある、というわけです。ちょうど、コンピュータでも似たような状況が見受けられます。たくさんのアプリケーションを同時に立ち上げると、動作が遅くなる、あるいは不安定になるといった“症状”がそれです。
このような場合は、とりあえず今は必要ではないアプリケーションは閉じることによって、無駄なリソースの消費が抑えられ、動作が安定します。コンピュータにとっても、リソースが酷使されれば、ストレスになるわけです。
何かを認識すると、約0.5秒間、他のことを認識できなくなる
冒頭の、特定のプレーヤー同士のパスの回数を数えるような作業をするとき、認知リソースが使われているはずです。30秒なのでまだましですが、これが1時間だったら途中でイヤになってしまうでしょう。
また、「注意」という言葉からは『MIND HACKS』の以下のくだりが思い出されます。
[HACK#39]注意の瞬き
何かを認識すると、約0.5秒間、他のことを認識できなくなる。
「何かに注意を向ける」というのは、本来大量になる感覚器からの情報を、対応可能な量にまで絞り込むこと、と考えるとわかりやすい。そうすることで、重要な情報(少なくとも、一見「重要」とみなせる情報)への対応に自らの持つ「資源」を集中し、他の情報を無視することができるようになる。
もし、人間の情報処理の能力に限界がなければ「注意を向ける」などということはまったく必要ないだろう。周囲の環境から得られたすべての情報への対応に、同時に同じだけの資源を使うということも可能なはずである。
人間の情報処理の能力に限界があるために、「注意を向ける」必要が生じる、というわけです。このことをもう少し端的に解説しているのが以下。
我々には一度に複数の行動を取ることはできない。複数存在する選択肢の中から常に「次のすべきこと」を1つ選ばなくてはならない以上、何かに注意を向けるのは自然なことである。
白いシャツを着ているプレーヤー同士のパスの回数を数えるという作業は、それ以外のプレーヤーのパスを無視することにほかなりません。このような注意を要する選別作業のために認知リソースが消費されているわけです。
あるいは、散らかった机の上では仕事がはかどらない(ことが多い)のは、視界に入ってくる関係のない書類やモノが認知リソースを浪費するためと考えることができます。
By: olle svensson – CC BY 2.0
知っていることと注意を向けられることとの違い
ところで、上記のクイズのような意図的に注意を向けるケースとは別に、注意を「引く」というケースもあります。
道を歩きながら、何となく行き交う人の顔を眺めている時、我々はほんの一瞬ずつではあるが、それぞれの顔に注意を向けている。しかし、この場合、後から「歩いていた人の中で髪が茶色い人は何人いましたか」などと尋ねられて答えられる人がいるだろうか。おそらくほとんどの人はまったく思いだせないに違いない。
ところが、道行く人の中に見覚えのある顔があった場合には、それまで半ば自動的に、いわば「バックグラウンド」で行われていた「顔を見る」という動作が、意図して行われる「フォアグラウンド」の動作に変わる。それではじめて、情報が意識にのぼり、顔が認識されることになる。
このように、自分の意図しないところで注意センサーが何かを捕らえて、それがきっかけとなって思考や行動が“起動”するということは毎日のように体験していることでしょう。
そして、そのためのきっかけとなる「注意センサーが何かを捕らえる」ようになるためには、注意センサーの感度を上げておく必要があります。
以前、オーディオブック「若き商人への手紙」がヘビロテであったという話を書きましたが、その後に入手して聴き始めた以下のオーディオブックが最近の“一人朝礼”のお供となっています。
» オーディオブック「原因と結果の法則」
このオーディオブックを繰り返し聴くことが注意センサーの感度を上げる上で一役買っているように感じているのです。
2003年に書籍版が出ていますので、ご存知の方も少なくないと思いますが、僕自身はつい最近知り、聴いてみて「あぁー、確かにそうだな」と共感し、あるいは「うーん、できてない…」とため息をついている作品です。
人間は、あらゆる身勝手な欲望を放棄しているとき、搾取する側、される側のどちらにも属していません。そして、そのとき人間は真に自由な状態にあります。もしあなたが自分の心と人生を根気強く観察し、分析したならば、弱さとはそもそも身勝手な欲望から発してるものである、ということにも気づくはずです。
私たちは自分の心を高めることによってのみ上昇し、克服し、達成します。そして、その努力を怠ることによってのみ、弱さ、絶望、苦悩のなかに留まりつづけるのです。
「あらゆる身勝手な欲望を放棄」するなどということは普通の人にはとてつもなく困難なチャレンジでしょう。でも、言われてみれば、そういう欲望に負けてしまう自分がいるからこそ、なかなか理想としている自分に近づくことができないことも頷けます。
こうした“わかっちゃいるけどなかなかできない問題”の数々を次々と指摘してくるのです。
そんな指摘を毎朝耳で聴いていると、不思議な体験をすることがあります。何度も聴いているはずなのに──僕自身、異様に物覚えが悪いからということもありますが──、「あれ、こんなこと言っていたっけ?」などと新鮮さを感じることがあるのです。
ちょうど、「道行く人の中に見覚えのある顔があった」ときのような感覚です。
厳密にいえば、飽きるほど繰り返し聴いているのですから、聞き覚えがないはずはないのですが、ここで言いたいことは、いま耳に聞こえてきた内容と過去に自分が体験してきたこととが符合する瞬間がある、ということです。
- 「もしかすると、あれはこういうことだったのか!?」
という、電球がピカッと閃くような。
聴くことによって、それまで注意を向けていなかったところに注意が向くようになる、すなわち認識が変わり、行動が変わるのです。そして、行動が変わることによって、それまで耳がキャッチできていなかった言葉が耳に残るようになったり、あるいはそれまで思いつかなかった解釈ができるようになったり、という聴くことと行動することの間で相互にフィードバックが生じるのです。
- とりあえず聴く
- 聴いた内容に沿って行動を起こす(変える)
- 改めて聴く
- 注意の向けられ方の変化が実感される
そして、その時に初めて「指摘」の内容が腑に落ちるのです。
「若き商人への手紙」が耳の痛い“戒め集”なら、この「原因と結果の法則」は後から効いてくる“励ま詩集”といった棲み分けになるでしょうか。
クイズの答え
ところで、冒頭でご紹介したバスケットボールのクイズの答えです。白いシャツを着たプレーヤー同士によるパスの回数を数えていただきましたが、何回だったでしょうか?
・・・実は、回数は問題ではありません。ネタバレになってしまいますのでここでの公開は控えますが(『MIND HACKS』のp.159ページに詳しい解説があります)、要するに人は何かに注意を奪われている(集中している)と、それ以外のことにはすっかり関心が払われなくなるという事実を身をもって思い知らされる実験でした。
気になる方は、もう一度同じ動画を、今度はぼーっと眺めてみてください。パスの回数を数えている時には見えなかった何かが見えてくるはずです。
同様に、知っていることでも、注意をして耳を傾けてみると意外な発見があるかもしれません。何にしても、一度聴いただけですべてをわかったつもりになるのはもったいないといわざるを得ないでしょう。
» ライフハックス鮮やかな仕事術―やる気と時間を生み出すアイディア (MYCOM新書)
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