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ブレストを学ぶならまずこの一冊から



倉下忠憲発想法に興味を持ち続けている倉下です。

石井力重さんの『使えるアイデアがあふれ出るすごいブレスト』を読みました。

タイトル通り、「実践的なブレスト」にフォーカスした一冊です。

ブレストとは何か?

そもそもブレストとは何でしょうか。

本書から引けば、オズボーンは「小1時間の創造的な話し合い」と述べたようです。簡にして要を得た説明です。

オズボーンは、ブレストにいくつかのルールを設定しましたが、それは「創造的な話し合い」を実現するためのガイドラインだと考えられるでしょう。多くの場合、そうしたガイドラインがなければ「創造的な話し合い」が実現されないことが経験的に理解されていたのかもしれません。

なぜなら、人が何人か集まるとどうしても集団における力学が発生してしまうからです。組織で言えば、上司に遠慮して思い切った発言ができないとか、逆に体面を保つために部下の前でバカなことが言えなかったりといったことです。

そうした発言にブレーキがかかっている状況では、なかなか創造的な話し合いはできないでしょう。逆に、批判精神というよりは、自分の存在を反発でしか示せない人が交じり込んでしまうことで、ことごとくアイデアの芽が踏みつぶされてしまう可能性もあります(アイデアの芽はいつだって柔らかいのです)。これも、「創造的な話し合い」を阻害してしまうことは間違いありません。

よって、「こういう感じで話し合いましょう」と場の雰囲気をルール側から定義することで、「創造的な話し合い」が少しでも起こりやすくした、というのがブレストのルールだと想像できます。

逆に言えば、「創造的な話し合い」がナチュラルに行えているなら、ルールを気にする必要はありません。ルールがブレストを定義するのではなく、「創造的な話し合い」の有無がブレストを定義するのです。

理論と実践的な運用

上記の点を考慮すると、本書がいかにも実践ベースで書かれていることが見えてきます。つまり、ごく単純に「この通りにやればうまくいきます」と語るのではなく、「指針としてこういうやり方がありますが、場合によってはこれをこう変えても大丈夫です」と説かれているのです。

なにせ、集まる人やその目的によって、ブレストの進み方は多種多様に変わっていくでしょう。たった一つの厳密なやり方だけでうまくいくわけはありません。状況に合わせてルールや指針や進め方は変えていっていいのですし、変えていくべきなのです。厳密なルールにこだわることほど非生産的なものはありません。

たとえば、レシピで「○○社のうすくち醤油7.00mlを入れてください」と指示されていたら、普通の人は料理が嫌になってしまうでしょう(小数点に注目してください)。実際的に重要なのは、醤油のmlではなく、「ある味付け」をすることであり、そのための手段としての醤油です。もし同じような味付けを別の調味料で代替できるならば、それを使ってもよいでしょう。それが実践的な料理の考え方です。

ブレストも同じでしょう。細かい部分はアレンジしてもいいのです。大切なのは、その場で「創造的な話し合い」が持たれているかどうか。そのために道具やルールを「使っていく」(従うのではなく)感覚が大切です。本書ではその点がきっちり視野に収められています。その意味で、実践的な内容なのです。

こうした点は、数々の場所でブレストをデザインしてきた著者ならではのバランスが発揮されているのでしょう。理論をベースにしながらも、それに溺れない実践的な感覚が反映されています。

もしブレストを学びたいというのならば、ネットでググッて適当に出てくる記事ではなく、本書のような優れたバランス感覚を持つコンテンツから学んだ方が実践に役立てられると思います。

ブレストは錬金術ではない

あくまで個人的な意見ですが、ブレストは「アイデアを生み出す方法」ではありません。それは、準備運動が「早く走るための方法」ではない、というのと同じ意味です。

もちろん、これから走るなら準備運動は必要でしょうし、そうすることで体が固まった状態よりは早く走れるようにはなるかもしれません。しかし、準備運動をしたからといってまったくトレーニングしていない人が世界記録に迫れるかというと、そうではないでしょう。ようするに、その人の持っている走力を存分に発揮させるために必要なのが準備運動なわけです。

ブレストも同様です。「創造的な話し合い」という場の中では、そこに参加する個々人は自身の「創造性」を存分に発揮できるようになります。しかし、それは無から何かを生じさせるような(あるいは非金属から金属を生むような)特殊な技術ではありません。つまり、下調べも勉強も何もせずに、ただブレストをさえすればどのような問題であってもたちどころに解決すると考えるのは無理な相談なわけです。

逆に言えば、ブレストの効果を最大限に発揮させるためには、日常的に個々人の創造性を積極的に開発していくことが必要です。人を機械的に働かせておくことは、もちろんその逆にあたるわけです。

▼編集後記:
倉下忠憲




「書籍執筆を進めるモード」になると、どんどん生活が単調になってきます。一方で、精神は複雑化してきます。不思議です。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中