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仕入れとしての読書、電子書籍の読書

By: Sarah SammisCC BY 2.0


倉下忠憲知的生産を一つの作業工程として捉えた場合に、仕入れにあたる「インプット」。手段は様々ですが「読書」はその大きな部分を占めていると思います。

iPhoneアプリとして読める書籍や、PDFファイルでの電子書籍といった存在が徐々に勢力を増してきている昨今。もしかしたら紙の本と電子書籍の世代交代が行われる過渡期が今なのかもしれません。

これから何回かの連載で、「読書の技術」を振り返りながら電子書籍の時代ではどのような読書スタイルが出てくるのだろうか、ということも加えて考えてみたいと思います。

 

なぜ本を読むのか

読書の目的というのは人それぞれで、楽しみのための読書もその一つです。しかし、ここで考えたいのは「知的生産」のための読書です。つまり材料集めとしての読書ということになる訳ですが、なぜそれが「本」である必要があるのでしょうか。

私が考えるに「本」には以下のようなメリットがあります。

  • 知識が一つの世界にまとめられている。
  • 自分が「知らない事」を知る事ができる。

前者は、情報だけでなくその文脈的位置づけも確認できるということです。

『知的生産の技術』(梅棹忠夫)の中に本について語られている一節があります。

p101
どんな本でも、著者には全体として一つの構想というものがあって、それによって一冊の本をまとめているのである。各部分は、全体の文脈のなかでそれぞれしかるべき位置におかれることによって、意味をもっているのである。

情報やその意味だけではなく、全体の中の位置づけ、他との関連性などを知る事ができるというのが「本」を読む事のメリットです。この辺が情報をネットで検索する事との違いと言えるでしょう。

後者については、あまり説明の必要はないと思います。ネットで検索することは「自分が知らない」と知っている事です。何かについて知りたいと思えば検索すれば良いのですが、何を知るべきかについて知らなければ検索することはできません。

自分が存在すら知らなかった情報や、思いつきもしない考え方などに触れる事ができる、というのがもう一つの「本」を読むメリットと言えるでしょう。

 

本とネットの対比

あくまで、「本を読む」と「検索して情報を得る」という文脈においての対比ですが、この二つの差を考えてみます。

一冊の本を読むというのは、例えるならばまるまる一本の木を仕入れてくるような行為と言えます。逆に検索することは、使いたいサイズに合わせてカットされた木材を買ってくることに似ています。

一本の木はそのままでは使えません。余計な部分を切り取って、カットして、加工してようやく使い物になります。しかし、その利用方法は使う人次第です。家を建てる事もできますし、机を作る事もできます。いくつか並べて筏を作る事だってできるかもしれません。

あらかじめ加工された木材は、必要とされた目的のためには非常に便利に使えます。しかし、その分応用できる可能性は著しく削られてしまっています。

これら二つの「材料」は状況に合わせて使い分けるべきですが、木を仕入れる事と、それを適切に使いこなす術は大きなアウトプットをしていく上で非常に重要だと思います。

 

電子書籍では?

電子書籍においても、紙の本と同レベルの質の本が提供され続けると仮定します。そうすると、先ほどの読書と検索の対比から新しい読書のスタイルが生まれてくることが想像できます。

デジタルで提供される「本」はコピーや検索が容易に行えます。これは先ほどの例えを使えば、木の加工が飛躍的にやりやすくなったと言えるでしょう。

引用するのも簡単だし、気になった情報を後から検索するのも容易です。重要だと思った部分をいちいち手書きやタイプで書き写す労力を考えれば、得られるメリットは非常に大きいと思います。

この点から考えれば

  • 自分のコメントを簡単に書き込める機能
  • コメント+引用部分を情報アーカイブ(例えばEvernote)に送れる機能
  • コメントを検索してページにたどり着ける機能

などが実装されたビュアーがあれば「電子書籍」のポテンシャルを最大限発揮できるかもしれません。

 

まとめ

紙の本はある人々(私もその一人)に取っては大変魅力です。それは未知の情報に触れる事ができるという体験を象徴しているからかもしれません。一冊の本は「とある情報系」の体系ですが、「本」という存在は、我々の文化の体系とも言えます。しかし、それが必ずしも紙の形を取る必要はありません。

ある程度質のそろった電子書籍での「本」と実用的な機能を持ったビュアーが出てきた時、はじめて「紙の本」は一つの進化を遂げるのかもしれません。それは全く異質な体験というよりも、案外「紙の本を読んでいるかのように電子書籍が読める」という体験なのかもしれません。

木の切り方がデジタル化された世界において、「知的生産の技術」はますます本質的なところに迫っていく事になるのではないでしょうか。

次回も「本」についての予定です。

▼参考文献:

知的生産の技術
梅棹 忠夫
岩波書店 ( 1969-07 )
ISBN: 9784004150930
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

▼今週の一冊:

最近読んだ本で印象に残ったのがこの一冊。一年前くらいの本です。一言で要約すると「脳の取扱説明書」という感じ。「やる気」や「自信」というのはメンタル的なものですが、それを作り出しているのはやはり「脳」です。その根本的な性質について知っていれば行動を変えることは随分やりやすくなると思います。分かりやすくポイントをまとめてあるので時間がとれない人でも少しずつ読めると思います。

「脳は基本的に、変化に対応して動くもの」(p15)という指摘は確かにそうですね。案外見落としがちですが。

脳から変えるダメな自分―「やる気」と「自信」を取り戻す
築山 節
日本放送出版協会 ( 2009-04 )
ISBN: 9784140813706
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

 

▼編集後記:倉下忠憲さて、4月です。新しい季節の始まり。年度が替わった事で心機一転という気持ちを持ちやすいシチュエーションですね。何かを始めてみるのもよし、深めてみるのもよし、ですね。
 

私もいろいろとやってみたい事が沢山ある今日この頃です。