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机に向かうならすぐ仕事に取りかかり、できないならすぐ休む



佐々木正悟 仕事を進めるために、リアリティあるやり方の一つとして、自分がしばしば用いているやり方です。

机に向かうなら、必ずすぐに取りかかり、できないならすぐ休む。

なんてことないやり方ではありますが、仕事をするという行為には、一つの逆説があるのです。

寒い冬の朝に水を浴びたくはない

ほんのわずかでいいから、今よりは気持ちよくしようとする。
これはもう、自動的なことです。
本能という人すらありそうです。

人は時々刻々と、今よりは上向きな気分を手に入れるために、毎秒の企画を繰り返しているのです。

そして、少しでも気持ちよく、ラクに同じことが達成できるなら、そちらを選ぶモノです。

深い地下から地上までのぼるために、階段とエスカレーターがあって、階段をわざわざ選ぶのは、もう十分に少数派なのです。

仕事というのは、そういう意味で、人間に大変な重荷になりかねません。

だって今よりも気分が悪くなることをするのです。

今はないプレッシャーに身を浸したり、今よりも強いストレスを受け入れたり、今でもすでにアタマが痛いのにもっと頭痛がひどくなるかもしれないことをするのです

そんなこと、ふだんなら決してしません。

たとえ、その「気分の下がり具合」が絶対値としてはたいしたモノではないにせよ、気分はほんの少し悪くなるだけにせよ、今より確実に気分や気持ちが悪く、重く、落ち込みかねないことをあえてわざわざするのです。

人は、その元来の性質からして、そういったことを非常に嫌うのです。

脱いだ服が洗濯されずに、山をなしている。
キッチンに、使ったままの食器があふれ返っている。
火災検知器の電池が切れている。
自動車のバッテリーを交換する時期にきている。
タイヤの空気圧の点検も、エンジンオイルの交換もすんでいない。  
出張の飛行機を予約していない。
ホテルの予約もまだ。
パスポートも更新していない。
旅行のための休暇取得の予定を上司に話していない。
夫や妻の誕生日が近づいているのに、まだプレゼントが用意できていない。
会社の勤務表や目標達成度の報告書、経理書類を提出していない。
仕事の出来が悪い部下に問題点を指摘するのを後回しにしている。
気の進まない打ち合わせの日程を決めるのを先延ばしにしている。  
職場で担当している大型プロジェクトがはかどっていない。
今週、まだスポーツジムに行っていない。  
最近、故郷の母親に電話していない。

『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』


これを全て「タスクリスト」に登録すれば、実行は相当に難しいと感じる人も多いでしょう。

冬の寒い朝に水を浴びるような感じがするせいです。
しかし、これを逆に考えるならば、冬の寒い朝に水浴びをするという精神論的試行には、一定の意義を見いだせます。

「くだらない」と思うのは、合理的です。つまり、人は、より気分をよくしようとしているのが「正常」であるからして、何か大きなメリットがない限り、冬に水浴びしていいことが起こるはずがないのです。

精神論とは、そういった「愚行」なのです。

しかし私は、このような理に叶った思考に一定の不安を禁じ得ません。

というのも、賢明であればあるほど、少なくとも仕事ができなくなっていきそうであり、だが最終的に仕事をしなければならないのであれば、あまりに賢明な行動ばかり続けていると、最後には極寒の中で氷水を浴びるほどの覚悟が必要になりかねないからです。

それくらいなら私は、毎朝寒い日に水浴びをするくらいですませておきたいのです。〔現にここ1年間、毎朝水浴びしています。〕

私がもうずいぶん前から、どんな場所でも、エスカレーターを使わずに「階段を使う」ようになったのもそのためです。
これは、自分の決意を表す「ジェスチャー」でもあり

『自分を変える1つの習慣』


どうせ「覚悟」が必要なら、覚悟したときには必ず成果を残したいわけです。

つまり、机に向かったら必ずすぐに取りかかり、できないならすぐ休むべきだと思うのです。

▼編集後記:
佐々木正悟



本書はとにかく心理学、中でも行動心理学に重心を置いています。

そのこと自体は、珍しくも何ともない本ですが、習慣化する上でいちばん役に立つはずの知識が、妙にないがしろにされすぎていると、少なくとも私は感じているわけです。

習慣化のためのテクニックと言われるものは、実にさまざまあります。
それはそれでいいと思います。

でも、私たちに特定の行動を繰り返させ、やがて習慣に至らせるのは、報酬なのです。
報酬のない行動を、私たちは繰り返しやったりは、しないのです。

なにか習慣化したいことが今ある人は、それをどんな報酬で繰り返しやっていくつもりなのか、明らかにして下さい。