メモせよ、メモせよ、メモせよ、とよく言われますね。私もよく言います。
しかし、そのメモされるものの中身って一体どんなものなのでしょうか。
私は「思いついたこと、気になったことすべて」と返すことが多いのですが、この説明ではわかったような気はするものの、具体性がまるでありません。朝ご飯に何を食べたかを尋ねられて、「ごはん」と答えるくらいには大雑把です。
そこで今回は、メモされるものについて考えてみましょう。
PoICの4カード
まずは、ヒントになるものを探してみましょう。
現代版の情報カードシステムである「PoIC」は4つのカード・タイプを持ちます。記録、発見、GTD、参照の4つです。
それぞれ解説を引用します。
記録。
記録カードは、私たちの身の回りの事実や現象を記述するのに使います。例えば、日記(生活、仕事、夢)、お金の収支、健康状態(体温・血圧・体重)、食事、天候(天気・気温・湿度)などが、記録カードに属します。
発見。
記録カードから得られる長期的なパターンの他に、私たちは一瞬にしてパターンを見つけることがあります。「分かった!」、「見つけた!」、「ああそうか!」という瞬間がそれです。
このような直感的な発見はすべて発見カードとなります。例えば、生活・仕事のアイディア、発見、直感、理解、認識、ジョーク、詩、俳句など、私たちの頭・心から湧き出てくるものが、発見カードに属します。
GTD。
GTD カードは、やるべきこと(Things Do)、やったこと(Things Done)を記述するカードです。
参照。
本・テレビ・ウェブからのことばの引用、料理のレシピなどは、参照カードに分類されます。これはひとことで言えば、「自分以外の他の誰かのアイディア」を記すカードです。
この4つで、メモされるものの大半がカバーできそうです。
情報の属性
では、この4つの情報はそれぞれ何なのでしょうか。
たとえば、以下のように分類してみましょう。
- 記録:静的情報(内側)
- 発見:動的情報(内側)
- GTD:静的情報(外側)
- 参照:動的情報(外側)
記録カードに書かれることは、「私たちの身の回りの事実や現象」なので、自分の内側にある情報といえるでしょう。そして、そのような情報は一度生成されたら変化することはありません。よって静的な情報です。
発見カードに書かれることは、自分の頭に思い浮かんだ事なので内側と言えますが、それは動的に変質する可能性を秘めています。アイデア同士がくっついたり、ブラッシュアップされたりして変化していくわけです。
GTDカードに書かれることは、自分が自分以外の対象に対して作用させるアクションなので外側と言えます。そして、一度発生し固定化されたタスクは、消えたり先送りされたりすることはあるものの、情報のコアの部分は変容しません(※)。よって静的な情報です。
※変容するならそれはタスクではなく、アイデアと呼べます。
最後の参照カードは、自分以外の誰かが思いついた/書き表した情報であり、外側と言えますが、そうしたものをわざわざ保存する目的は、それらを利用して生産を行うことです。よってこれらの情報は動的な変化を要請されます。
以上のように、静的/動的と内側/外側の二軸でメモする情報の分類が可能です。その性質に合わせて、メモの保存法や運用法を考えてみても面白いでしょう。
ちなみに、記録と参照を「固定的」、発見とGTDを「流動的」情報として捉えることも可能で、その場合はまた違った保存法が出てくるかもしれません。
myメモ
違った視点から考えてみます。私が実際にメモしているものを列挙してみましょう。
- 備忘録
- アイデア〜原稿
- タスク
- 資料
概ねPoICの四カードと対応していますが、ここでは違うメスの入れ方をします。
- 備忘録(短期、長期)
- アイデア〜原稿(小規模、大規模)
- タスク(単発、プロジェクト)
- 資料(断片、全体)
備忘録は、短時間で役目を終える情報(手帳に書き写すまでの書き留め)と、長期的に保存される情報(電話番号やパスワード)の二種類があります。デジタル時代では後者の情報を大量に保存できるようになりました。利用の仕方も工夫が必要です。
アイデア〜原稿は、ぱっとした思いつきから完成間近の原稿までいくつかのグラデーションを持つ情報です。ぱっとした思いつきからそのまま2000字程度の原稿を書き上げたり、あるいはそうしたものを複数集めて「本」を完成させたりと規模はさまざまですが、どれも自分の頭の中にある情報体を保存することに代わりはありません。
また大規模になると、前回紹介したような本文以外の情報も必要となります。
タスクは、単発の行動と、それらの複合によって成立するプロジェクトの二種類が考えられます。複数のプロジェクトによっ成立するメタ(あるいは親)プロジェクトも想定できますし、その再帰的ループはいくらでも回すことができますが、話がややこしくなるだけなので、ここでは二種類だけに留めておきましょう。
最後の資料は、資料全体から一部分だけを書き抜いたものと、資料全体そのものがあります。アナログ時代であればこの二つは明確に違うものでした。読書メモと本そのものは、見るからに異なっています。
しかし、デジタル時代では、両者の境目は曖昧になりつつあります。もちろん現状の制約では、電子書籍のテキストデータを「自分のメモ」のように自由自在に扱うのは難しいですが、それでも電子書籍ファイルの横に、そこらから書き抜きしたテキストファイルを並べることはできます。断片でなく全体をメモのように「自分のシステム」に保存できるわけです。この点は、資料管理において重要になってくるでしょう。
さいごに
今回は、いくつかの切り口で「メモされるもの」を分類し、その性質について考えてみました。
性質が使えば、適切な扱い方は異なります。仮に上記全てが、最初に「inbox」に放り込まれるとしても、その後行き先や扱い方は違ってくるでしょうし、違ってくるべきだと想定できます。
とは言え、重要なのは上記の分類ではありません。自分が書き留めるものを、自分で分類することです。
今回紹介した分類はフレームワークとしては機能するでしょうが、完璧にはほど遠いでしょう。人によって書き留めるものの種類や、求める性質は変わってきます。それらを単一のものとして扱わずにきちんと腑分けし、そのうえでどう整理したらいいのかを考えることです。
自分のニーズは、自分にしかわかりません。自分に訊くのが一番です。
▼今週の一冊:
小説を書く前にバリバリアウトラインを作ってプロットを練っているぜ、という方向けではなく、興味はあるんだけどいまいちうまくいかないんだよな〜という方向けの本です。ちなみに私は後者です。たいへん勉強になりました。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。