この本はフリーランスの先輩が示してくれた、これからの社会で生き残るためのアドバイスがつまった一冊です。それはこれからフリーランサーとして働きたい人も、すでにフリーランサーとして生計を立てている人も、企業で働いているビジネスパーソンも、さらに裾野を広げれば大学生にも役立つ一冊といえるかもしれません。
佐々木氏が主張する、今後の社会で生き延びていくための基本的な戦略を要約するとこうなります。
専門性をもって、それをアピールする。
意外に簡単にも見えますが、この戦略が持つ意味は非常に重要です。
今の日本社会は徐々に不安定さを増してきています。それは今まで働く人の大部分が頼りにしてきた「会社」が安定では無くなってきたことが原因でしょう。そのような社会の中で生きていくには「自分自身」を頼りにするしかありません。それが専門性を持つ、ということの意味です。
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みんな中世のギルドのような世界で職人として一生を終えていくことを考え、そのなかで一職人として堅実かつ楽しく生き抜いていくために、自分に何ができるのかを考え専門性を高め、その技術を多くの人に利用してもらえるようアピールする必要があるということだ。
つまり、自分の技術を高めながら、それを広くアピールしていく。それが不安定な社会ですこしでも堅実に生きるための術といえます。加えて、自分の技術や関心と仕事がマッチしていれば楽しく仕事をすることもできるはずです。
ただ、この基本的な戦略はすぐに実現できるものではありません。技術の習得には時間がかかりますし、セルフブランディングも今日ブログを始めたからといってすぐに効果が出るものではありません。むしろ、継続して行う中で、はじめて自分の「ブランド」に対する信頼を得ることができます。
だから、少しでも早めに行動を起こす必要があります。
さてこれからの社会について少し考えてみたいと思います。
現代版ギルド社会とは
中世のヨーロッパには職人達がたくさんいて、技術が必要とされる場所で仕事を行っていました。今後は、企業の仕組みの変化によって日本社会がそれに近い構造になることが考えられます。技術を持ったビジネスパーソンが自分のスキル・情報を開示し、企業はその情報を検索する。そういった社会が現代のギルド社会です。
この「現代版ギルド社会」は以下の3つの性質を備えていると私は考えます。
- 個人が会社に縛られない
- 自己アピール・マッチングの改善
- 常に新しい可能性が眠っている(ウィキノミクス的作用)
個人が会社に縛られない
この連載の第一回で、私は以下のように書きました。
今後、日本の会社の体質が代わり、正社員を長期に雇用するスタイルからプロジェクトごとに人材を集めるような仕事の進め方が一般化すればノマドはさらに注目される存在になるでしょう。
この仕事スタイルの場合、自分の成果がそのままプロフィールになります。何を成して来たか、がそのまま何を成せる可能性を持っているかに転化されます。
ノマド・ワーキングスタイルは「仕事をする場所を選ばない」働き方を指す言葉です。そこには固定的なオフィスを持たないという意味合いだけではなく、会社という固定的な組織に属さずに「プロジェクト」から「プロジェクト」を遊牧するという意味も含まれているのでしょう。
多数の有能なノマド・ワーカーが存在し、それを適切に配置することができるならば企業は正社員の数を減らしていくことができます。また企業規模のスリム化から経営判断に関わる部署以外をできる限りアウトソーシングしていくことも考えられます。
※米国などではこの流れが当たり前になりつつあることをこの本では指摘されています。
正社員が減ることで安定感を持つ人が少なくなる、と捉えることもできますが、逆に個人が会社に縛られずに働ける可能性が存在している、とも言えるのではないでしょうか。
今すぐそういった社会になることは無いと思いますが、多くの人間が自分の技術・関心を外に向けて発信していく環境がその下地作りになると思います。
自己アピール・マッチングの改善
今あなたが働いている会社が突然経営が危なくなる可能性はゼロではありません。もし新しい仕事を探すときに一、枚だけの履歴書を示す場合と、ネットで検索できる「成果」がある場合とではどちらがよいアピールになるでしょうか。
これは大学生も同様です。大学の1年生や2年生あたりから自分の興味あることをアウトプットし続けていけば、それがブランディングになります。
これは単に仕事先を見つける、というだけの話にはとどまりません。
自分の技術や経験や嗜好についての発信を積み重ねていくことで、自分に合った仕事を見つけることができる可能性が高まります。正確には、仕事の方から自分を見つけてくれる可能性が高まります。
誰しもが自分のやりたいこと、得意なことを仕事にしているわけではありません。今の日本の新卒重視の雇用制度の中ではそういったミスマッチが起きるのは避けられません。ただ、自分の関心・専門性をアピールし続けていくことで、まさに「その人を求めていた」という仕事があなたを求めてやってくる可能性が出てきます。
企業の求める人材と個人のスキルが今以上にうまくマッチングしていく仕組みがうまれれば、個人が楽しんで仕事ができる可能性が高まると思います。
常に新しい可能性が眠っている(ウィキノミクス的作用)
人々が自分にまつわる情報を当たり前にアウトプットしている社会においては、今までにない現象が起こりうる可能性が秘められています。この本の中でも、自らの病気にについてTwitterでつぶやくことにより多くの人からのフィードバックをもらえた、という事例が紹介されていますが、こういった事例の可能性はいくらでもありそうです。
「ウィキノミクス」という本の中で企業やオープンソース・プロジェクトでのウェブ(不特定多数の意志・技術ある集団)がもたらした力の大きさが紹介されています。それが個人の情報においても起きる世界、それが我々が迎えようしている新しい社会なのではないでしょうか。
まとめ
この連載の基本的なテーマは「知的生産」です。それはビジネスパーソンにとっては自分の「成果」の結晶のようなもの。しかし今はそれをただ作ってそこに置いておけば良い、という時代ではありません。
情報は海の水ように溢れかえっています。そんな中で少しでも見つけてもらいやすいような、探しやすいような、信用してもらいやすいような工夫も必要です。いわばセルフブランディングは「知的生産のその先へ」というステップになると思います。
この本では、そのセルフブランディングの重要性、持つべき指針、ツールの使い方などが紹介されています。これは「新しい時代」もビジネスパーソンが持つべき技術として「知的生産」と並んで重要な要素になってくるのではないかと思います。
▼参考文献:
▼今週の一冊:
セルフ・ブランディングについては以下の本も参考になります。自分を商品と考えその市場価値を最大限活かすためにはどのような戦略をとるべきかを指南してくれる一冊です。
今回は文章術について書こうかと思っていたのですが、どうしても書きたくなったので「知的生産」そのものからは少し外れましたがこの本を紹介しました。今回は触れませんでしたが便利なウェブツールについても書かれていますので、そのあたりに興味のある方も読んでみて下さい。
個人的にBlog,Twitter、FriendFeedあたりは必須だと思います。あとメディアマーカーも忘れてはいけませんね。その人の本棚はその人の性質を表します。有名な言葉をもじれば
「君の本棚を見せてくれたら、君がどういう人間が言い当ててみよう」という感じですね。
これもブランディングの一種です。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。