アウトライナーは、アウトラインを操作するツールです。
この「操作」は、「作る」だけを意味しません。「壊す」も含まれます。
その両方ができるからこそ、アウトライナーというツールはクリエーションに適しています。
呼び水としてのアウトライン
たとえば、以下はこの原稿を書く前に書き出したアウトラインです。ツールはWorkFlowyを使っています。
スタート時点では何をテーマにするのかが決まっていなかったので、思いつくままに書き出しています。
途中で「この行為そのものをネタにすれば面白いんじゃないか?」と閃いて、アウトラインをテーマにした項目を設けました。「呼び水としてのアウトライン?」がそれです。このセクションの見出しにもなっていますね。
そこから階層を一つ下り、思いつくことを書き並べていきます。ポイントは、「?」による項目の展開でしょうか。「〜〜?」と書かれた項目は、必ず階層を一つ深くし、その問いに対する答えを入力していきます。
こうすることで、その記事で書くべきことがよりいっそう明らかになります。
呼び水とでしかないアウトライン
とは言え、です。
最初のアウトラインとここまでの原稿を見比べていただくとわかりますが、ほぼ「アウトライン」通りには進んでいません。
そもそも、タイトル位置に存在していた「呼び水としてのアウトライン」は、一つ目の見出しなっていて、代わりにどこにも存在しなかった「破壊と創造のアウトライン・プロセッシング」がタイトルになっています。話の順番もぜんぜんアウトライン通りではありません。
結局、最初に書き出したのは「アウトライン」ではなかったのです。少なくとも、完成原稿の目次的な意味でのアウトラインとはとても言えません。それは、せいぜいメモです。しいて名付ければ「メモライン」となるでしょうか。
アウトライナーの階層を作る機能のおかげで、メモラインは問いを深めていくことができます。しかし、そこで作られる階層は完成原稿における階層とはほとんど関係がありません。基本的にその二つは別物です。
構造化と破壊と再構造化
上記を、もう少し形式的にまとめてみます。
たとえば、以下は「Evernoteとは何か?」について文章を書こうとした場合のメモラインです。
まず一番大きな「Evernoteとは何か?」があり、その問いをさらに細かく分解した問いが並びます。それぞれの問いに答えていくことで、文章を構成する素材がいくつも出揃うことになるでしょう。あるいは、さらに小さな問いが生まれることもあるかもしれません。その場合も、さらに下に階層を作り、その問いに答えることになります。
こうしたやり方は、アイデア出しや一人ブレストなど、テーマや企画案を考える際によく使われる手法です。そして、ご覧のように、この進め方は非常に「トップダウン」的です。テーマから主導されるブレストは、トップダウンで進むのです。
特にひねりもなく、そのまま話を進めるのならば、ここで生まれた構造を完成文章の構造にすることもできます。最初に並んだ項目を「章」にして、その下に文章を配置していくわけです。
しかし、必ずしもそうしなければならないわけではありません。上記を「呼び水としてのアウトライン」だと考えれば、それは完成原稿の目次とは関係なくります。だから、一旦構造をバラバラにしてしまっても構いません。
こうして一列に並べ直した後で、「近しい」ものを集めたり、しかるべき順番に整えて、完成文章の構造を作っていくことができます。
まとめ
要点は、以下の三つです。
- テーマ・ブレストはトップダウンで進む
- そこで生まれる構造を、完成の構造にする必要はない
- 一旦バラバラにしたものはボトムアップで再構成できる
アウトライナーは、こうしたことが得意です。つまり、一度構造化でメモを作り、それを一旦バラバラにした後で、再びボトムアップでそれらを構造化していく、という手順が容易に行えます。
もちろん、これは認知的操作(概念操作)の一つの表出でしかなく、アウトライナーを使わずとも他のツールで実行可能です。単にアウトライナーの方がそういう操作に親和性がある、というだけの話でしかありません。
とは言え、皮肉なことに、アウトライナーは「アウトライン」を作れるツールなので、「メモライン」が「最終的なアウトライン」に錯覚される現象がよく起こります。最初の構造化が最後まで維持されてしまうのです。
しかし、アウトライナーのアウトライン操作は、作るだけを意味しません。壊すも含まれるのです。
一度構造化で素材を呼び込み、その構造を壊して素材をバラバラにし、その後でさらに構造化を行う。この「行ったり来たり」で進めてみると、既存の構造とはまた違った文章が作れるようになるかもしれません。ぜひ一度お試しください。
▼参考文献:
本記事は、文章の書き方だけにフォーカスしましたが、アウトライナーの使い方はもっと多様で、柔軟性があります。それを学べる稀有な本です。
» アウトライナー実践入門 ~「書く・考える・生活する」創造的アウトライン・プロセッシングの技術~[Kindle版]
▼今週の一冊:
この本を読んでいると、いかに人間の「常識」というものが狭いのかというのを思いしらされます。さまざま動物のちょっと(いや、かなり)変わった特徴を紹介してくれる本なのですが、語り口が柔らかくユーモアに満ちているので非常に読みやすいですね。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。
» ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由