疲れたときに読むマンガというものがあります。「よし、読むぞ~」と気合いを入れて読む、あるいは「続きはどうなったんだろう?」と前のめりで読むのとは対極にある、いつ読み始めても、いつ読み終えてもOKな気軽さのあるものです。僕にとって『妻に恋する66の方法』は、そういうサプリメントのような位置づけにあたるマンガです。
今作に限らず、作者の福満しげゆき(ふくみつ・しげゆき)さんのマンガに登場する「僕」は作者自身であり、極めてネガティブで、ネクラで、ネチネチしています。
全面的には共感できずとも、部分的には「あー、確かにこういう心境、わかる!」と、特に男性であれば共感できるところがあるでしょう(まったく共感できない人もいると思いますが!)。
もともとは、パートナーの佐々木正悟さんにすすめられたか、彼が好んで読んでいるというのを知って気になったかで、手に取ったのが福満さんの初期の頃の作品である『僕の小規模な失敗』が始まり。
Amazonで確認したら、2008年2月27日に注文していましたので、もう10年近く前ですね。
タイトルからしてネガティブというか後ろ向きな感じで、およそ明るい展開は期待できない雰囲気ですが、実際のところ極めて後ろ向きです。
それでも、「この人はこの後いったいどうなるのだろうか? ちゃんと生きていけるのだろうか?」という“続き”が気になって、放っておけない吸引力があります。
とはいえ、優先度はあまり高くありません。
「そういえば、その後どうなったかな?」とふと思い出したときに手に取るくらいのレベル。
安心して読める、読めなくても気にならない
『僕の小規模な失敗』は作者の高校時代からスタートして、目指していた漫画家になるまでの日々を描いた作品で、今回ご紹介する『妻に恋する66の方法』はタイトルの通り、結婚後の日々を描いた作品です。
『僕の小規模な失敗』では、人づきあいもままならず、マンガもなかなか認めてもらえず、不遇の日々が描かれます。それでもその後に結婚することになる恋人との出会いがあり、かなりぎこちない感じではありながらも、途中で関係が壊れかけたり(完全に壊れた?)しつつも、結婚にまでこぎ着けます。
『妻に恋する66の方法』は、結婚後しばらくたってからの日々(子供が2人生まれている)が描かれます。
結婚後も、子供が生まれてからも、「僕」は相変わらず「この人はこの後いったいどうなるのだろうか? ちゃんと生きていけるのだろうか?」という“設定”はブレることなく、だからこそ安心して読むことができます。
内容としては、「妻」の観察日記であり、ストーリーはないに等しく、とにかくたんたんと日常が描かれます。
- ストーリーのを把握しなくて良い
- 展開を予想しなくても良い
- どこまでいっても大逆転もどんでん返しもない
という、「では、いったい何のために読むのか?」と問われると、答えに窮するのですが、「どうしてるかな?」と気になったときに読みたくなるのです。
それも、疲れているときに休憩がてらにであって、それ以外のときはまったくその存在を忘れてしまうくらいに印象が薄いのです(失礼ながら)。
夫婦の数だけ存在する夫婦関係の1つを、それもとびきり特異な類を描いているにもかかわらず、どこか「あー、この感じは、すごく分かるぞ!」とメタに共感させられます。
男性のダメな部分をもれなくすべて持ち合わせているんじゃないかという「僕」を見ていると、勇気とか元気をもらえるからかもしれません。
緻密な観察から描き出される繊細な世界観
ついつい読みふけってしまう魅力の1つは、自身の置かれた(多くの場合、虐げられている)心境をつぶさに観察し続けているからこそ描き出すことができる、実に繊細な世界観です。
日頃からまめにメモを取っているのか、机に向かったときに思い出して描いているのか、定かではありませんが、「よくこんなことに気づくな」と思わせられることが多々あります。関心を持っていなければ見落としてしまうであろう、多くは些細なことが実に丁寧に拾い上げられているところには「妻」や「家族」への慈しみを感じます。
マンガを通して、そんな作者の人間性に触れられるからこそ、絶対に悪いことをしないであろう主人公に対する信頼感があるからこそ、安心して読めるのだと思います。
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