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会社を辞めて「外国人向けの日本食ツアー」事業を始めてみた人、に密着してみた



大橋悦夫5月の連休明けのある日の宵、「外国人向けの日本食ツアー」なるものに同行してきました。

ツアーを手がけるのは、Ninja Food Toursの和田雄磨(わだ・ゆうま)さん。サービスをローンチしてからまだ4ヶ月ながら、すでに週に3~4日はツアーの申し込みが入るという人気ぶり。

「こんな仕事もあるのかー」と感心させられつつ、多くのインスピレーションをもらえた刺激的な一夜となりました。

当日のツアーの内容については、以下の記事で写真つきでご紹介していますので、今回は運営している和田雄磨さんご本人に注目します。


和田さんとは、シェアオフィス「PoRTAL」で知り合い、何やらユニークな事業に取り組んでいるということで話をうかがっているうちに、これは一度体験せねば、ということで同行させていただくことに。

和田さんは現在28歳。この事業を始める直前までは外資系企業に籍を置き、世界を飛び回る日々だったといいます。

特に仕事に不満はなかったものの、満足もしておらず、会社を飛び出すのは時間の問題だったかもしれません。

僕自身は、26歳で会社を辞めているのですが(勤続年数は4年)、直後は何をすればいいのかすぐには決められず、フラフラしていた時期が長かったので、和田さんの会社を辞めた後の展開スピードにまず驚かされました。

2017年2月に会社を辞め、そこからほとんど間を置かずに現在の事業をスタートさせているのです。

辞める前に、「まずはこれでやっていこう」という方向性が明確に定まった状態だったからこそだとは思いますが、このあたりも含めて和田さんの仕事に対する向き合い方は、同じように会社を辞めて「自分にできること」で身を立てていこうと考えている人には参考になるのではないかと思います。

原体験は、海外で参加したフードツアー

和田さんが迷わずフードツアー事業を選んだ背景には、海外で参加したフードツアーがありました。

仕事で世界各地を巡る中、各地で当たり前のようにフードツアーが提供されていることに気づきます。

「地元で人気のスポットやお店はインターネットで自分で調べて行ける時代になってきましたが、地元の歴史や文化をフードツアーを通して直接、しかも短時間で学べるところが有意義でした」と和田さんは言います。

和田さんは「tourist traps」という言葉を使っていましたが、要するに「観光客目当てのぼったくり」を避ける上でも、フードツアーに多少の手数料を支払ったとしてもペイするわけです。

このように、自分自身が「これは助かるな~」という原体験があったからこそ、そのお返しとして、言うなればペイ・フォワードとして、日本に訪れる外国人のために今度は自分がフードツアーを提供しよう、と思い立つ。もはや必然ともいえる流れだったのでしょう。

フードツアーに密着

今回、外国人ゲスト1名のみのツアーに同行させてもらい、ひたすら和田さんの仕事ぶりを間近で見ることができました。

▼新宿ゴールデン街・案内図前にて



ツアーには「ランチ2時間コース」と「ディナー3時間コース」の大きく分けて2種類があり、僕が同行させてもらったのは「ディナー3時間コース」。

3時間の内訳は、以下の通りです。

  • 1時間、移動及び散策
  • 1時間、お店その1でお食事
  • 1時間、お店その2でお食事

今回のツアースポットは新宿。和田さんはツアーに先立ち、ゲストとのメールのやり取りでリクエストを確認したうえで、大まかな段取りを固めます。

何を観たいか、何を食べたいか、食べ物は何が苦手か、といった「点」の情報をもとに、「こういうものも観たいのではないか?」、「これも観てもらえたら喜ぶのではないか?」、「これまでの経験から、これも美味しいと言うかもしれない」といった「線」の情報を引き出していきます。中には仮説含みの「点線」も含まれます。

新宿駅東口でゲストと落ち合うなり、和田さんは自己紹介もそこそこに、ゲストに素早く質問を投げかけていきます。あらかじめ用意していた線のうち、どの線を残すのか、そしていくつかある点線のうちどれを実線に変えるのか、を探るかのように。

▼落ち合う目印は、和田さんが肩から提げる「Ninja Food Tours」のトートバッグ



傍から見る限りは、楽しそうに会話を交わしているようにしか見えないのですが、「日本に来たのは初めてか」、「どれぐらい滞在しているのか」、「日本はどことどこに行ったか、どこが良かったか」などを、リズミカルかつナチュラルに聞き出していきます。

おそらく慣れていないと、「取り調べ」のようになってしまって気まずい雰囲気になってしまうであろうところを、和田さんは実にカジュアルです。

▼新宿ゴールデン街を散策中



▼こんな雰囲気です(5秒の動画)。


「英語が話せるか」より「相手のニーズをいかに素早く察知するか」

この日、ゲストを交えて3時間をともに過ごしましたが、和田さんが沈黙する時間はほとんどありませんでした。それでいて、マシンガントークというわけではなく、その弁舌はゲストの好奇心を十分に満たしたうえで、余韻をも残す完璧なものでした。

傍らでやり取りを見ていて感心させられたのは、相手の質問に淀みなく答えるのはもちろんのこと、次に相手が抱くであろう疑問を素早く察知し、しかもそれを察知していることに気づかせることなく「ちなみにこれはこういうことなんですよ」と、その疑問の答えをスッと差し出すところです。

そんな和田さんの姿勢と対応に、ゲストはすっかりリラックスし、心からこのツアーを楽しんでいるようでした。

▼思い出横町にて



「好きなこと」というより「できること」

ツアー中、和田さんの仕事ぶりを見ていて、「こういう感じはやはりいいな」と思っていました。

どういう「感じ」かというと、その仕事をするためにものすごくがんばるわけではなく、それでいてその仕事が好きで好きでたまらないという熱い情熱を燃えたぎらせることもない、ほどよい“とろ火”加減を保つ感じ、です。

僕の好きな言葉に以下があります。

Your attitude almost always determines your altitude in life.

「高く飛びたければ、己の格を高めよ」といった意識高い系の意味合いにもとらえられますが、僕自身は「すべてはアティチュード(向き合い方)次第」と解釈しています。

最悪のアティチュードが「仕事だから仕方なくイヤイヤやる」だとすれば、最高のアティチュードは「これが仕事だなんて信じられない! すげー! 超楽しい!」ではなく「この感じならずっと続けられそうだな~」という、決して「激アツ」ではありませんが、代わりに容易には冷めない、ずっと「ポカポカ」が続く遠赤外線ヒーターのようなテンションではないか──。

日頃からそんな風に考えていた僕にとって、和田さんの仕事のあり方はまさにこれを体現しているように思えました。

これを体現するためのキーワードは「好きなこと」というより「できること」。「好き」は「飽き」をはらみますが、「できる」は「自信」を涵養してくれると思うからです。

和田さんがこのサービスを始めたときの心持ちは「自分がイメージしていたようなサービスが東京にあまり見当たらなかったので、始めてみた」というもの。まさに「他にやる人が(まだ)いないなら、自分、できるんでやってみます」といったニュアンスです。

消極的なイメージを持たれるかもしれませんが、むしろ最初の小さな「できること」を少しずつ積み増していくことで、いつしか「自分にはこんなこともできるのか」という自信に育ち、もしかするとそこから「好き」に転換するかもしれません。

でも、必ず「好き」に転換させなければならないわけではないと僕は思います。仕事は仕事として粛々と極めていくあり方もアリだと考えているからです。

一つ言えることは「好き」から入るのはリスキーだということ。どこかのタイミングで不意に「飽き」が来るスキが残るからです。

和田さんは言います。

自分の時間と労力の対価に見合う価値を見出してくれるマーケットがあるか?
自分が納得するリターンが得られそうか?

この2つは、私が自分の仕事について考える上で常に自らに問いかけている質問です。

いくら自信を持って仕事していたとしても、自分の時間(投資)に対するリターン(お金や顧客との触れ合いなどのやりがい)がないと長期的には続きませんからね。

自分自身で事業をスタートするということは、レールのない荒野を走り始めるということです。

  • 事前にどこまで考えておけばいいか?
  • どこまで考えたら走り始めていいのか?
  • 走り始めてから方向転換したくなったらどうすればいいか?
  • どこまで引き返せばいいのか?

…などなど、いずれも正解のない問いの連続にさらされることになります。

「正解がない」ということは、言い換えれば「自分で好きなように決めて良い」ということです。僕自身は、これこそ「自由」だととらえていますが、このことが仕事を楽しくすることにつながっているのではないか、と考えています。

和田さんの仕事に対する向き合い方に接し、改めてこの想いを強くしました。

最後に、和田さん、ゲストのセバスチャンさん。貴重な時間と機会をありがとうございます!

▼和田さんの運営する「Ninja Food Tours」の公式サイト
» Ninja Food Tours