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タスク管理をゲーム化できるか?



佐々木正悟 本書はなかなか挑戦意欲に満ちた本です。「タスク管理をゲーム化する」というのです。どうしてそれが「挑戦的」なのかというと、本来なら両立しないものを両立させようとする試みだからです。

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「ゲームにはまる」という言い方があります。はまるゲームがいいゲームでしょう。「これっぽっちもはまれなかったけど、すげえ、最高のゲームだったよ!」と言う人がいたら「いったいどんなゲームなんだ!?」と、不思議に思ってしまいます。

うさぼうさんも本書の中で『ハマる仕掛け』について言及していますが、ゲームというものはプレイヤーを「ハマらせてなんぼ」というところがあるわけです。

『ハマるしかけ』によると、人間の行動がハビットゾーン(習慣化した状態)に入るかどうかは、頻度と使いやすさによるそうです。

この引用からもわかる通り「ハマる」には「依存」めいたところがあります。実際「ゲーム依存」というのは、心理学的に考えれば充分あり得る症状です。

しかし、ゲーム依存になったりゲーム中毒になることがあっても「タスク管理中毒」になる人は、ほとんどいないでしょう。それはどうしてなのか、ちょっと考えてみましょう。

現実逃避したいからこそ依存する

著者のうさぼうさんが「タスク管理」を「ゲーム化しよう」と提唱しているのはもっともです。タスク管理には「習慣化」が欠かせませんが、タスク管理の習慣化なんて面白くないし、ややもするとつらい。

しかし私たちはゲームだったら容易に習慣化・常習化することができる。だったら、タスク管理を「ゲームのように楽しむ」ことができればいい。そうすれば、習慣化につらさを覚えたり、手間がかかったりすることもなくなるはず、というわけです。

でもゲームはどうしてあんなに簡単に「習慣化」することができるのでしょう。先生やお母さんに「あんた! 今日、ゲームやったの? 最低でもゲームを1時間はやんなさいよ!」と言われたことがあったでしょうか?

やたらと口うるさく言われる「さんすう」の宿題を習慣化することはあんなに面倒なのに、どうして誰もやれと言わないゲームだと、いとも簡単に習慣化できるのでしょう。

ゲームのほうが楽しいから?

そこをもう一歩踏み込んで考えようというのが、本書なのです。

大事なポイントがあります。ゲームは、現実逃避させてくれるのです。現実というのは、小学生にも中学生にも大学生にも社会人にも、なかなかキビしいものです。もしかしたら幼稚園生だって「いきるのってタイヘンね」とぼやいているかもしれません。

私たちはそんな現実のことを、たまさかに忘れさせて欲しいと思うものです。それは罪のない気持ちでしょう。ローンのこと、上司のこと、難病のこと、災害のこと、そして締め切りのこと、わけのわからない意地悪おじさんのこと。 

そのような苦々しい現実を忘れさせてくれる、コーヒーのいい香り、リゾートホテル、アイスクリーム、アバンチュール、まんが、タバコ、カジノ、カラオケ、スキー場。

すなわちこういったものは「目の前の現実を忘れさせてくれる効用がある」という点で、一致しているのです。行きすぎれば、「とにかく現実を忘れたい! 忘れてはならない現実でも、ムリヤリ忘れてしまいたい!」となり、「依存症」を引き起こすわけです。

タスク管理のゲーム化が難しいのは、どんなタスク管理であれ、タスク管理とは「現実を忘れるためのもの」ではなく、「現実そのものに取り組むためのもの」だからです。タスク管理に向かうということは、ゲームにはまる理由と、まるで対極です(だから「タスク管理の習慣化」はできても、「タスク管理依存症」にはなりにくいわけです。目の前の現実を管理することによって、目の前の現実を忘れるというのは、原理的に無理があります)。

本書を読めば、うさぼうさんが、この難しい課題にどういうアプローチで取り組んでいるかが見えてきます。たとえば「Todoist」というタスク管理ツールの「ゲーム化への試み」が、今のところこの目標を明確に意識しています。要約すれば次のような内容のことです。

本書では、ゲーム化を通じて慣れてきたタスク管理を飽きずに続けられるよう、このフック・モデルを参考にします。

本書を通じて私が理解したことがありました。

ゲームでは、この「飽き(プラス倦怠感)」をわざわざ作りだしているのです。古典的なRPGなどで、グルグル同じところをさ迷わせられている感覚に、ゲンナリ感を味わったことのある人は多いでしょう。

しかしゲームであれば、ちゃんとやりこめば必ず、袋小路を突破する、重要な突破口にたどり着くことができます。それも派手な演出付きで。現実世界ではしばしば突破口も演出も欠けているため、人をしてゲーム(や、アイスクリーム)に逃避させてしまうのです。

タスク管理ツールにも、「突破口へのサポート」なり「突破を祝した派手な演出」が用意されれば、新しい展望が開けるかもしれません。

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▼編集後記:
佐々木正悟



こちらは拙著の紹介ですが、私はこの本を書いている最中にも「現実逃避」と「タスク管理」の間の気持ちというものを味わいました。

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現実においては、この本を書き進めねばならない。それは無理なことではないが、毎日1500字を確実に進めるのは、しんどいときもある。

いっぽうで、現実逃避の手段は今やごまんとあります。コミックでも読書でもYouTubeでも。何ならアマゾンの動画視聴サービスを無料で試すのもいいでしょう。

おそろしい感じがします。よく自分は毎日仕事をする気になれるものだ、と思うからです。

本を書くということはやりがいも楽しさもありますが、どっちもほとんど感じられないタイミングというのも、たくさんあるわけです。本書は250ページ以上ありますが、100ページに少し不足しているあたりをウロウロしていた時期は、何とも言えないネガティブな感覚がありました。

そんなときに、中学生ごろにはまったゲームを無料でいくらでも楽しめるといった類の情報は、なんとも蠱惑的です。二度寝のような、ふっとそちらに落ち込んでしまったらずいぶん楽そうだし楽しそうだと惑溺せずにはいられない欲望がわき起こります。

なぜ、そんなときでも結局文字を打つことができたのだろう?
こう思ったとき、その瞬間に思ったことを書いたログがあれば、と思うのですが、今はそれがあるのです。だから以前よりはずっと、仕事を進める気持ちを思い出しやすくなっています。

いまや世の中にはいろいろなゲームがあります。しかし、遊び終わったときに記録を残すという習慣は、たいていのプレイヤーが持っていません。ゲーム中の感情ログなどを残すこともできたらいいのにと、多くのゲームを眺めながら考えます。