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ラーメンと執筆と



倉下忠憲ラーメンは、麺とスープと具材の3つの要素で成り立っています。

やはりラーメン(拉麺)というのですから、麺がないと始まりません。かといって、「はい、どうぞ」と麺だけを出されても、それはそれで困ります。やっぱりスープは欲しいところ。

さらに、麺とスープだけでも少々寂しいものがあります。特にお店で食べるようなラーメンがスープと麺だけだったら、がっかり感がありますね。チャーシューとかナルトとかメンマとかネギとか、まあ、何かしらそういうものが欲しいところです。

と考えてみたところ、これは執筆__本作り__についてのメタファーになるのではないか、という気がしてきました。

3つの要素

麺は、メッセージです。伝達したい情報と言い換えてもよいでしょう。

麺は適切なサイズでないといけません。太すぎると食べにくいですし、細すぎるとお箸で掴みにくくなります。もちろん、固すぎる麺は飲み込みにくいものです。ちゃんとしたコシがありながらも、適度な柔らかさが必要になります。

また、一杯のどんぶりに入れられる麺の量は決まっています。小さいどんぶりには少ない麺が、大きなどんぶりにはたっぷりの麺が投入できます。

スープ

スープは、コンセプトです。コンテンツ・デザインと言い換えてもよいでしょう。

ラーメンの味を決めるのはなんといってもスープです。それによってあっさりになったり、こってりになったりとさまざまに表情を変えます。

中心になるメッセージは同一としても、それをいかに表現するのかにはさまざまな選択があります。たとえば「Evernoteの使い方を紹介する」場合でも、スパルタでいくのか、柔らかくいくのか、文章主体でいくのか、漫画を使うのか、説明文が続くのか、対話形式を用いるのか、といった選択があるわけです。そして、その選択によって、メッセージの受け取られ方というのは変わってきます。

具材

具材は、アクセントです。装飾やおまけと言い換えてもよいでしょう。

具材がなくてもラーメン自体は成立します。しかし、異なる食感が配置されていることで、より箸が進んだり、スープとは異なる具材よって、味に深みが加わったりもします。

必要最低限の説明だけが並んでいる文章は、それ自体で成立します。しかし、ちょっとしたジョーク、蘊蓄やエピソード、コラムといったものがあれば楽しく文章を読み進めていけるでしょうし、記憶のトリガーが生まれることも期待できます。

「それがなくても成立するが、あった方が彩りが加わる」というものがあるわけです。

大切なことは

このように考えてみると、まず「三つの要素が調和している」ことが大切だ、ということが見えてきます。

ラーメンの場合でもそうですが、それぞれは美味しいけどどうにも味がちぐはぐしている、といったことが起こりえます。メッセージとコンテンツ・デザインがマッチしていなかったり、あるいはアクセントがずれていたりすると、「全体感」が失われるわけです。

メッセージを中心にしてそれを活かせるコンテンツ・デザインを考えたり、あるいは既存のコンテンツ・デザインを用いてそれに合うメッセージを添えたりとやり方はいろいろあるでしょうが、内容と表現がうまくマッチするように考えることはコンテンツ全体のクオリティを向上する上で重要かもしれません。

またこのメタファーからは、スープが土台である、ということも見えてきます。

どれだけ優れたメッセージがあっても、それを載せるコンテンツ・デザインがイマイチだと、うまく受け取ってもらえません。

そして、その二つは基本的には別ものです。「何を言うのか」と、「どう表現するのか」は__だいたい考える人は同じなのですが__別のスキル軸にあるわけです。

そして、「どう表現するのか」は、簡単に言えばその人の「引き出し」の総体です。これまでどんなコンテンツを、どのように摂取してきたのか、という経験が物を言うわけです。ラーメンにおけるスープ作りがそうであるように、こればかりは一朝一夕ではどうしようもありません。

そして、書き手の力量と呼びうるものも、このスープ力が大きな比重を持っていると予想できます。だから優れた書き手にはなかなか追いつけないわけです。でも、不可能というわけでもないでしょう。

さいごに

今回は、文章を書く、もっと言えば「本」を作るという行為を、ラーメンをメタファーにして考えてみました。いささか突飛な想像ですが、いくつかの点では「なるほど、そうかも」と思える要素があったかもしれません。

ここで大切なのは、「要素に分解して考えてみる」ということです。それで事態の複雑さが解消されるわけではありませんが、漠然と考えていただけではわからなかった、「次に取るべき行動」が見えてくることもあるでしょう。そうなれば、しめたものです。

▼今週の一冊:

私は開発者でもなんでもないのですが、「アジャイル」というキーワードが気になっているので、ちょっと読んでみました。コンテンツ・デザインがなかなか楽しい本です。

この本を読みながらずっと考えていたのは、この手法を「執筆」に取り入れられないか、という点。完成品を準備しておくとか、テストの自動化といったことはそのままでは応用は難しいですが、執筆のプロセスを変えるヒントにはなりそうな気がします。

» アジャイルサムライ――達人開発者への道[Kindle版]


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▼編集後記:
倉下忠憲



つ、ついに、だっ、脱稿しましたよ……。いまはランボーがアサルトライフルか何かを宙に向けてぶちまけているような気分です。発売は今月の26日ということでもう少し先ですので、また発売が近づいたら告知させていただきます。

» ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由



▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。

» 知的生産とその技術 Classic10選[Kindle版]