数万字を超える文章を書くのは、なかなかたいへんです。
文章を書く、文章を書き直す、文章を並び替える、文章をつなぎ合わせる……。
たくさんの作業が必要となります。
また、それらをクリアしていくには、短くない期間も必要です。
膨大な作業量と、長期に及ぶ期間。
そこでは、ほとんど必然的なまでに「忘れる」という現象が発生します。
人間ですから仕方ありません。
何をやろうとしていたのか、何をやったのか、何が問題なのか、次に何をすべきなのか。そうしたことをポロポロと忘れていくのです。
忘れてしまえば把握できなくなり、把握できなければコントロールできなくなり、見通しとコントロール感がなくなれば、モチベーションも下がります。
大きな文章を書くときに立ちはだかる困難は、そんなところにも発生源を持っているのです。
リライトを残した数万字の文章は、表現を改めるべき部分があり、コピペしたので前後の流れを整える部分があり、要素を重複していないかチェックすべき部分があり、順番を入れ換えたために書き方を変えなければならない部分があります。
そうしたさまざまな「やるべきこと」が、単に頭の中にあるだけでは脳は疲れ切ってしまいます。
そんな状況の際、「気になること」を書き出して、リストを作るというのがGTD的なアプローチですが、たとえばコメントを使う方法もあります。
コメント・ライティング。
コメント・コーディング
プログラムを作るコーディングの作業では、コメントを入れるのはほとんど必須です。
コメントは、そのコードが何をしているのか、どんな意図があるのかを記しておいたり、あるいは改修すべき案件を備忘する役割があります。コメントがあることで、コードの可読性が上がり、他の人への引き継ぎが容易になります。
※この場合の「他の人」は、一ヶ月後の自分も含まれています。
エディタを使って大きな枠組みの構造物を作っていく、という点ではコーディングもライディングもさほど変わりません。
であれば、コメントの入力は、執筆においても活躍が期待できます。
コメント・ライティング
具体的には、私は以下のようなコメントを書き込むようにしています。
頭に付いている星マークはコメントの印です。これはコメントである、と明示しているわけです。また、この星マークで文章全体を検索すれば、残っている「やるべきこと」をすぐさま探し出すことも可能です。そのためには、本文中で滅多に使わないような記号をチョイスしなければいけません。逆に言えば、その基準を満たす限り星マークでなくても何でもOKです。
リライトを進めていて、「ん?」と思った部分で、さらにすぐには手直しできないような場合、コメントを書き入れます。具体的にやるべきことがわかっているならそれを、そうでなければできるだけ感じた違和感をそのまま書き残します。
コピー&ペーストした部分の前後にも[、]付きのコメントを入れ、その部分が後から挿入された(=前後の文章のつながりをチェックする必要がある)ことを明示します。
文章を追記する際も、直接書き入れるのではなく、まず[★リライト開始][★リライト終了]を入力し、その間に文章を書き込んでいくようにします。こうしておけば、「ここはまだ不完全な状態です」ということを明日以降の自分に明示することができるのです。
さいごに
こうやってコメントを書くようになってから、大きな文章に「圧倒される」ことが少なくなりました。
コメントがない状態だと、「あれもやらなければ、これもやらなければ」という思いが次々に浮かび、しかもそれらの粒度がバラバラなので、具体的なアクションに踏み切るための脳のエネルギーが湧いてきにくいのです。
最終的には、その文章を見るのすら嫌になることもありました。
コメントがあると、(量はどうあれ)「とりあえず、今はこれをしよう」と具体的な行動に意識をフォーカスできるようになります。
それは脳にとって必要な「見通し」を与えてくれるのです。
コメントをチェックし、必要な作業が終わったら、そのコメントを削除します。そうやって、徐々に完成原稿の姿へと近づけていくのです。その感覚だけでなんとなく「進捗している」という実感が味わえるのもポイントです(そのログを残すようなエディタがあればなお良しなのですが)。
もし、大きな原稿で進捗が芳しくないのならば、コメントライティングを活用してみてください。
メメント・コメント。
▼今週の一冊:
まだ、パラパラと読み始めたばかりですが、いきなり面白いです。
システムとはどのようなもので、それをどのように認識すればよいのか。複雑な状況を複雑なままに(つまり還元せずに)、シンプルに思考する方法。
それを紹介する一冊です。
» 世界はシステムで動く ―― いま起きていることの本質をつかむ考え方
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。