どんなに気の進まない仕事でも、いったん取りかかりさえすれば、その後は不思議と必要なやる気もわいてきて、止まらずに進められるようになるものです。これは「笑えば楽しくなる」のに似ています。
問題は、この最初の「敷居」をどう乗り越えるか。
こういうときはツールの出番です。
具体的にはDueというiPhoneアプリを使います。『iPhone習慣術』という本で今回ご紹介する使い方が詳しく解説されています。
試しに、ある朝「Due」で1日分のリマインダーを設定してみたところ、全部で32項目になりました。「原稿を書く」「企画書をメールする」といった仕事関連のものから「歯を磨く」「風呂のお湯を入れる」のようなささいなものまで、日中はおよそ20分に1回の割合でアラームが絶え間なく鳴り、さすがにうっとうしく感じられます。
しかし数日続けてみたら、「遅刻や忘れ物がなくなる」だけではない、思わぬ効果が現れました。
仕事や習慣を漏れなくDueに預けることの3つのデメリットと3つのメリット
僕自身も、朝一番の習慣である「発火本の音読」から就寝前の「PCディスプレイの電源を切る」に至るまで一日の中で外せないルーチン(日課となっている仕事や習慣)はすべてDueに登録しています(※「発火本」の内容は月に1度入れ替えています)。
引用に書かれているように、最初のうちは心底「うっとうしく」感じられましたが、使い続けるうちに快適になり、今ではDueは欠かせないアプリとなりました。
そこで、Dueを使うことの3つのデメリットと3つのメリットをご紹介します。
まずデメリットは次の3つです。
- 1.やらないでいると1分ごとにリマインダーが鳴る
- 2.やらないでいると後で確実に調整の手間が発生する
- 3.やらないでいると自己嫌悪に陥る
1.やらないでいると1分ごとにリマインダーが鳴る
いくつかのルーチンについては、完了させない限り1分ごとにスヌーズさせるようにDueに設定しています。完了ボタンをタップしない限り、1分ごとにリマインダー(通知音)が鳴るのです。
自宅で仕事をしている関係で回りに気にせず音を出せますので、自分にとってもっとも不快なサウンドをスヌーズ音に設定しています。こうすることで、そのリマインダーが鳴るたびに「イラッ」とします。
「自分でその時間にやると決めたにもかかわらず、現実にはやっていない」というズレが文字通り不協和音として耳障りな音を発してくるわけです。
出先では音を消してバイブに変えますが、それでも1分ごとにバイブが鳴るのも十分に不快です。本来やるべきことではなく、別の作業にかまけ続けている限り、1分ごとにバイブが鳴り続けるからです。
2.やらないでいると後で確実に調整の手間が発生する
たとえば、これは朝の僕のDueです。時刻は7:00ちょうどで、次のようにリマンダーが組まれています。
- 7:10 発火本の朝の音読
- 7:20 読書その1
- 7:30 じゃーなる執筆
- 8:00 朝食開始
- 8:30 朝のルーチン
Dueは1時間以内なら相対時刻(今から何分後か)を表示し、1時間以上ならその時刻を表示します。パッとみて「~分」という表示のあるリマインダーは1時間以内に鳴り始めることを表しています。
7:00の時点で最初のリマインダーである「発火本の音読」に取りかかれそうなら、取りかかるタイミングでこのリマインダーの完了(右端の○で囲まれた「1」)をタップします。
こうすることで、次のリマインダーである「読書その1」まで20分のスペースができます。「発火本の音読」は読むページ数を決めてあり、せいぜい10分で読み終えるので、実質的には10分のスペースしか使わず、残り10分をキープできます。
つまり、7:10の時点で次の7:20の「読書その1」に取りかかれる体制が整っていることになります。
ここで10分前倒しにして「読書その1」に取りかかると、その次のリマインダーである「じゃーなる執筆」まで20分のスペースが生じます。設定どおりなら10分しか読めなかったところを倍の20分を読書に費やすことができるのです。
このように、ある程度の余裕をもってリマインダーをセットしてあるため、リマインダーに追われるというよりむしろリマインダーを追いかけていくようなイメージになります。
しかし、ここで7:00から何となくネットサーフィンを始めて、7:10に鳴り始めた「発火本の音読」のリマインダーも、次の7:20の「読書その1」のリマインダーも無視してえんえんと突き進むと、詰み始めます。
7:30になるとさらに次の「じゃーなる執筆」のリマインダーも鳴り始め、Dueは次のような表示になります。
- 20分前 発火本の朝の音読
- 10分前 読書その1
- 16秒前 じゃーなる執筆
- 30分後 朝食開始
- 60分後 朝のルーチン
3つめは秒数がリアルタイムにカウントアップしていき、60秒になると1分のリマインダーが鳴ります。さながら繰り返される時限爆弾のようです。
実際のDueの画面上では表示は赤くはなりませんが(代わりに背景がグレーから薄い黄色になる)、本来終わっているはずのタスクたちから1分おきにリマインダーの“大合唱”が続きます。上記の場合3つが未完了なので、1分ごとに3回のリマインダーが鳴ることになり、きわめて「うっとうしい」ことになります。
こうなってしまったら、打てる手は2つ。
1つは、終わっていなくても終わったことにしてすべてを完了扱いにしてしまうこと。こうすることで“大合唱”は収まります。その時はあとでやろうというつもりでも、ここで完了扱いにして「見えなく」なることで、結局はやらずにその日が終わる可能性が高くなります。
もう1つは、調整を試みること。後続のリマインダーを少しずつ後ろにずらしていき、未完了のタスクに敗者復活のスペースを空けるのです。
先ほどの状態は7:30でしたから、次のようにずらすことになります。
- 10分 発火本の朝の音読
- 20分 読書その1
- 30分 じゃーなる執筆
- 60分 朝食開始
- 9:00 朝のルーチン
これで、Dueの画面上では7:00の時点と同じ見え方になりましたが、実際には30分間の予定外のネットサーフィンによって、当初予定より30分後ろにずれこんでいる状態です。
現実には9:00以降にも仕事の予定が入っていることが多いので、このような調整は容易ではなく、「もう午前中は無理だから午後にまわそう」といった苦肉の策に出ることになり、少しずつ全体の流れが淀んでいきます。
さらに、そもそも予定通りにコトを運んでいれば、調整のためにかかる時間も手間もかけずに済んでいるわけですから、損失はいっそう膨らみます。
3.やらないでいると自己嫌悪に陥る
自分で組んだリマインダーを自分で崩壊させる、という「セルフ・賽の河原積み」のようなことはそう長くは続けられませんから、いずれ自己嫌悪に陥ります。
自信がなくなり、本来できるはずのこともできなくなってしまうのです。仕事や習慣を漏れなくDueに預けるということは、こうしたリスクと背中合わせである、というわけです。
そこで3つのメリットのほうに目を向けます。
次の3つです。
- 1.やると不快なリマインダーを事前に押さえ込める
- 2.決めた通りにどんどん仕事が片付いていく
- 3.決めたことがきちんとできる人間だという自信がわく
1.やると不快なリマインダーを事前に押さえ込める
3つともすべてデメリットの裏返しです。
リマインダー通りに、あるいはリマインダーに先んじて取りかかることができれば、あの不快なリマインダーを封じ込めることができます。
ドラクエでポイズン系のモンスターを、あの不快な毒の息を吹きかけられる前に一撃で仕留めた時の快感に似ているかもしれません。
2.決めた通りにどんどん仕事が片付いていく
仕事がどんどん片付いていくのは快感なものですが、それがあらかじめ決めたとおりであれば、その快感はさらに増すでしょう。ドミノ倒しが途中でいっさい止まることなく勢いよく倒れ続ける時の爽快感に似ています。
冒頭で引用した『iPhone習慣術』には次のようなメリットが紹介されています。
「あとでやるべきことをいちいち記憶しておかなくてもiPhoneが知らせてくれる」と納得すると、脳の負担が急に軽くなって、iPhoneが知らせてくれるまでは実行中のことにもっとエネルギーを注げるようになります。
これによって、あたかも、頭の中の風通しが急に良くなったような、さわやかな感じがありました。
3.決めたことがきちんとできる人間だという自信がわく
リマインダーというレールに沿ってどんどん仕事を片付けられるようになると、「私は決めたことをきちんと実行できる人間だ」という自信がわき、実際に仕事を片付ける能力も向上するでしょう。
まとめ
すべては最初のリマインダーセットの組み方にあります。理想だけを追求した無茶なリマインダーセットは必ず崩壊します。「セルフ・賽の河原積み」はもうやめましょう。
では、どうすればいいか。
次の4つの手順で少しずつ自分のリズムにあったリマインダーセットを組み上げていくことです。
- 1.大まかな一日の仕事や習慣の流れを記録する
- 2.1をもとに理想的な流れをつくる
- 3.2を元にDueにリマインダーをセットしてみる
- 4.このDueに従って作業してみる
- 5.必要に応じてリマインダーを置く時間帯や間隔を調整する
きわめて地味で地道な試行錯誤ではありますが、これを繰り返すことで、自分にとってもっとも無理のないリズムが確実に手に入ります。
その意味では、Dueはリズミカルな行動を生み出すためのメトロノーム、あるいはコンダクターと言えるでしょう。
ご紹介した『iPhone習慣術』にはKindle版もありますので是非チェックしてみてください。
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