文章を書いていると、「う~ん」と唸ってしまう時があります。
次なる文は思いつくのですが、書き出してみるとなんだかシックリきません。「なんか違うな・・・」という気持ちが付きまとってきます。
この「なんか違うな・・・」は、文章を書き上げた後にも発生します。読み返してチェックしてみると、どうにも文章がスッキリしていないのです。澱んでいる、と言ってもいいかもしれません。
そういうときは、次のようなことを試してみます。
- 文を解体する
- 主語を変える
- 表現を変更する
それぞれ見ていきましょう。
文を解体する
ごてごてと長くなった文章があれば、それを短文へと解体していきます。
だいたいにおいて、スッキリ感を阻害する文章は、複雑な構造を持った文章です。特に複文など、述語が二つ以上入った文は危険です。うまく扱わないと、意味が伝わりにくい文章になるばかりか、主語と述語のねじれ現象を引き起こす可能性すらあります。
これは「短文だけで文章を構成せよ」という話ではありません。文章がスッキリしなかったら、重文や複文を分解してみてはどうか、という一つの提案です。
上の文章も、勢いよく書いていると、
これは「短文だけで文章を構成せよ」という話ではなく、文章がすっきりしないのであれば、重文や短文を分解してみてはどうか、という一つの提案です。
と長い文章になりがちです。
二つの文章の意味はまったく同じですが、上の方が少しだけ読みやすいですね。
主語を変える
次の文にスムーズにつながらない場合は、主語を変えてみるのも一手です。
ありがちなのが、能動態と受動態の変更ですね。
- 彼は私を招いた。
- 私は彼に招かれた。
この変更は、まだまだ平穏なものです。文章に大幅な変化は生まれません。
しかし、次の3つの文章ならばどうでしょうか。
- 読みやすさの点において、文章は短い方が良い。
- 文章を読みやすくしたいのならば、あなたは文章を短くした方が良い。
- 読みやすい文章の多くは、短い文で構成されている。
なんとなく言いたいことは近しい3つの文ですが、100%同じではありません。また、この文の後に続く文もそれぞれ異なるでしょう。
文章がスッキリしない感じの原因の一つは、「言いたいことに近いんだけども、完全一致ではない」という感覚です。それは、用いるべき主語がズれているのかもしれません。これを変えてみると、すっきりと文章が流れ始めることがあります。
表現を変更する
三つ目は、文章のリズムに関する「なんか違うな」への対処法。簡単にいえば、文意は変えずに、表現だけを変更する方法です。
この表現の変更には、いろいろなバリエーションが考えられます。
なかでも、名詞的表現と動詞的表現の入れ替えは、簡単に使える方法です。
たとえば、上の文章は
なかでも、名詞的表現と動詞的表現の入れ替えは、簡単に実行できます。
と書き換えても、文意は変わりません。
また、「文意は変わりません」は「文意が変わることはありません」と書き換えることもできます。
こうした書き換えは、文章のリズムを整える上で役に立ちます。読みにくさを感じたら、こうした表現の変更を行ってみるのもよいでしょう。
さいごに
今回は文章をスッキリさせるための三つの方法を紹介しました。
- 文を解体する
- 主語を変える
- 表現を変更する
もう一つだけ付け加えるとすれば、「必要ないと思われる部分は、まるっと削除してしまう」があります。これは心理的に実行するのが難しい行動ですが、やるだけの価値はあります。
ちなみに、これらの方法は立花隆さんの『「知」のソフトウェア』でも紹介されています。その本で知って以来、私の「作文の道具箱」に入れて、ずっと使い続けている方法です。
▼参考文献:
情報のインプットとアウトプットの方法論が紹介された一冊。
最近、改めて読み直したのですが、私の文章作法は、かなりこの本に影響を受けていますね。どんな本と最初に出会うのか、というのは結構重要な要素である気がしてきました。
あと、インプットの手法はデジタル化への移行で大きく変化した部分がありますが、アウトプットについては、「ワープロ登場」以降、あまり変わっていないような気もします。まあ、脳が変わっていないのから当然なのかもしれませんが。
▼今週の一冊:
文章技術ということで、以下の本を。
タイトルに「数学」と入っていますが、数学者や数学の教師だけに限定される内容ではありません。
他の人に何かを説明する文章を書く人には、一様に役立つ本でしょう。「基礎編」とありますが、本当に基本的なところがしっかり押さえられています。基礎なくして、応用はありません。わかりやすい文章を書くためのセオリーを知るためには最適な一冊でしょう。
私が__一人の物書きとして__本書に感じた「良さ」は二つあります。
一つは「読者のことを考える」を軸に置いていること。本書の最初に登場するテーマでもありますし、その他の方法論も、この原則へと還元されます。ちなみに、私が本を書くときにも「読者のことを考える」を重要視しています。それ以外は後から乗っかってくる要素でしかありません。
正直なところ、100のバラバラなテクニックを知るよりも、たった一つ、この原則さえ、心の奥の方にインストールできたならば、それで充分と言えるかもしれません。それぐらい大切なことです。
二つ目の良さは、本書自身が「読みやすい」本になっていること。これは当たり前のように感じるかもしれませんが、実際のところ、文章読本が読みにくいという笑えない話は珍しくありません。それは著者が手を抜いているのではなく、「読みやすい」本を作るのが、かなり大変な作業だからです。
本書は、構造がしっかりと作られており、読者も安心して読み進められます。なんとなくバッハの音楽のような感じがしました。
» 数学文章作法 基礎編 (ちくま学芸文庫)[Kindle版]
Follow @rashita2
加速装置というものがあるならば、毎日使いたいぐらいの気分です。書くことというか、書きたいことが多いんですね。企画のイメージだけが先行して、体が追いついていかない感じです。まあ、焦ったところで何一つ事態は好転しませんし、時計の針がゆっくり進むこともありません。じわじわ前に進めていくしかありませんね。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。