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整理の効能と開き直り戦略

整理の効能と開き直り戦略

photo credit: Vurnman via photopin cc

倉下忠憲
皆さんの机や書類入れは整理されているでしょうか。

「整理されている」とは、必要なものがぱっと取り出せる状態になっているということです。

もし、こういう状態になっていないのならば、時間を無駄にするばかりか、もっと大切なものを失ってしまっている可能性があります。

もっと大切なもの?

それは、思考力です。

整理されていない環境での作業は、思考力の無駄遣いが起きているかもしれません。


能率向上だけが目的ではない

『知的生産の技術』の中で梅棹忠夫氏は、整理や事務の技法は能率の問題__つまり時間の節約が目的__だと捉えられがちだが実際は違う、と前置きした上で、次のように書いています。

これはむしろ、精神衛生の問題なのだ。つまり、人間を人間らしい状態につねにおいておくために、何が必要なのかということである。かんたんにいうと、人間から、いかにしていらつきをへらすか、というような問題なのだ。整理や事務のシステムを整えるのは、「時間」がほしいからではなく、生活の「秩序としずけさ」がほしいからである。

何かの書類を探す。机の上には見つからない。書類れを探すも見つからず、大型のスクラップブックをめくる。そこにもなく、結局もう一度もらいに行くことに・・・

こうした作業は時間の浪費だけでなく、心理的な影響も見逃せません。

書類が見つからないことにいらいらしたり、不安を感じてしまえば、認知資源が失われます。別の表現を使えば、知的体力が損なわれてしまうわけです。そして、それは即座に回復する類のものではありません。結果的に、本来的な知的活動に十全の状態で望めないことになります。

強い怒りやいらいら、それに不安というものに苛まれている間、深い思考に沈む込むのは難しいでしょう。思考は脳を使って行われている以上、感情がそのリソースを使ってしまえば、思考が使える分は減ってしまいます。

知的生産の技術のひとつの要点は、できるだけ障害物をとりのぞいてなめらかな水路をつくることによって、日常の知的活動にともなう情緒的乱流をとりのぞくことだといっていいだろう。

これまた別の表現を使えば、「ストレスフリー」な状態を作ることが要点になると言ってもよいでしょう。

開き直り戦略

このことを起点に考えれば、机や書類がきっちり整理されていなくてもよい、という可能性が立ち上がってきます。

ようは必要な書類がなかなか見つからなくても、いらいらしなければよいのです。心の静寂が保たれ、水がスムーズに流れていれば問題ないのです。

机の上に書類が山積みでも、「この山のどこかには必ずあるから問題ない」と剛胆に構えられたり、全ての書類を捨ててしまっても、「必要になったらまたもらえばいいさ」と優雅に振る舞えるならば、認知資源への影響は極小で済むでしょう。

つまり、一種の開き直り戦略です。とある方のセリフをもじれば、「気にしなければどうということはない」という感じ。

おそらくこれはこれで有効な手法でしょう。ただ、適用できるかはその人の気質に依る部分が多くあるかと思います。

私なんかは時間貧乏性なので、何かを探し回っていると「あぁ、この時間があれば別のことができるのに」と心を乱してしまします。こういう人は、開き直り戦略は向きません。多少面倒でも、必要な時にぱっと取り出せるストレスフリーの環境を整えた方がよいでしょう。

さいごに

「スムーズに事が進められる」

というのは、案外大切なことです。

それは単純に時間短縮にもつながりますし、認知資源の節約にもつながります。

自分の力が10しかないとしても、その10を存分に振るえる環境を整えたいものです。

▼参考文献:

タイトルの通り、知的生産の技術についてのエッセンスがたっぷり詰まった一冊です。


▼今週の一冊:

極東ブログ」の中の人の本です。文体は軽めですが、中身は結構ヘヴィー。第一章と第二章は自分の人生を重ね合わせながら読みました。今を生きる上で、とても大切なことが語られている本だと思います。

読了してからもずっと

怖いことだが、絶望を繰り返していると、人間は傲慢になる。
絶望というのは、「絶望だ」という判断に確信をもっていることだ。

という文章が頭の隅に居座っています。たしかに、そうなんですよね。

では、逆はどうだろうか。なんてこともつい考えてしまいます。


▼編集後記:
倉下忠憲




長い間執筆を進めていた本が、とうとう3月に発売になります。また詳しい話は記事にさせていただきますが、とりあえず気分的にはずいぶん落ち着きました。かなりの難産だったので。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。