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『知的生産の技術』について書かれた、以下の記事を読みました。
» 受け取って、未来へ手渡す思考の跳躍【書評 梅棹忠夫「知的生産の技術」】(mojigurui)
さらに読み進めていくと、本書のなかの全ての章立てについて、それぞれに現代のデジタルツールやタスク管理手法と関連付けして読むことができた。多少無理がある箇所もあるが、以下にそれを列挙する。
関連付けの内容については、直接記事をご覧ください。なかなか面白いです。
今回は、私なりの視点で、この関連付けをやってみます。
ちなみに『知的生産の技術』の章立ては以下の通り。
- 発見の手帳
- ノートからカードへ
- カードとそのつかいかた
- きりぬきと規格化
- 整理と事務
- 読書
- ペンからタイプライターへ
- 手紙
- 日記と記録
- 原稿
- 文章
1.発見の手帳
現代ではユビキタス・キャプチャーが、「発見の手帳」に相当するでしょう。むしろ、「発見の手帳」の拡張版がユビキタス・キャプチャーと言えるかもしれません。
» 「全てを手帳に記録する」、ユビキタス・キャプチャーの実践(Lifehacking.jp)
「ユビキタス・キャプチャー」というのは、「人生に起こる全ての出来事を記録してゆく」という手法です。
対して「発見の手帳」は、『知的生産の技術』では
まいにちの経験のなかで、なにかの意味で、これはおもしろいとおもった現象を記述するのである。あるいは、自分の着想を記録するのである。それも、心おぼえのために、みじかい単語やフレーズをかいておくというのではなく、ちゃんとした文章でかくのである。
と説明されています。
「おもしろいとおもった現象」や「自分の着想」は、もちろん「人生に起こる全ての出来事」の一部です。つまり、ユビキタス・キャプチャーの方が対象が広いわけです。
しかし、「生きていく上で、記録を活用しよう」という姿勢そのものは共通しています。
2.ノートからカードへ
ノートからカードへの移行は、連結されたデータからデータベースへの移行と捉えてもよいでしょう。
じつは、ノートからカードへという移行は、われわれのような知的生産業者とは別個に、実務の世界においても、平行しておこっていたのである。戦後の実業界にまきおこった大規模な事務革命のなかで、ひとつのいちじるしい現象は、帳簿の帳票化ということであった。
現代ではEvernoteが、個人が扱える情報のデータベースになっています。
3.カードとそのつかいかた
カード・システムのためにカードは、多様な知的作業のどれにもたえられるような多目的カードでなければならない。よけないものをつけくわえるほど、その用途はせばめられるのである。
Evernoteと類似するツールがなぜ使いにくいのかが、ずばっと表現されています。ベースはシンプルで、後は使用者の用途に合わせた使い方ができる。これが、知的生産の記録媒体に求められるスペックです。
4.きりぬきと規格化
じつは、カードの使用そのものが、一種の規格化であった。カードに記入することによって、いっさいの思想・知識・情報が、型式上の規格をあたえられ、単位化されるのである。逆にいえば、新聞のきりぬきを規格化された台紙にはる、というのは、きりぬきの、いわばカード化なのである。
つまり、EvernoteにWebスクラップを保存するというのも、いわばカード化なのです。自分の思いつきから、Webスクラップまでが、すべてEvernoteにおけるノートという共通の単位に落とし込まれて保存される。ここまでは、ほぼEvernoteのお話です。
5.整理と事務
紙の手紙や書類の整理方法については、以下のようにあります。
けっきょく、民族学会理事会とか、プリマーテス研究会とか、それから交渉のあるひとりひとりの個人名のファイルができあがった。そしてそこに、その団体、その人との往復文章が全部ファイルされるのである。
Gmailのメール管理と同じスタイルです。情報の使い勝手を追求すると、この手法にたどり着くのでしょう。
もう一つ、なぜ整理を行うかについて、次のような記述があります。
これはむしろ、精神衛生の問題なのだ。つまり、人間を人間らしい状態につねにおいておくために、何が必要かということである。かんたんにいうと、人間から、いかにしていらつきをへらすのか、というような問題なのだ。整理や事務のシステムをととのえるのは、「時間」がほしいからではなく、生活の「秩序としずけさ」がほしいからである。
GTDにおける「水のような澄んだ心」が想起されるのではないでしょうか。脳がきちんと機能するためには、一定の「しずけさ」が必要です。
もちろん、「しずけさ」ばかりではノイズが無くなり、刺激もなくなってしまいます。しかし、しずけさを追求したところで、どこかしらかノイズは紛れ込んでくるものです。おそらく、それぐらいのバランスでちょうど良いのでしょう。
6.読書
読書カードや読書ノートについては、「メディアマーカー」や「ブクログ」がその役割を担ってくれます。いちいちカードやノートを作るのが面倒な人でも、簡単に記録できるのが大変なメリットです。
7.ペンからタイプライターへ
ストレートに読めば、タイプライターからパソコン(あるいはスマートフォンやタブレット)になったので、「終わっている」話です。
現代では漢字の入力も問題ありません。ツールの機能的には進歩したと言えるでしょう。ただ、本章に掲示されている問題はもっと奥深いものです。しかし、本題とはずれるので今回は割愛します。
8.手紙
手紙のバックアップと住所録はメーラーでほぼ自動的に管理されています。日常のコミュニケーションがデジタルシフトしているは、ほぼこの章での問題は問題として認識されていないでしょう。定型のデータ処理なので、このあたりはどんどん自動化が進むはずです。
9.日記と記録
三つあります。
一つはライフログについて。もう一つは業務日誌について。最後の一つはブログについて。
自分自身の経験の記録を、着実につくってゆこうというのは、資料の蓄積ということのもつ効果を信じているからにほかならない。(中略)人生をあゆんでゆくうえで、すべての経験は進歩の材料である。
記録を残していく大切さは、より切実さを増しています。シゴタノ!でよく紹介されている「タスクシュート」も、ログをベースにしたタスクの組み立てであり、実際に使ってみた人は過去のデータがどれだけ有用なのかをよく実感されていることでしょう。
さらにもう一点。
技術の開発と発展のためには、成果よりも、それにいたるまでの経過の記録と、その分析がたいせつである。
というわけで、私は電子書籍の作り方など、あたらしいことにチャレンジする際は過程をブログにアップするようにしています。どれだけ本が売れたかよりも、どうやってそれを作ったのか、そこでどんな失敗をし、それをどうリカバーしたのか、という情報の方が、有用度が高いと思うからです。
10.原稿
もはや原稿用紙を使っている人は少ないので、基本的には古い話ですが、それでも最低限の文章の書き方については情報は共有されるべきでしょう。あと、最近はセルフパブリッシングを行っている人も多いので、簡単な校正記号についても知っておいた方がよいかもしれません。
それとは別に「かならずコピーする」というお話が登場します。これはデータのバックアップについてですね。
不具合というのは、必ずいつかは起きるものだ、と考えておくのが懸命です。最近では、クラウドストレージに保存できるので、バックアップ体制については__少なくとも個人で適当に保存しているよりは__安心感が増してきています。
むしろ、ローカル環境の方がバックアップ、という感覚の人も登場しているかもしれません。ちなみに、私はもうその感覚になっています。
11.文章
「こざね法」が登場します。
現代なら紙片を使わずに、付箋を用いることができますが、それ以前に「細かい要素を並べ・組み替えて文章の構成を作る」という方法論を理解すれば、アウトライナーにでも応用が利きます。以前紹介したGingkoも、縦と横にカードを配置できるので、こざね法的な運用ができるかもしれません。
さいごに
現代の視点からみて、「まったく役に立たない」話の方が少ないくらいです。
時代が進んでも「情報」(という概念)そのものは変化していません。私たちの脳だってたいした進化はしていません。だから、私たちが情報をどのように扱うのかという、本質的な部分は変わらないのでしょう。
基本的には優秀で高速なツールが登場し、「手間」の問題はずいぶん改善されてきました。また、ツールが安価になったことで、誰でもが使えるようになったことも大きな変化です。
しかし、私たちの身の回りの情報があまりにも増えすぎたことで、「本をはじめからおわりまでよむ」といったことが難しくなった側面もあります。また、上でも述べたように「秩序としずけさ」を手に入れるためにはずいぶんと苦心する必要も出てきています。
おそらく現代における知的生産の技術では、そうしたものも取り組むべき課題になってきているのでしょう。
▼今週の一冊:
タイトル通り、戦略を学べる一冊。
戦場における戦略から始まり、現代の企業戦略までが網羅されています。ビジネス書を良く読んでおられる方ならば、耳にしたことのある名前が次々と登場することでしょう。
個人的には「プラットフォーム・リーダーシップ」が現代では鍵かなと思います。
Follow @rashita2
執筆強化月間です。言い換えれば修羅場です。まあ、原稿が遅れているので、他のことは切り捨てて(トリアージして)全力投球している状況です。なんとか月末までには盛り返したいところ。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。