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ほめるのが苦手な人は、まず自分が満足していることを相手に伝える

thankyou
photo credit: Bradley Wells via photopin cc

大橋悦夫人を動かす秘訣の1つに、「ほめる」があります。

人は誰しも自分自身のことを、あるいは自分の言動を好意的に受け止めてもらえることを期待しています。明確に意識していなくても心の奥底では「すごい!」と言われたいのです。

「ほめる」とは、こうした気持ちを受け止めたうえで、これにきっちり応えること。言い換えれば、相手の期待しているところ、すなわち“ストライクゾーン”を外すと失敗に終わる、ということでもあります。

ここに「ほめる」の難しさがあります。

見え透いた、うわべだけのほめ言葉を使っても、相手の心には届かないわけです。

そこで、今回は「ほめる」のが苦手な人でも相手の心を、さらには相手そのものを動かす秘訣をご紹介します。

「自分でやっていたらこんなにうまくできなかった!」

結論から言えば、ムリに「ほめ言葉」をひねり出すのはやめて、とにかく相手に感謝すること。
これに尽きます。

そうは言っても、「ありがとう」という言葉はすでに伝えていることが多いと思いますので、ここからさらに踏み込んで、

  • 自分がいかに満足しているかを相手に伝える

ようにします。

たとえば、

「すごく困っていたので助かりました!」
「自分でやっていたらこんなにうまくできなかった!」

といったことです。

人に何かをやってもらったことで、自分のもとにもたらされた「メリット」や自分の中に生じた「ポジティブな気持ち」をありのままに伝えればOK。

立場を入れ替えて、自分が頼まれる側だとしたら、言われてうれしいのはどんな言葉かを考えてみます。「機会があれば、またこの人の役に立ちたい」と思えるようなものだとなお良いでしょう。

感謝されると親切心が倍増する

関連して、こんな実験があるのを知りました。

515. 「ありがとう」の伝染力 | 起-動線

69人の被験者はそれぞれ、エリックという人物からメールを受け取ります。就職活動に必要な書類の一つであるあいさつ状(以下カバーレター)のレビューを依頼する内容です。被験者がレビューを返信したあと、エリックはその返信でさらにもう一通ぶんのレビューを依頼します。

ただし冒頭部分は同じではありませんでした。被験者の半数には1回目のレビューに対する感謝の言葉が、残りの半数にはただ中立的な言葉が、添えられていたのです。

結果はどうなったか。エリックから感謝の言葉を受け取った被験者の66%が再依頼に応じたのに対し、感謝の言葉がなかったグループは32%しか応じませんでした。

感謝すると「次への扉」が開かれるわけです。頼まれる側からすれば、感謝されると「優先順位」が上がる、ということでもあります。

「ありがとう」という報酬

最後に、まとめを兼ねて「ほめる」専門家である西村貴好(にしむら・たかよし)さんの本に載っていたエピソードをご紹介します。

少し長いですが、引用します。ホッケのフライが食べたくなります。

» 『泣く子もほめる! 「ほめ達」の魔法』

ある日、Iさん(注:ガソリンスタンドのスタッフ)は日本テレビ系の読売テレビでバラエティ番組『秘密のケンミンSHOW』を見ていて、気になる食べ物に出会いました。北海道民が食べているという「ホッケのフライ」です。

「ホッケの開き」なら、Iさんの住む大阪で、いくらでも食べられます。しかし、生のホッケや、それを揚げたというホッケのフライは、見たことがありません。

数日後、常連客の1人、J水産のお客さまが軽トラックのオイル交換で来店した時、Iさんは、なにげなく「生のホッケって、売っていますか」と聞いてみました。

「ホッケは開きしかないね。でも、なぜ?」と聞かれて、テレビで見たフライのことを説明しました。

そして、

「テレビでは、本州では生のホッケは販売されないと言ってたんです」
「ホッケはいたみやすいからなあ。食べたいの?」
「はい。フライの映像がものすごくおいしそうだったので」
「魚市場を見てみようか」

という会話を交わしました。

普通はそれで終わりでしょう。

ところが、J水産のお客さまは数日後、生のホッケを袋に入れて、わざわざ来店してくれたのです。

「ホッケが入った! フライの話を聞いて、仕入れて店に並べてみたんだよ。すると『ケンミンSHOW』を見た人が結構いて、すぐに売り切れそうだったから、持ってきたんだ」

と、まるで大好きな人にやっと会えた時のような飛びきりの笑顔でホッケを渡してくれたそうです。

もちろんIさんは大感激でした。わざわざ仕入れ、わざわざ自分の魚店に並べ、わざわざ持ってきてくれたのですから、うれしくないわけがありません。

お客さまも「魚でこんなに喜ばれるのは何年ぶりだろう。俺もうれしい」と心をひとつに喜んでくれ、「食べたら感想を聞かせる」ということで携帯電話番号を交換して別れました。

「ホッケのフライ」の味は期待にたがわぬものでした。しかも、あとで知ったことですが、J水産のお客さまは1匹680円もするホッケを3匹1000円という破格の値段で届けてくれたのです。

Iさんは、お客さまの携帯に電話をかけて、改めてお礼を言うとともに、フライのカリカリ感と、ホッケの身のほくほく感を伝えました。Iさんとお客さまが、またまた盛り上がったことは言うまでもありません。

人は、仕事を通して誰かの役に立ちたいし、感動されたいし、「ありがとう」と言ってもらいたいのです。それは、お金には変えられない価値を持っています。

J水産のお客さまも同じ気持ちなのです。魚を売る仕事を長くやってきた中で、Iさんのように心の底から感動してくれる人は、そうそう多くはなかったはずです。だからこそ、「何年ぶりだろう」と喜んでくれたのです。

きっかけは、なにげなく目にしたテレビ番組でした。それがホッケという魚だったことで、得意先のJ水産に話を切り出し、そこからIさんもお客さまもとてもハッピーになることができました。

仕事の喜びというのは、こうした人と人の小さなやりとりを通してはぐくまれていくものなのです。


参考文献:

ほめる効用と事例が大量に載っており、読んでいるだけで気分がよくなる一冊。
つまり、この本そのものが読者を「ほめる」内容になっているのですね。

» 泣く子もほめる! 「ほめ達」の魔法 (経済界新書)[Kindle版]


» 『泣く子もほめる! 「ほめ達」の魔法』