最近、仕事で心がけていることの1つに「時刻指定納品」があります。先方に納品予定時刻をあらかじめ宣言し、これを守るようにする取り組みです。
宅配便各社は、ずいぶん前から時間帯指定での配送を手がけていますが、時間帯よりも精度の高い「時刻指定」です。
例えば、通販などで
「納期は2週間です」
などと言われることがありますが、よほどどうでもいい商品でない限りは、
「いつ届くんだろう…明日かな? 明後日?」
と毎日のように気になるでしょう。それが、
「お届けは月曜日になります」
と言われていれば、
「よっしゃ、明日届くぜ!」
という“正確な期待”を抱けます。期待を無駄にせずに済むわけです。
同じような感覚は、あなたのお客さまも多かれ少なかれ、持っているのではないでしょうか?
サービス提供側の立場からすれば、あまりに詳細な約束をしてしまうことは、それが履行できなかった時のリスクを背負い込むことになりますから、気の進まないところです。
「納期は2週間です」と言ってあれば──そこに余裕期間も見込んでいる前提ですが──万一何かが起きても、期間内に対応できるかもしれません。安心です。
でも、その安心がお客さまにとっての不安、ひいては不満につながっていないか。
そんな思いからの「時刻指定納品」のチャレンジを思いついたわけです。
「とりあえず週明けに」という罠
仕事を依頼された時に、期限を決めて両者で合意しておいた方が何かと都合がいいわけですが、
その際についついやりがちなのが
「とりあえず週明けに送ります」
というあいまいな期限設定です。
「とりあえず明日中に」とか「今週中に」など、亜種はたくさんありますが、なぜか「週明け」という言葉はビジネスパーソンにとって魅力的に響くのか、よく耳に入ってきます。
おそらく、
「何かあっても土日でカバーできるだろう」
という安全志向がビルトインされているからだと思いますが、よくよく振り返ってみると、「とりあえず週明けに」は、ニアリーイコール「日曜日の晩にやります」になりがちです(自分だけ?)。
さらによくないのは、単に「週明けに」とだけしか伝えていないために、そのあいまいさを衝いて、
「具体的に何時かは決まってないし」
という拡大解釈に走り始めるのです。日曜日の晩ですから。
そんなこんなで、結局は終わらずに「週明け」を迎えます。
すると、月曜日の朝ですから、いろいろとメールや電話や来客などが立て込みます。中には即レスや1時間後レスなどの強引な要求もあるでしょう。
気づけば、「とりあえず週明けに」の仕事はほったらかし状態。
すると、またしても、
「具体的に何時かは決まってないし」
ということで、
「定時ぐらいまでに送れればよかろう」
と、いったんくさびが打ち込まれます。
でも、このくさびは心の中でひっそりと仮置きされただけのものですから、簡単にずらすことができます。
果たして、
- 「20時ぐらいまでは残業してるだろうし」
- 「今どき、21時は普通でしょう」
- 「日付が変わらないうちに…」
- 「ていうか明日の朝イチでも一緒じゃね?」
などと、段階的に期限がスライドしていくことになります(さしづめ、納期設定における「ゆでがえる」とでも呼ぶべきところでしょうか)。
「正確な期待」を抱かせる
そこで、ここは潔く、例えば、
「週明けの朝10時までにお送りします」
と伝えてしまいます。
こうすることで、自分の裁量範囲がぐっと限定されます。一見すると不利な立場に立たされたように感じられるかもしれませんが、実はその真逆です。
なぜか。
以下は、つい最近実際にあった話です。とある外注パートナーに仕事を依頼したところ、
- 「今週中にラフをお送りします」と返事
- 音沙汰なく週末に突入
- 土曜日の夕方に「週明けに提出します」とのメール
という流れに。
これは間違いなく例のパターンに陥ると思い、先方に次のようなメールを送りました。
「週明け」とは、具体的に何日の何時何分を指しますか?
すると、
抽象的なメッセージ失礼しました。
現在の予定では、月曜日の21時までに第一案を仕上げる予定です。
との返事。
先方としては、当初は「今週中」といっておきながら、実は週明けに延び、しかも21時になるなど、とても言いにくい。
そんな苦境を救ってくれるのがマジックワード「週明け」なのですが、薄々でも21時になるとわかっているなら、最初から先方にそう伝えてしまった方が楽になります。安心です。
同時に、21時という明確でマストな締め切りができますから、気合いも入るでしょう。
何となく「週明けに」としか決まっていない仕事は、締め切りが明確に決まっている他の仕事に道を譲らざるを得ない弱い立場に置かれます。そうならないためにも明確でマストな締め切りを設定して、立場を強くしてあげる必要があるわけです。
さらに、今回の仕事は、デザインの仕事であったために、その後も微調整のためのやり取りが続きます。ということは、どちらかが“ボール”を長く持ってしまうと、それはそのままリードタイムを延ばす原因に直結します。
リードタイムを短縮するには、お互いが“ボール”を持つ時間を極小化することでしょう。そのためには、あらかじめ、いつ投げ返すのかを決めておくことです。そうすることによって、お互いが相手の“ボール”を確実にキャッチすることができるようになります。当然、投げ返すまでの時間も短くて済みます。
デザイナーとしては、投げた“ボール”を投げ返してもらうタイミングが早ければ早いほど、自分のクリエイティブ作業の時間を多く確保することができます。納期があらかじめ決まっていて動かせない場合は、特に有効でしょう。
具体的な納品時間を指定することは、面倒だったり気が進まなかったりするかもしれませんが、それによって得をするのは、実は自分自身なのです。
先方に抱かせた「正確な期待」は、自分自身が目指すべき目標となり、これを見失わずに走り続けるからこそ、予定通りにゴールにたどり着けるのだと思っています。