【ノート術の探求】
という企画をはじめます。
「世にある知的生産系の本から、ノート術をピックアップする」
そんな企画です。
企画の意図
世の中には、ノート術を扱った本がたくさんあります。また、メインがノート術ではなくても、パーツとしてノートの使い方を紹介した本も少なくありません。
今のところ、それらは散らばっており、ノート術の体系的な理解を進めるのは困難な状況です。まあ、ノート術を体系的に理解したい人がどのぐらいいるかはわかりませんが。
ともあれ、「知的生産の技術」を考えていく上で、ノート術は避けては通れない要素です。ここで、一度しっかりと土台を固めてみるのもよいでしょう。特に本企画では、ノート術がメインではない本を重点的に扱いたいと思います。
隔週になるか、月一になるか、あるいは毎週連続していくのかはまだ決めていませんが、知的生産系の本をピックアップし、その中からノート術のエッセンスを抜き出していきます。
またエッセンスを抽出するだけでなく、現代の環境で__つまり、ネット・デジタルツールが使える環境で__実践するためのノウハウについても同時に考えていきます。それはきっと、「21世紀の知的生産の技術」の道行きとなることでしょう。
前置きはこれまでにして、さっそくノート術の紹介に入ります。
『文章構成法』のノート術
さて、第一回で取り上げるのは樺島忠夫さんの『文章構成法』です。
本書は「いかにして文章を組み立てていくのか」を解説した本であり、章立ては以下のようになっています。
1ーなぜ文章構成法か
2ー書くことの発見のために
3ー手段を発見するには
4ー内容作りの技術
5−主題と要旨とはどう違うか
6ー文章構成のポイント
7ー文表現をどうするか
8ー書くとき、書いてから
このうち、「2ー書くことの発見のために」に知的生産におけるノート術が登場します。その名も「着想ノート」。さて、どのようなノート術なのでしょうか。
着想ノート
著者は「文章を書くためには題材が必要だ」と説いた後、<タネの原理>を紹介します。
タネの原理
題材を発見したり価値あるアイデアを生み出したりするには、まず、発見・創造の手がかりになるタネを見つけよ。そしてこれを育て、育てたものをさらにタネとして大きく育てていけ。
では、どうやって「手がかりとなるタネ」を見つければよいのでしょうか。一つにはブレストがあります。
たとえば、私がブログを更新するとき、書くことが見つからなかったとしましょう。そうしたときに、
- 最近読んだ面白かった本はないか?
- 面白かった映画はどうか?
- 人に聞いて感心した話は?
- しばらく考え込んでしまった問題は?
- 何かを変えたいことはないだろうか?
といった疑問を出発点にして、書くべき題材を探します。つまり、自分の体験を一番小さなタネとして使うわけです。
著者は、次のような言葉もタネとして使えることを提示しています。
安全、生き甲斐、育児、エネルギー、親子、音楽、外交、買い物、家事、学校……
こうした言葉に対して何かしらの疑問をぶつけ、題材になるような事柄をあぶり出していくことで、文章のタネを見つけます。こちらは、「問題意識を持つ」と平易に言い換えてもよいでしょう。
「着想ノート」の作り方
「着想ノート」は、こうしたタネを収集および定着させるためのノート術です。
ステップ1)ノートに区切りを設ける
まず、ページを3つの欄に分けます。一番左が「タネ」、次に「題材」、最後は「着想・要旨」の欄になります。
ステップ2)自分のテーマを探す
自分の仕事や専門にしている分野、あるいはプライベートな生活や社会全般を見回して、そこに含まれる物事を「要素」に分解します。
私であれば、文章作法・タスク管理・読書術・ノート・手帳・Evernote・Mac・作業デスク・食事作り、といったものになりそうです。こうした言葉を「タネ」の欄に書き込みます。
ステップ3)題材を掘り下げる
「タネ」が書き込めたら、次にそのタネで書けそうな題材を「題材」の項目に記入します。
読書術であれば、「現代における読書術」「教養と読書の関係」「山積みの本といかに付き合うか」「新しい読書」、といった題材になるでしょう。
こうした題材を考える際のポイントを、著者は以下のようにアドバイスしてくれています。
「タネ」の欄に書いた項目に関することで、人があまり知らないこと、知っておくとよい知識はないだろうか、と考えてみる。考えついたら「題材」の欄に書き込む。もし、その項目に関することで、人から質問されたこと、人が、それについてわからずに困っていたことがあれば、これらはよい題材になる。
ほかにも、「タネ」の項目に関して、問題点はないか、不満や希望はないか、最近気がついた傾向はないか、常識や一般的な知識と異なっている事実はないか、といったことを考えていき「題材」を掘り進めていきます。
これで準備は整いました。
ステップ4)着想・要旨
題材を書いた段階で、書くべきことが閃くこともあるでしょう。そういうときは、「着想・要旨」の欄にそれを書き込んでおきます。「タネ」は単語、「題材」はフレーズでしたが、「着想・要旨」は短い文章になりそうです。
もちろん、題材は思いついたものの、着想までには至らないものもあります。たくさんあります。そういう場合は空欄にしておき、あとで何か思いついたらこの欄に書き込むようにします。
こうしてストックを作っておけば、何かしら文章を書くことになった際たいへん役立つ、というわけです。
「着想ノート」のデジタルアレンジ
以上のように「着想ノート」は、ノーティング(ノートの書き方)のスタイルであると共に、一つの習慣であることもわかります。
何かを着想したとき、このノートに書き込まないとあまり意味はありません。最初にノートを作ればそれで終わり、というわけではないのです。定期的にノートを取り出し、題材を眺め、何かしらの着想を書き込んでいく。そういう習慣も「着想ノート」には必要です。
さて、デジタル環境でこの「着想ノート」はどのように再構築できるでしょうか。
ぱっと思いつくのはExcelに代表される表計算ソフトです。「着想ノート」のフォーマットをそのまま再現できますし、途中に項目を増やしたり、あるいは「着想・要旨」を長々と書き続けることもできます。さらに、検索もできるのがポイントです。
あるいは、Evernoteを使うこともできるでしょう。
その場合であれば、「タネ」がノートブック(あるいはタグ)にあたり、「題材」がノートのタイトル、「着想・要旨」がノートの中身なります。「着想ノート」とはずいぶん見た目が変わりますが、基本的な動作は同じです。さらに、ノートリンク機能によって、関連ある題材をつなげられるのも一つの特徴です。
さいごに
今回は、樺島忠夫さんの『文章構成法』から「着想ノート」を紹介しました。
ポイントは以下の3点にまとめられるでしょう。
- 自分の身の回りから「タネ」を見つけ
- そこから「題材」を分解する
- 題材について着想が浮かんだら、それをノートに書きつける
もちろん紙ノートで行うこともできますが、ExcelやEvernoteでも代替は可能なので、興味を持った方はぜひやってみてください。
というわけで、第一回目はこれで終わりです。(いつになるかわかりませんが)また次回をお楽しみに。
▼今週の一冊:
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『アリスの物語』の発売からある程度時間がたって、ようやく一段落したような気分を味わっています。といっても次の本に着手しないといけないわけですが。おそらく次は、小説ではなくノンフィクションになるかと思いますが、ビジネス書になるかどうかは不明です。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。