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ジャック・フォスターの『アイデアのヒント』という本があります。この本は発想法に興味がある人ならば、押さえておいて損のない一冊です。
本書には、ちょっとした「ノート術」が登場します。今回はそれを紹介してみましょう。
心がけて見つける
「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外のなにものでもない」
は、ジェームズ・W・ヤングの有名なアイデアの定義です。この定義によると「既存の要素」をたくさん持っている人の方が、より多くのアイデアを生み出せる可能性が高まります。
では、どうすれば「既存の要素」をたくさん持てるのか。フォスターは次のように書いています。
私が言いたいのは、心がけ一つで、今まで考えつかなかったくらいにものが「見える」ようになり、「見た」ものを記憶できるようになるということだ。出会った人、行った場所、読んだ本について、もっと覚えていられるようになる。そして覚えれば覚えるほど、アイデアを生み出すために「組み合わせる」素材がたくさん手に入ることになる。
私たちの脳は、目に映るもの全てを「見て」はいない、というのは有名な話です。取捨選択が行われ、必要ない(と判断された)ものは意識に上ることはありません。だから、多くの「既存の要素」が見過ごされていることになります。
でも、日常的に心がけるようにすれば__つまり注意を向けるようにすれば__もっと多くのものが「見えて」くる、とフォスターは述べています。
その「心がけ」を実践するための道具が、ノートです。
「組み合わせる素材」を増やすノート術
フォスターが提案している方法は、とてもシンプルです。箇条書きでピックアップしてみましょう
- まずは長期間使えそうなしっかりとしたノートを買うこと。
- そのノートに毎日見たものを書き留る。たとえそれが何であっても。
- ノートがいっぱいになったら、腰を落ち着けてそれを読んでみる。
- そして、次のノートを書き始める。これをずっと繰り返していく。
長期的に使うものですから、しっかりしたノートを選択するのは当然のことでしょう。モレスキンなんかが向いているかもしれません。フォスターは「ルーズリーフはだめ」と書いていますが、日本のバインダーは作りがしっかりしているので、ルーズリーフでも問題ないように思います。
そこに毎日見たものを書いていきます。“見るものが何であっても構わない。とにかく「何か」を見て、記録することが大事だ”とフォスターは主張しています。これは私もまったく同感です。見たものだけではなく、それについての感想を書いくのもよいと述べられています。梅棹忠夫氏の「発見の手帳」、樋口健夫氏の「アイデアマラソン」に通じるものがあるでしょう。
あまり意識されないのが、3.の書いたノートを読み返すことです。忘却曲線の話を持ち出すまでもなく、時間が経てば「見た」ものでも忘れていきます。一度でも「復習」すれば、記憶への定着率は大きく違ってくるでしょう。
また、そうして読み返すといろいろな発見があるはずです。すると、次回からノートを記録するのがちょっと楽しくなるかもしれません。そうなればしめたものです。次のノートはより意欲的に書き続けていくことができるでしょう。
「ノート」以外の可能性
もちろん、フォスターは「紙のノート」を念頭に置いてこれを書いたのでしょう。しかし、これはBlogやEvenroteに置き換えることもできるはずです。
大切なことは、自分の日常生活に起こる出来事に目を配り、そこから何かを見出すことです。自分の手で記録をするためには、それを「見な」ければいけません。記録をすることは、ある意味で「見る訓練」と言えるでしょう。
そうして付けた記録を見返すことで、自分の中に「アイデアの素材」が蓄積されています。BlogやEvernoteなら、読み返すだけでなく、検索で引っ張りだすこともできます。
※その代わり紙の質感は失われますが。
どのツールを使うのかは断定することができません。行き着くところは「個人の好み」によるところが大きいでしょう。何を使ってもよい、というのが本当のところです。それよりも、「記録をし続ける」ことの方が大切です。
さいごに
今回紹介した方法は、フレームワークを用いた瞬間的な発想法とは大きく異なっています。地道で時間のかかるトレーニングのようなものです。短期的な発想法に比べれば、回りくどく面倒くさいように感じるかもしれません。
しかし、同じフレームワークを用いた発想でも、日常的に多くのものを「見ている」人の方がより多くのアイデアを生み出すことができるでしょう。結局の所、最後にものをいうのは、そういう土台的な力なのかもしれません。
というわけで、お気に入りのノートなり、手帳なり、スマートフォンなりを使って、日常の記録を(できれば今日から)始めてみてはいかがでしょうか。
▼今週の一冊:
2002年に発売された、人の記憶の「七つのエラー」を紹介した本です。七つのエラーはそれぞれ、「物忘れ」「不注意」「妨害」「混乱」「暗示されやすさ」「書き換え」「つきまとう記憶」となっています。日常的に身近なものもあるでしょうし、「えっ、そんなことあるの?」と驚かれる事例もあるかもしれません。
こうしたエラーがどのように起きるのかを考察しながら、人の記憶がどのような性質を持ったものなのかが紹介されていきます。記憶にまつわるエラーは、単なる機能不全というよりは、記憶を記憶たらしめているものだと言えるかもしれません。その辺は原題の「The Seven Sins of Memory」という表現からもうかがい知れます。
こうした本を読んでいると、自分の記憶がどんどん当てにならなくなり、メモを取ったりノートを付けたりすることに関心が出てくるようになるかもしれません。
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すっかり3月ですね。一つの原稿の山場が終わり、もう一つの原稿の山場まっさかりです。3月中には新刊の告知ができるかもしれません。乞うご期待、ということで。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。