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同化と調節の2つの視点で今月読んだ本をふり返る

By: Erich FerdinandCC BY 2.0


佐々木正悟 心理学には、「同化と調節」という概念があります。

「同化」とは、道具を自分に合わせること。自分にしっくりくる道具、手に馴染む道具を使いこなすことを指します。

「調節」とはこの反対に、自分を道具にあわせること。すぐには使いこなせないが、使えるようになると生活まで一変させるほどの道具が、この世にはあります。自動車がそうですし、ピアノも同じです。

100%同化の道具とか、100%調節が必要な道具というものは、この世の中にはありません。ベテランドライバーは自動車を同化的に運転できますが、それでも「自動車に自分をあわせている」部分がゼロにはならないでしょう。それに、どれほど使うのが難しい道具でも、最初は全く何もできないというのでは、手で触ることもできないことになります。

(ピアノに生まれて初めて触る子であっても、音くらいは出せます)。

本を読んでいるときにもときどき思うのですが、本には「同化的な本」(読んでいてすぐにしっくりくる本)と、「調節的な本」(内容についていったり馴染むのが容易ではない本)とがあります。今月は少しそういった視点を頭に置きつつ、5冊紹介していきたいと思います。

まずは第5位

マンガは極めて「同化的な本」です。読む気になりやすく、事実読みやすく、すぐに一冊読み終わります。ですから、理解したいこと、知識として身につけたいことが、一般書籍とマンガで用意されているなら、マンガを選ぶ人が多いわけです。

本書は、「整理術」のマンガですが、本書は『片づけられない女のためのこんどこそ!片づける技術』の続編とも位置づけられます。続編ですから、前作よりは「より良く整理したい人のための、より細かない技術」が中心です。

本書のウリは、基本的には2つの大原則に則って、整理を進める方法が紹介されている点。つまり、片付けを進める最中に、いちいち本を取り出してこなくても、2つの原則だけを思い出せばいいように配慮されているわけです。



続いて第4位

「高機能自閉症」って何?という方は、ぜひ一読をおすすめします。読み物として読んでも充分に面白い本ですし、特に臨床的に書かれているわけでも、精神科医が書いているわけでもないだけに、専門的知識とは無縁に読み進めることができます。

私たちは一般に、「自閉症」と言われてもよくわかりませんし、まして「高機能自閉症」とか「アスペルガー症候群」などといっても、テレビや雑誌で病名を知っている程度というのが普通でしょう。

しかし私たちのほとんどは、実は「自閉症者」とどこかしらで接して生きています。パーセンテージから言って、20年以上生きていれば、まずまちがいありません。知らずに接するのと、知って接するのとでは、自ずから接し方が変わって来ざるを得ません。本書を読むと、そうしたことを考えさせられます。

ちなみに、内容的には「調節本」である本書ですが、頁をめくれば「同化本」のように読めます。そういう意味でも良書です。


早くも第3位!

第1位に置きたいようなカバーですが、「脳」が強調されているわりに、「脳」のことが詳しく書かれていないような、ちょっとした不足感がありますから第3位。ですが、楽しく読めてとてもためになる本です。その意味で、本書は一見「同化本」であり、よく読むと「調節本」という内容になっています。

本書で著者が「脳」と言っているところのほとんどは(解剖学的な説明以外の箇所は)「心」と置き換えた方がわかりやすいでしょう。著者が「脳神経学者」と言うよりは「臨床心理士」であることからも、こうなる理由はよくわかります。

そして本書の読みどころは、臨床心理士の立場から、人はなぜ大きく変わりたいと毎日思いながら、ほとんど変わることができずにいるかを、多面的に分析しているところです。臨床的なエピソードと、深層心理的(+ちょっぴり脳科学的)解説を交え、「変わるためのメンタルハック」を提案しています。


第2位!

昨今、「精神鑑定」が裁判ではつきものになりつつあります。しかし、懐疑的に眺められている方も、少なくはないでしょう。

  • 本当に「精神鑑定」は役に立つのか?
  • そもそも「精神鑑定」とは何をするのか?
  • 「精神鑑定」をする人は、日頃何をしているのか?
  • 「陪審員制度」と「精神鑑定」はどう関係するのか?

などなど。

以上の問題はどれも、とうてい本一冊では網羅できるようなものではありませんが、「精神鑑定」の実際の経験をたくさんもって、真正面から上記の問題に答えている一般書としては、本書以上の本は見あたりません。

「精神鑑定は怪しげ」と感じていらっしゃって、しかし「福島章」の名前も知らないという人は、本書の第1章だけでも、ぜひお読みください。ただし残念なことに、第2章以後の本書は、ほぼ間違いなく「調節本」です。


今月の第1位は!

本書は「脳の同化本」です。

本書は「脳のからくり」が充分わかる本ではありませんが、大づかみにするにはいい本だと思います。500ページ超の教科書(つまり脳の「調節本」)を読むのは、専門家とそれに近い人たちだけでしょう。

多くの「脳の同化本」は、「脳のからくり」ではなくて、「脳トレ」がテーマになっているのですが、本書はあくまでも「からくり」を中心にしています。ですから読み物として充分に楽しめます。

そして所々で非常に考えさせられます。考えたあとには、日常から離れた直後のような、一種の旅行効果がもたらされるかもしれません。こういった話が好きであれば、ですが。