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発想は、ラクガキから生まれ得るのか?

倉下忠憲
今回は、紙ツールのご紹介。

» IDEA PAPER

これが、なかなか面白いツールです。

基本的には、A4サイズ、5mm方眼、罫の色は薄めのグレーのノートパッドです。枚数は50枚。なかなか坪量も多めな印象の紙質です。

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概要

特徴的なのは、もともとイラストが印刷されている点です。全50ページの全てに、動物・古地図・奇妙な絵などのイラストが配置されています。もちろん、全てのイラストは違ったもので、配置もイラストごとに異なっています。

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ものすごくフラットに経済効率性を考えれば、白紙のノートパッドに比べて記入できるスペースが少ないのですから、ちょっと「損」なノートパッドです。逆にこういうイラストが好みな方は、「画集」的な楽しみ方もできるノートパッドということで、付加価値が付くかもしれません。

が、そういう点はちょっと脇に置いておくとして、このIDEAPAPERを使っていると「発想する感覚」というのが身近なものに思えてきます。それは普通のノートを使っているだけだと感じにくい、なかなか希有な体験です。

異なったものをつなげる感覚

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“Work and Play are words used to describe the same thing under differing conditions.”

表紙をめくると、その裏にアメリカの小説家マーク・トウェインの言葉が掲げられています。同じアメリカの詩人であるロバート・フロストも「アイデアとは何だろうか。一言で言うなら、アイデアは『連想の産物』である」と述べています。名著『アイデアのつくり方』の著者ジェームズ・W・ヤングも「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何物でもない」とその著書の中で明確に書き記しています。

「なんか、アイデア出でないな〜」という時は、たいてい視野が狭くなっている状況です。物事を一つの視点からしか見ていない、ということです。このような状況では、新しい組み合わせ発見することなど不可能でしょう。

発想が豊かな人は、ある物事を頭の中で「さまざまな状況」に置くことが得意です。発想法で紹介される「もし、〜〜だったら?」という疑問は、意図的に状況の置き換えを発生させるものです。その置き換えによって移動した視点が、今までまったく関連なかったようなものに「つながり」を見い出すようになるわけです。

腐ったリンゴと発想

「箱の中の腐ったリンゴは、早く取り除かないと、まわりのリンゴまで腐ってしまう」

こういう言葉があります。もちろん、これはネガティブな意味合いで使われていますが、逆から見れば「腐ったリンゴが混ざっていなければ、まわりのリンゴはなかなか腐らない」ということでしょう。

「割れ窓理論」というものもあります。街が汚れていたり、そこらにラクガキがあったり、建物の窓ガラスが割れているような環境では、人々が「ここは、悪い事をしても大丈夫だ」と思う可能性が高まる、というような考え方です。これを逆手にとって、街を「きれい」にしていくことで、犯罪率を下げていったニューヨーク市のお話は有名でしょう。

さて、まったくの白紙、あるいは型どおりの企画書を目の前にして、私たちはどのような心理状況になるでしょうか。もし、「まじめに考えなければ」と思いを強めてしまうようであれば、アイデアは遠ざかっていってしまうでしょう。それは、「視野を狭める」もっとも効果的な方法だからです。

アイデアを求める際には、ちょっと「やんちゃ」なぐらいの発想が必要です。

遊び心を刺激する

IDEAPAPERに載せられているイラストは、「割れた窓」です。

印象的なイラストがそこにあるだけで、「まじめなアイデア出し」作業の風景が変わってきます。言い方を変えれば、遊び心が刺激されます。それが自分の視点を切り替える効果を発生させるわけです。

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上の画像は、私がとあるセミナーの内容についてアイデア出しをしたときのものです。

顔全体が目玉になっていて、手が存在しない人間が右の方に書かれています。

この人間が知覚する世界の形とはどのようなものか?、そう考えるだけでいろいろな着想が湧いてきます。

ペンフィールドのホムンクルスを見れば分かるとおり、人間の知覚は顔の感覚器官と手の触感が大部分を占めてる。もし顔に目しか無く、手が無いのならば、彼の「世界」はほぼ見たものだけで構成されることになる、すると彼にとっての「人生」とEvernoteのノートは同一のものに・・・

というのは、本エントリーにはまったく関係ないので割愛しますが、そんな感じでまったく別の事柄から、何かしらのインスピレーションが湧いてくることがあります。それ自身が直接使えなくても、視点の回り道には何かしらの効果があります。

さいごに

もし、このIDEAPAPERのイラストを「効果的に活用しよう」と考えたり、「どうするのが正しい使い方でしょうか」という疑問を持ってしまうならば、「まじめに考える病」にかかっているかもしれません。

帯には「発想は、ラクガキから生まれる。」と書かれていますが、まじめなラクガキなど存在しません。単なる言葉遊びですが、ラクに書いてこそのラクガキです。

印象的なイラストを触媒にして、気楽な、あるいは「不まじめ」な自分というのを呼び寄せる。そういう使い方ができるノートパッドです。

 

▼参考文献:

「発想」の原理原則については、この本を読めばOK、というぐらいの名著。しかも薄いです。


上の本に、もう少し実践的な要素を付け加えたもの。心得的なものも多く見つかると思います。

▼関連リンク:

» IDEA PAPER

▼今週の一冊:

最近読んだ本だと、以下の一冊が面白かったです。「日本一おいしいウーロン茶のようなエッセイ集」とのこと。ほとんど「どうでもいいような話」なんですが、やっぱり面白いですね。春樹さんのエッセイが好きな方ならば、ぜひ。


▼編集後記:
倉下忠憲



頭の中が、「書籍執筆モード」になってきました。明けてもくれても本のことばかり・・・というのは少々大げさですが、それについて考えたり、関連書籍を漁る時間が増えてきています。時に面倒な作業にもぶちあたりますが、やはり本を書くというのは楽しいことだ、というのを再確認する日々です。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。