私はだいぶ以前から、ちょっと分からないことがありました。
それは、仕事でもテスト勉強でも、先送りにすると不安が募っていくくせに、不安が強いときほどギリギリまで手がつけられないという心理です。
そのことについて、先日大橋さんと話し合っていたのですが、ふと疑問が氷解しました。不安から仕事を先送りするのは、当然なのです。なぜなら、仕事を先送りするのは、失敗することに対する不安があるからで、それが強くなれば先送りするしか方法がないとすら思えてくるからです。
たとえば、企業ブログを書く仕事を割り当てられているのだけど、一行はおろか、一文字も書き出せないという人がいるとしましょう。その人は、書いた内容を上司に非難されたり、ブログが炎上したりすることに対して、不安を持っていると考えられます。常識的にその不安は自然な不安ですが、心配が極度に高まれば、本当に一文字も書けなくなってしまいます。
この不安を寄り切る強力な助っ人がいます。それが「締め切り」なのです。つまり、仕事で満足な成果が出せないかもしれないという不安と、締め切りを破るわけにはいかないという恐怖心とが闘った場合、通常は締め切りの恐怖が圧倒します。それで、「もうどうなってもいい!とにかく締め切りまでに仕上げないと!」という強力な焦りの気持ちから、仕事をやっつけることができるのです。
「憂い」にならないと手がつけられない
2008-02-20(水)の大橋さんのエントリで考えると、この話は「備え」の段階では仕事になかなか手がつけられないので、「憂い」の作業ばかりになってしまうことを意味します。
締め切りが迫っている「憂い」は具体的な恐怖です。
一方で、やるべきではあるが今すぐでなくてもよい「備え」の仕事については、不安や期待はあるものの、いずれも明確ではありません。「期待」というのは、締め切りまで時間がありますから、「あんなふうにしてみたら、すごい成果が出せるかも」というワクワク感です。この感覚もまた、やるべきことを頭の中で肥大化させるため、仕事の先送りへとつながります。
さらに、話し合いの中で大橋さんが指摘してくれたことですが、仕事を締め切り間際で「やっつける」ことに成功すると、それが一種の成功体験となって、このパターンを強化してしまいます。すなわち、
- 不安で先送り → 締め切りが迫る → 焦ってやっつける → 成功体験の快感 → 次の仕事も不安で先送り
という悪循環を強化してしまうのです。
こう考えてみると、時間のある内から「備え」をしようとしてもなかなかままならず、結局は「締め切り間際」になって大あわてで「やっつける」というパターンには、心理的に錯綜した要因がひそんでいることが分かります。
「備える」ために「話題にする」
これに対抗するためのハックとして、『スピードハックス 仕事のスピードをいきなり3倍にする技術』では「β版を提出する」という方法を紹介しました。つまり、時間のある内ならば「やりかけ」の段階で提出することによって、たとえ承認はもらえなくても、指針をもらうことができるし、修正も施せるというわけです。
この方法で最終的に満足の行く成果を手にできれば、「締め切り間際にやっつける」というパターン以外の成功体験を得ることになり、「備えるパターン」を強化することができます。
しかし、β版を出すことにすら、どうしても気が乗らない場合には、どうしたらいいでしょう?
私はその方法を考えるうちに、「手がつけられなければどこまでも小分けにする」という「やる気が出ないときのハック」を思い出しました。β版を小分けにして、最後に行き着くところとは、最低限、望まれていることは何であるかを明確にするということです。
β版を提出する方法といい、β版をさらに小分けにして、まず押さえるべきポイントを確認する方法といい、これらはすなわちコミュニケーションを密に取ることを意味します。もっと言えば、とにかく口に出し、話題にすることでしょう。
締め切りが遠いタスクに手をつけるには、そのタスクを話題に上らせることが効果を発揮するのです。話題に上れば、意識の真ん中に入ってきて、タスクのリアリティが感じられるようになります。そうすればタスクへの漠然とした不安ではなく、モチベーションが温められるでしょう。
「いつも締めきり間際」の悪循環から抜け出す方法
» 「緊急ではないけど大事な用事」を話題に出す。