初夏などと言いますが、なにやら真夏のように暑い五月がもうすぐ終わります。今年の「梅雨」はちゃんと来るのでしょうか。
恒例の「今月読んだ本ベスト10」ですが、改めて見直してみると、今月は「仕事術」を読みあさりつつ「脳の本」を当たっていたことが分かります。読書については、自分らしい月だったとも言えそうです。
まずは、第10位
IT達人の仕事術 IT media Biz.ID by G-Tools |
色々な「達人」たちの仕事術を、「職場拝見」よろしく詳細に追っていくレポート集です。雑誌の特集を一冊の本にまとめたような感じで、短い時間にざっと読めます。
個人的に面白いと思ったのは、「おはようからお休みまで」の典型的な時間の使い方の申告があるところ。達人たちとはいえ、人によっては私と同じくらい睡眠時間が長い人もいて、参考になるというか、安心したというか。
なるほどと思わされるようなライフハックもあれば、達人に共通する仕事術もあったりと、まとめ本ならではのメリットにあふれています。自分の仕事に良さそうな工夫を付け加えたり、仕事の仕方をチェックするためには、とても便利な一冊です。
つづいて第9位
大人のためのフィンランド式勉強法 小林 朝夫 by G-Tools |
この手の本にはよくあるように、ちょっと北欧礼賛の気味が強すぎて、そこのところはとっつきにくくなっています。その点、作者の気持ちに乗ることができる人なら、問題なく読めるでしょう。
そうではなく、ちょっと「忍耐」が必要な人は、「フィンランド教育レポート」として、事実を追って読んでいくといいと思います。そう読んでいけば、「カルタメソッド」のような教育法は、そのままたとえば記憶術に使ったりできそうです。
勉強の仕方には、多くのライフハックスが詰まっています。教育熱心なお国柄であれば、使えそうなハックスを見つけるのに、良い「漁場」となるかもしれません。
そして第8位
情報は1冊のノートにまとめなさい 100円でつくる万能「情報整理ノート」 奥野 宣之 by G-Tools |
本書のポイントは何といっても「一冊」です。「一冊にまとめる」ことがはたしてできるのかどうか。読者はその期待と心配で、全体を読み進めることになるでしょう。
本書を読む際には、読者自身の疑問を見失わないようにしながら、読み進めていく必要があるでしょう。本当の一冊で情報をまとめきれるのだろうか? その際、あなたが抱いた疑問に著者はきちんと答えているかどうか? それを気にしながら読まないと、読後にも「100円ノート式」を試すのかどうか、判断がつきかねることになります。
第7位
案本 「ユニーク」な「アイディア」の「提案」のための「脳内経験」 山本 高史 by G-Tools |
何と言っても気になったのは、「企画はユニークでなければいけない」という命題と、「企画は万人に受け入れられなければならない」というテーマを両立させる難しさです。著者はその点について、繰り返し読者の注意を促します。
これはとても幅広いテーマです。たとえば私の仕事であれば、たしかに「ユニークなテーマ」で本を書けるに越したことはない、という気もします。しかし、一定読者に本を買って読んでもらうには、あまりにユニークであるのも考えものです。「ユニーク」と「一般受け」は易々と両立しないわけです。
この難題を解く鍵は何なのか。それを教えてくれるのが本書です。
第6位
たった3秒のパソコン術―読むだけで別人! さらに「仕事が速い自分」「頭の回転が速い自分」 (知的生きかた文庫 な 30-3) 中山 真敬 by G-Tools |
類書はたくさんあります。インターネットでもこの手の知識はふんだんに手に入りますし、本を買って読むほどのこともなさそうです。
それでも買って読んだのは、本書がじつに「見やすかった」からです。こうした本は、いわばユーザーインターフェースがとても大事になるのです。ただだんに、たくさんのショートカットキーが盛りだくさんに紹介されていればいい、というものではありません。
あまり欲張らず、一つ一つをコンパクトに、しかしわかりやすくまとめているところが秀逸です。まだ知らないTipsをチェックするのも良いですし、この手の知識を人に伝えるためには、どうやるのが最善かを理解する助けにもなります。
中間地点の第5位
レバレッジ勉強法 本田直之 by G-Tools |
本当に今さらと言われそうですが、まともに読んだのは本当に今月です。ずっと家の書棚で眠っていました。
本書が特に役立つのは、仕事が忙しくて時間も気力も不足気味な人が、短期集中で、勉強の成果を出したいときです。その目的に特化し、一切の妥協を排するという姿勢があるため、この通りにやって一定の成果は上がるでしょう。
そのうえ、著者の見通しが明快で自信をもって書いているため、背中を後押しさせる心理的効果も期待できます。
第4位
楽しみの社会学 Mihaly Csikszentmihalyi 今村 浩明 by G-Tools |
時間を忘れるほど夢中になってパフォーマンスを発揮したとき、人は「フロー状態」を体験すると、異色の心理学者、ミハイ・チクセントミハイは指摘しています。
スポーツの真っ最中に、こうした体験を得たことのある人は多いでしょうが、職業的には、外科医が手術の最中に、こうした心理状態に入るようです。やっていることの内容にかかわらず、この体験は「きわめて幸福な体験」のようです。
「仕事を楽しむ」というこのブログの究極のテーマは、フロー体験を得ることと言えるかもしれません。アメリカの心理学社マスローは、そうした「最高の心理状態」のことを「ピーク・エクスペリエンス」と名付けました。これとフローは似た心理だと思われます。
ここからベスト3。第3位
はだかの脳 高橋 則明 by G-Tools |
「マーケティングの心理学」というのは、ふつうに誰もが考える発想ですが、「脳の時代」である現代は一歩進んで、「マーケティングの脳科学」に入っているようです。
本書では、限定的にとは言え、「選挙に脳科学を利用する動き」や「職業適性を判断するために脳画像を撮る」といった発想まで、考察されています。アメリカの話ですが、多くの脳科学者同様、著者もそうした発想に疑問を呈します。ただ、利用できるものはなんでも利用したい、というニーズがあるのも事実です。
そこまで信頼できるものなのか、という自然な疑問に加え、脳が能力と性格をそこまで決めていくという解釈からは、「脳のドーピング」や「脳外科」によって、人格や能力を一変させようというややこしい発想も、当然出てきます。これはクローン技術にも似て、全く扱いにくい問題を噴出させることになるかもしれません。
といった問題にまで踏み込んでいる本にしては、とても読みやすい一冊です。
第2位!
脳を支配する前頭葉―人間らしさをもたらす脳の中枢 (ブルーバックス 1580) 沼尻 由起子 by G-Tools |
本書はよい本です。
一部、情報が古いという指摘もありますが、旧ソ連からの亡命を経て、アメリカの脳科学者として生きるまでに至った自分史に絡め、脳科学の「現代史」を語る視点は、独特な説得力を示しています。
本書に限らず、脳科学者がエピソードを交えて「脳を語って」いる本は、一見読みやすそうな「図解」よりも、はるかに頭に残るでしょう。そもそも脳科学の道に入るわけはない多くの読者にとって、「わかりやすい脳の図鑑」に類する本ではなく、読み物を読んだ方がずっと楽しめるはずです。
特に、脳、神経、心理の「知識」というものは、歴史と実験と解釈次第で、若干揺れ動くものです。したがって、「私は脳をこういうふうにみているから、これこれの実験はこう解釈するし、これこれの事例はこのように解釈する」という書籍の方が、信頼を置けるのです。本書はこの意味で、とても信頼度の高い本です。
やってきました第1位!
妻を帽子とまちがえた男 (サックス・コレクション) Oliver Sacks 高見 幸郎 金沢 泰子 by G-Tools |
いまや、脳科学書においては古典中の古典、と言うことができるでしょう。ラマチャンドランの『脳の中の幽霊』に匹敵する名著です。
タイトルからしてもすでに相当なものですが、本書に「ありきたりの」事例などはただの一例も出てきません。もちろん、毎日こうした人々に囲まれながら、仕事をしている人は例外です。「脳の一部に機能障害を起こす」。言葉で言えばそうたいしたことが起こってないようですが、それがあなたの周りに起これば、確実にあなたを取り巻く人の人生が一変します。
本書を読んでも、あなたの人生が一変したりすることはありません。しかし、脳や人間や心というものに対する見方は、一変するかもしれません。あなたは「健常な脳」を持つことが、どれほど恵まれたことかと、多少自分の頭の中身に感謝することになるかもしれません。少なくとももう、「ありきたりな頭脳」などとは言えなくなるはずです。