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自分という製品を“再開発”する「BMR」という方法

『10年商品をつくるBMR』という本を読みました。

「BMR」とは「Basic Marketing Relations」の略で、

 「新製品を発想し開発業務を進めていく際の枠組み(基本原理)」

であり、

 「理解できるとマーケティングがやさしくなる」

と書かれています。

一読して感じることは、「BMR」という考え方の応用範囲の広さです。つまり、新製品の開発業務に携わる人以外にも幅広く役に立つヒントを学ぶことができそうです。

開発マーケティングと販売マーケティング

よく、「マーケティングは売れる仕組みを作ること」という説明を見ることがありますが、それは販売マーケティングを指しています。確かにそれはマーケティングの一面ですが、その前に、まず売れる製品を作るという過程があることを忘れてはいけません。開発マーケティングなくして、販売マーケティングもないのですから。

特に最近では、売れる仕組みという意味が一人歩きして、売れない製品でも売れるようにするというニュアンスでマーケティングが語られることがあります。これは残念なことです。

マーケティングはもっと消費者視点で行なうものです。もともとそうでなければ、消費者のウォンツに製品のベネフィットを結びつけることはできないわけですから。

「BMR」は開発マーケティングの役に立つ考え方、ということになります。

最近では「自分マーケティング」などといった言葉を耳にすることがありますが、これは上記で言えば「自分を売る仕組み」という販売マーケティングを指す概念と考えられます。

そうであれば、「自分をつくる仕組み」という開発マーケティングもあるはずです。つまり、最も身近な商品である「自分」を捉え直す上で、この「BMR」という基本原理が役に立つわけです。

BMRの構成要素

では、具体的に「BMR」について見ていきます。マーケティングを理解する上で考えるべき要素として、以下の5つがあるといいます。

  • 1. Target Consumer(顧客、消費者)
  • 2. Product(製品)
  • 3. Competitor(競争企業)
  • 4. Distributor(流通業者、チャネル)
  • 5. Environment(環境)

Target Consumer(顧客、消費者)は、さらに以下の3つに分けられます。

  • 1-1. Target(特にどういう人たちに対してか)
  • 1-2. Occasion(どこで、いつ)
  • 1-3. Wants(何を欲しているか)

Product(製品)には、以下の4つの要素が含まれます。

  • 2-1. Benefit(消費者になぜ購入してもらうのか)
  • 2-2. Attribute(それをいかに具体化するか、という製品属性)
  • 2-3. Product(製品そのもの)
  • 2-4. R&D(BenefitとAttributeを可能にする研究開発)

これに、Target Consumerを含む全体である General Consumer(生活者)を加えて、それぞれの頭文字を取ると、G・T・O・W・B・A・P・R・C・D・Eという11の要素が浮かび上がります。

これを図にしたものが以下です。

bmr

詳細な説明は割愛しますが、この図の中で最も注目すべき要素は「Wants」「Benefit」です。この図には様々な要素間の相互関係が描かれていますが、あえて一言でそのエッセンスを取り出すなら、TargetのWantsにマッチするようなBenefitを持つProductをいかに作るか、ということになると思います。

さらに短くすれば、誰のために何を作るか、です。

※BMRの図は編著者・喜山荘一氏の許可を得て掲載しています。

「自分」という製品を“再開発”する

ここで、製品(Product)を「自分」に見立てて、求められているWantsにマッチするようなBenefitを提供できるように「自分」を作りかえる、というケースをBMRに適用して考えれば、次のようになるでしょう。

1.Target Consumer(顧客、消費者)

  • 1-1.Target(特にどういう人たちに対してか)
  • 1-2.Occasion(どこで、いつ)
  • 1-3.Wants(何を欲しているか)

2.Product(自分自身

  • 2-1.Benefit(顧客はなぜオファーをしてくれるのか
  • 2-2.Attribute(それをいかに具体化するか、という専門知識や技術
  • 2-3.Product(自分自身そのもの)
  • 2-4.R&D(BenefitとAttributeを可能にする自己投資活動

3.Competitor(ライバル

4.Distributor(所属している企業、あるいはパートナー

5.Environment(環境)

※それぞれ太字の部分を書き換えています。

この中で自己投資活動(R&D)は、例えば英会話スキルを向上させるとか、プログラミング言語を学ぶといった新しい専門技術(Attribute)を身につける活動であり、自分自身(Product)の価値を高めることにつながります。でも、その結果、顧客(Target)がより多くのオファーをしてくれるようにならなければ、この投資からはリターンは得られないことになります。

リターンを得るための投資活動をするには、そもそも顧客(Target)がどのようなシーンで(Occasion)、何を欲しているか(Wants)を把握した上で、これに応えることができる価値(Benefit)を提供できるようになることをゴールに据える必要があります。

つまり、同じ勉強をするにしても、狙いを明確に定めた上で取り組む必要があるわけです。言い換えれば、確実に買ってもらえる「自分」を作るための自己投資が欠かせないということです。

本書では、「10年商品をつくる」というテーマに沿って「BMR」の考え方とこれを活用した製品開発事例が紹介されているのですが、今回ご紹介したように「自分」という製品を“再開発”するという目的で読むことによって、今の自分が何を学ぶべきかを知るための方法が得られるはずです(注:「開発」の対象はこれからの人、「再開発」の対象はこれまでの人)。

あるいは、よりフォーカスした目的にも適用できます。例えば、プレゼン資料を作るケースなら、Targetは「聴衆」になり、Productは「当日行われるプレゼン」が該当します。Attributeに当たるものは、「PowerPointの資料」であったり、「プレゼンターの専門知識や話し方や声の質」などでしょう。これらはすべて一本の線でつながります。1つでもこの線から外れる要素があれば、そのプレゼンの成功は難しくなるでしょう。

仕事以外では、魚釣りもまた「BMR」で分解することができそうです(僕自身は釣りには詳しくありませんが…)。渓流釣りや海釣りなどOccasionも様々ですし、対応するロッドやリールやルアーや糸といったAttributeも無数にあります。そして何よりも、目的とする魚(Target)が食いつきやすいエサ(Benefit)を釣り針につけるからこそ、釣れるのであって、適当なエサでやみくもに糸を垂らしていても、それは望ましい釣り(Product)にはならないわけです。

▼参考文献: