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あなたのオフィスは快適ですか?

イマココ――渡り鳥からグーグル・アースまで、空間認知の科学
渡会 圭子

早川書房 2010-04-22
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本書はとても刺激的な本です。学術的でわかりにくそうな外見をしてはいますが、そして心理学的な知見がふんだんにちりばめられているように見えますが、実はそれらの知識のほとんどは、本を読むなかで得られます。

そのうえ、心理学的な知識の用い方がユニークです。こういう本は面白いものです。

私が本書を手に取ったのは、「よく迷う」からですが、本書を読んで自分が迷うわけがほぼ明らかになりました。しかしそんなことよりも、読む前には想像していなかったものがたくさん詰まっていました。こうでないとやはり、本を読む楽しみというのはなくなってしまいますね。

仕事場は快適ですか?

地価の高い都会のオフィスでは、狭い空間にできるだけ多くの机をつめこむ傾向がある。従来のキュービクルを採用したオフィスでは、社員はマンハッタンの街並みのように配置される。直線的で、通路は狭く、全体が規則的な格子状になっている。この方式だとオフィスの人口密度は高くなり、社員同士の距離も近い(それはある意味で効率的に思える)が、オフィスは「わかりにくい」空間になってしまう。そのような環境では、従業員が「場所の感覚」を持ちにくい(新入社員がすぐに迷うだけでなく、仕事の流れが空間の形で示されていないので、おぼえるのに苦労する)だけでなく、アイデアや情報の流れが滞ってしまうこともある。

いささか長い引用となりましたが、仕事術的にも、これはなかなか大事なことでしょう。しかし、あまりこの辺のことについて書かれたビジネス書に行き当たりません。「オフィスの配置」など、個々のビジネスパーソンには左右できないからでしょう。

しかし、これほど「ノマド」という言葉があふれてきているのですから、こうしたことについて、今後はもっと議論されるようになるでしょうし、職場にもなるカフェがもっと多様に用意されないと、不満が解消されません。

そして、「ノマド」なのですから今度こそ、「一極集中」が少しは解消されて欲しいものだと思います。大都市のカフェには無線LANもあって、仕事にも向いた環境だけれども、ほんの少し郊外に出ると、主婦と学生のたまり場としてしか機能しない、というのでは、「ノマドだけど通勤地獄」というシュールな近未来になってしまいます。

空間が決めてしまう行動

家の中の空間の一部についてのこの簡単な分析から、私が長居をする場所や行動パターンを決める要員がいくらか明らかになった。人をもっとも惹きつける室内空間の特徴のひとつは、広々としていると感じられることだ。

本書はこのように、「空間」をテーマとして様々な心理と行動を検討します。これが本書の大きな特徴のひとつです。

「広々として感じられる」ということは、「視野が広くとれる」ということです。人は、視覚に偏った動物でもあります。つまり、視野が広くとれるようなところに座りたがり、そこに居続けたがるということです。

こんなところからも、「先送り癖」の心理を見つけることができますし、今はやりのiPadが流行る理由も見つけられそうです。視野が広くとれないところにデスクトップパソコンが鎮座していたり、視野が広くとれないiPhoneでの作業を置き換えたいという欲求があった、などといったことが考えられるからです。

空間が行動を規定するのは物理的要因が当然あるとしても、心理的要因も侮れないということです。大きなレストランでは、「窓際」「壁際」が埋まっていく傾向にありますね。そういう風にスタッフが誘導することもありますが、「個人差」がこれほど強調される人間行動にあって、誰もが決まり切った行動パターンを見せるような現象は、やはり興味深いのです。

私たちホモサピエンスの祖先が、広く開けたサバンナの真ん中でランチを食べようとしているところを想像してもらいたい。こうした状況では、明らかに「ランチを食べる」どころか「ランチにされる」危険を冒しているため、長居してデザートを食べようという気にはならないはずだ。

夜、英会話の勉強を続けたいと思うなら、夕食時には「広い視野がとれる上に壁際の心地よい空間」にいるのに、勉強時には急に、狭苦しい勉強部屋の真ん中でやろうとしてもダメだ、というライフハックにつながるでしょう。

▼編集後記:
佐々木正悟

「日経ウーマン7月号」に取り上げていただきました!

日経 WOMAN (ウーマン) 2010年 07月号 [雑誌]
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「先延ばしグセから脱して「すぐできる人」になる」というテーマです。38ー39の見開きでいただきました。ANANでもiPhoneの特集が行われていましたが、女性誌にももっと、アソシエのようなテーマが扱われるといいですね。

今後ともよろしくお願いします。