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しまった!


この本は、まるで私のためにあるような本だと思いました。それくらい私は、いつもいつも「しまった!」と言って生きているのです。気の休まるひまもありません。

そういう私のようなミスを犯しがちな人間は、いったい何がいけないのか?

 
本書を読むと色々なことがよく分かってきますが、同時に少々絶望的なのは、「しまった!を少なくするのは、けっこう難しいことだ」と悟らされるところがあります。相当の努力をしても、減るのはせいぜい「しまった!」と叫ぶ回数にすぎません。ちょっとばかり、コストパフォーマンスが悪いようなのです。

しかし本書には、もうひとつ大事な特徴があって、通読すると、「人間の記憶について」詳らかになってくるのです。一つ一つの知識については、多くの人がすでに知っていそうなことがほとんどですが、本書の切り口に従うことで、「自分の記憶力をどうするべきか」についてのヒントがたくさん得られます。
 

失敗と時間の関係

gooランキングに面白いランキングがありました。「しまった!」と思う瞬間ランキングというものです。以下の通りです。

1位 PC上のデータを保存せずに消してしまった時
2位 ラーメンの調味料の袋を勢いよくあけて、中身がすべてこぼれた時
3位 大事なものを捨ててしまった時
4位 汚してはいけない書類にコーヒー等をこぼした時
5位 既に買った雑誌をまた買ってしまった時
6位 カップ焼きそばのお湯を切ろうとして中身がこぼれた時
7位 自動販売機でホットとコールドを間違えた時
8位 番組の最後10分が予約できていなかった時
9位 相手の名前を間違えて呼んでいたことに、後から気づいた時
10位 シャンプーだと思ってリンスを買ってしまった時

こうしてみると、人が「しまった!」と思うのは、細かな身体コントロールに絡むことや、ちょっとした認知ミスだということがわかります。おそらく注意力が低下しているか、衝動が大きくなりすぎているのでしょう。どちらにも時間が関係しています。かける時間が短すぎるか、急ぎすぎているのです。

つまり「しまった!」と思うような事態が発生するのは、行動に本来かけるべき時間が足りていないためなのです。そういうことが多いのです。「時間の節約!」が原因なのです。

「時間の節約!」と言えば、マルチタスクです。何かと何かを同時にやるほど、時間の節約になるように思えます。『しまった!』にはこのテーマがちゃんと登場します。

・人はマルチタスクに不向き
・ガムを噛みながら歩けても、他にたいしたことはできない
・作業から作業へスイッチすることで、最初の作業は忘れてしまう
・新しい問題を検討して15秒以内には、古い問題は忘れられる
・運転中に二秒間わき見をするだけで事故の危険性は二倍になる

 

失敗と記憶の深い関係

gooのランキングでも登場していますが、もうひとつの「しまった!」の原因が、記憶違いです。本書では、こちらのほうがむしろ中心テーマとなっています。

買った雑誌をもう一冊買うとか、人の名前を間違えるとか、たしかに不愉快な体験ですが、多くの人が経験しているでしょう。私はその種の経験が、人より明らかに多いのですが。

よく言われているとおり、私たちの記憶力は、生物一般よりも色々な点で優れていますが、理想的とは言いがたいものです。しかも、おそらくは自我の要請のため、自分の記憶力を、実際よりもかなり高く評価しています。つまり自信過剰なのです。

冒頭で述べた、「コストパフォーマンスが悪い」とは、このことなのです。「しまった!」を減らすには、自分の記憶力について謙虚になって、記憶力一般を高めるのがいいのでしょう。しかし、自己の能力に謙虚になろうとしすぎると、過度に神経質になってしまいますし、「記憶力一般を鍛える」とはどういうことか、心理学的には何とも言えないところがあります。

一歩間違うと、不可能に近いことに挑戦したあげく、妙な神経過敏を得ることになりかねません。その成果として得られることが「しまった!」が減ること(なくなることではない)なのです。私なら、躊躇します。

そして冒頭であげたとおり、本書にはもうひとつの大事な特徴があります。特定の分野に関する記憶力であれば、たしかに鍛えることが可能で、そして鍛えることができる、というものです。心理学ではおなじみの「チェス名人」の記憶力ですが、「超一流の専門家は頭の中に巨大な図書館を持っている」というものです。

この表現は、記憶の研究では馴染みの深い表現で、私としては賛同できないのですが、人を魅了するフレーズだとは思います。大事なことは、他人がそこにパターンを見いだすのは困難なところに容易にパターンを見つけ、しかもそのパターンを、より簡易なパターンとの関係のなかで読み取れる、ということです。そこまでできるようになるには、かの有名な「一万時間」がかかるというわけです。

そんなチェス名人でも、帰宅途中に目薬を買い忘れて、「しまった!」とつぶやくことはあるのです。特定分野の記憶力を、一般的に応用できるかというと、大変疑わしいものです。ここは逆を目指すのが賢明だと、私は思います。

 

▼編集後記:
佐々木正悟


ひそかにこのような本を書いておりました。まだ予約受付中の段階ですが、ターゲット読者さんを非常にはっきりさせて書いた本ですから、同僚、部下、スタッフ、その他自分以外の人のモチベーションを高めたい、という方には、多少なりともお役に立てるのではないかと思います。