「目を通す」というのに違和感があるかも知れませんが、「目を通し」てもらえればわかると思います。
» うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち 【電子書籍限定 フルカラーバージョン】<うつヌケ> (角川書店単行本)[Kindle版]
本書を読むのはおそらく多くが「ウツ経験者」であるかと思いますが、「自分はウツにはまずならない」という人にも「とりあえず目を通し」ておいてもらいたいのです。というのも、いまの時代、不思議なくらい「ウツ」が「流行って」いるからです。
「最近の人は心が弱くなっている」というような言葉が、不思議なくらい人口に膾炙します。びっくりするほど非科学的な表現です。
「無理」とは何か?
「ムリをしてもこのくらいなら大丈夫だと思っていた」という表現が、『うつヌケ』でも随所に登場します。まず私が最初に気になったのがこれです。
「ムリをしても大丈夫」だと思えるのはどうしてなんでしょう。たとえば、昔の人は「ムリをしても大丈夫だった」のでしょうか。しかし昔の人は何をして、そしてどこまでは「大丈夫」だったのでしょう。
どこから先までいくと、人は「ダメになってしまう」のでしょうか。
それがわかれば、苦労がないわけではないにせよ、苦労の8割くらいはなくなります。しかしそれは分からないことです。どこまでムリをしてがんばっても大丈夫なのかは、本人にも周囲にも全くの手探りです。
『うつヌケ』をちょっとでも読むとすぐ出てくることですが、ほとんどの人がかなり微妙なパターンから「ウツトンネル」に入っていきます。イメージに過ぎませんが「トンネルに入っていく」という表現が、まさに適切と思えるのです。
人は、ムリをします。
たいていの場合、やりたくもないことを、賞賛されたり評価されたというイベントのおかげで、無理を始めるのです。
しかし、常に賞賛だけを得つづけるというのは不可能です。
ミスをしたりうまくいかなくなることもあります。
その時、がんばってやっていることが好きでもなかったこと、やりたくもなかったことだと気づくのですが、すでに無理のしすぎがたたっている。
いつ、なにが始まったのか、読んでいても分かりにくい。本人にはさぞわからないでしょう。
身体が心に抵抗する?
境目がハッキリしないのは「症状の時期」だけではありません。「症状そのもの」も、問題になっているのは心なのか体なのか、実例はこれほどにハッキリしないのかと驚かされます。
たとえば脳と心臓はつながっていて、自分で心拍を計りながら仕事を始めてみて驚いたのですが、私の心拍数は文章が佳境に乗ってきたか、終わりごろなのかで、ずいぶん違います。
この場合、頭が興奮したから心拍を速めたのでしょうが、心拍が速まるとそれに頭が気づいてしまうし、佳境に乗れば指の動きも速度を増します。
心と体、とはいいますが、脳だって体です。『うつヌケ』の症状はいちいち様々ではありますが、共通していると思えるのは、身心のシステムが、状況に対応しきれなくなっている。主に脳が、といっていいでしょうが、キャパオーバーなのです。
仕事はそもそも最初から過剰に近い。「無理をすればこのくらいはやれる」というレベルまで来ています。かなりいい状態で、他にやることがなくて、そのへんが限界でしょう。それも限界を超えていないという意味ではありません。
自動車の急ブレーキの件と似ています。時速40㎞でブレーキをかけても、車が停止するまで十数メートル走ってしまうというヤツです。ただし「道路が乾燥していて、ブレーキ、タイヤとも好条件の場合」という文章を読んだ人は多いでしょう。
雨天時には「水膜現象」がうんぬんと習ったと思いますが、雨天時に高速道路を走っている車を見ていると、恐怖を覚えます。自分もああいう「水上モーター」のようになっているに違いなく、しかもそうは感じないからです。
そんなに危険な速度で走っているつもりはないというのと、そんなにムリをしているつもりはないというのは、実際よく似ていると感じるわけです。
この「限界に挑戦」している真っ最中に、他のことをいっさいやらかしていなければ、大丈夫かもしれません。
でも現実には「限界に挑戦」しながら、風邪をひいてみたり、家族とトラブルを起こしてみたり、徹夜してみたりするわけです。お酒を飲み過ぎてみたり、子どものインフルエンザのめんどうをみてみたりします。そのうえに、自分を自分で嫌ってみたりもします。その上で毎日なぜかブログを更新したりもします。
「心が弱い」というのはどういう評価なのか? 私には、身体(脳を含む)そのものにダメージを与えつづけておきながら、それを身心(脳と神経)のシステムで補おうとして、やりきれなくなっているという印象です。これだと、たとえ「うつ」にならなくても、何らかの兆候が現れるはずです。
ここまで読んで気になった方は、『うつヌケ』に目を通しておいてください。
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