※当サイトはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています。

法則とコツ

以前、Tさんと話していた時、Tさんの以下の言葉が気になっていました。

「そうですねー。仕事が多すぎて、いつも終わらないんですけど、これを何とかしたいですね」
「何で終わらないんですか?」
「意志が弱いんでしょうかね」
「どうしたら意志が強くなりますか?」
「うーん…。意志を鍛える方法がわからない!(笑)」

意志が弱い、弱いなら鍛えればいい、でも鍛え方がわからない。

このように「○○をするために××をしたいのだが、××の方法がわからない」という現実に直面するシチュエーションというのはよくあることだと思います。

方法がわからないということは、それが「思考停止語」である可能性が高いと言えます。「思考停止語」の攻略方法は簡単で、対応する「行動促進語」に変換すれば良いのですが、そうすると必然的に「行動促進語に変換する方法がわからない」という次の壁にぶつかります。

とはいえ、ここまで来ればあと一歩です。どうしたらいいかわからない状況において、「やるべきことはわかるがその方法がわからない」という嘆きは、「何をすればいいのかがわからない」という途方に暮れている段階よりは上のレベルにいると言えるからです。つまり、その状況を何とかする上での手段として「何がわかれば前に進めそうか」という、か細いながらも一縷の行動指針を手にしていることになるわけです。

あらゆるノウハウ(と呼ばれるもの)は、「行動促進語に変換する」というような「カオスから抜け出すための法則」であると言えるでしょう。そしてどんな法則にも、それを実践する上でのちょっとしたコツが対置しているものです。「行動促進語に変換する」という法則であれば、これを実践するためのちょっとしたコツが「どのようにすればできるか」という質問を作ってみることです。

法則そのものは静的なもので、知識でしかありません。それゆえにTPOVのように人とシェアできるという特徴があります。

TPOV(Teachable Point Of View)というのは、直訳すると「教えられる視点」。意訳すると「人に語れるちょっとしたコツ」。”Teachable”という言葉が利いていますね。
内省であれば、「こうすればうまくいく」「これぞ○○」というものを、くだらなくてもいいから書き出してみる。
他人と話す機会があれば、どんどん口に出してみる。それを書き留める。

つまり、語れるコツをまとめていく。これが最初のステップ。

でも、実際にこの法則を活用する段階ではコツが必要になります。でも、コツは本質的にはTPOV化できません。なぜなら、コツは知識ではなく行動そのものだからです。コツをいくら覚えたつもりになっても、それは法則でありTPOVであって、それ以上のものにはならないからです。

これは、何十冊の自動車の専門書や運転マニュアルを読みこなしたとしても、実際に自分でハンドルを握って運転を体験しない限り、運転ができるようにならないのと同じことです。

むしろ、何の知識もない状態でいきなり運転をしてみた方が良い場合もあります。何も知らずにハンドルを握れば、エンストを繰り返したり、事故を起こしたりするかも知れません。そもそもエンジンのかけ方からわからないということも。

でも、そういった現実を身体が知ることによって「どうしたらエンストを繰り返さなくなるんだろう?」という問題意識が芽生えるはずです。

これは単純に知識を増やしたい、という欲求よりも強烈で動的です。この欲求に駆り立てられて起こす行動からは、法則ではなくコツが得られるからです。しかもそれは人に語れなかったとしても、自分の身体に刻み込まれているものであるため、「○○だから××する」という論理演算の処理結果を待つことなく行動に移すことができるようになります。

言い換えれば、何をすればよいかという標的が設定された瞬間に、知識を蓄えている頭を経由することなく身体が先に反応して対応する行動が完結している、という状況が生まれるということです。

そういう意味では、「どのようにすればうまくいくのだろう」という質問を考える、というステップは、自転車で言えば“補助輪”のようなもので、「質問」という具体的な目に見えるものがなくても、自然と身体が動くようになればいいわけです。

言葉という“補助輪”がなかった頃からも人間は数々のコツを体得してきたはずですから。