はるか昔の話、まだGoogleのない、Yahoo!のトップページが現在のGoogle並に閑散としていた時代にずっと妄想していたことがありました。
当時は、パソコン通信全盛の時代で、電話回線越しに「ホスト」からダウンロードしてくる情報は「ニフティーサーブ」の「フォーラム」に寄せられた「ユーザーによる書き込み」でした。
現在のインターネットのような「マルチメディア(笑)」ではなく、ひたすら白黒の文字情報。でも、今思い返してみると、むしろ今インターネットで手に入るリッチな情報よりも“カラフル”で温かみのあるもののように感じます。文字情報しかないことがかえって想像力をかき立て、自分の経験や感性を総動員して考えることを促し、自分の頭を使って解釈しようとさせるからではないか、と思っています。
そして、「書き込み」をそのように受け止めることで、おのずと、それを書いた人の人柄や息づかいにまで思いをはせるようにもなります。
そんな時代に抱いていた妄想というのは、次のようなものです。
- キーワード(言葉)ではなく、概念(想い)で検索できないだろうか?
例えば、2人の人が会話をしている時、一方が他方に想いや考えを伝えるには言葉を使う必要があります。言ってみれば、自分の想いや考えを言葉という“通信回線”に載せることになります。この過程で伝えようとした内容の一部が抜け落ちたり、逆にノイズが加わったりすることもあるでしょう。
もし、抱いている想いを思いのままに相手に伝えられるのなら、言葉は不要でしょう。でも、残念ながら現時点ではそれは困難であるために、できうるかぎり言葉を尽くすほかありません。
もちろん、言葉以外にもビジュアルイメージや映像といった言葉を補完する“迂回回線”はあるでしょう。でも、それらも“回線”である限りは、“デコード(解釈)”による変異からは免れないでしょう。
言葉もビジュアルイメージも映像も、すべては概念を伝えるための手段でしかないのです。
そんなわけで、しばらくは言葉(バーバル)を尽くし、必要に応じてイメージや映像(ノンバーバル)の力を借りながら、伝えることに腐心するほかはないようです。
言い換えれば、いつでも自分の経験や感性を総動員し、自分の頭を使って必死に解釈し続けていく必要がある、ということです。
このようなことを改めて考えるきっかけになったのが『検索は、するな。』という本。著者は以前ご紹介した『千円札は拾うな。』と同じ安田佳生さん。
本書には、たくさんの具体例が登場します。
- ちくわの穴とドーナツの穴の違い
- 20代の成長と30代の成長の決定的な違い
- トヨタのプリウスが売れた理由
- 著者が結婚式でぐっとこない理由
- 落合だけがイチローにアドバイスできる理由
- 「三匹のこぶた」の中で誰が一番賢いか?
- 羽生善治名人の「ミスをしない対局はほとんどない」の真意
いずれも気を引くものばかりです。そして、本書を読めばこれらの内容を知ることができます。でも、言うまでもなく著者はこういったことを読者に伝えたいから筆を執ったわけではないでしょう。
では、著者の執筆の原動力は何か?
それを知るためにさらに読み進めていくと、これらの事例を持ち出すことによって次のような主張が展開されていることに気づきます。
- 天才が秀才に勝てない理由
- 本当のスキルアップとは
- なぜ答えを出すために考えてはいけないのか?
- なぜ勉強をしなければならないのか?
- 「頑固ジジイ」と「好々爺(こうこうや)」の分岐点
- 結果を出せないマネジャーの特徴
- 言ったことは伝わらない
- 「わかる」の三段階
- アクションに結びつく理解と、アクションには結びつかない理解
- ナルシストであることが男にとって大切な理由
これまた、特にビジネスパーソンにとっては興味を引くものばかり。そして、やはり本書を読めばこれらの内容を手に入れることができます。通常のビジネス書であれば、ここが「落としどころ」になるのでしょう。
でも、著者はさらに先にいきます。読者にも、もっと先に進むことを求めます。結局、先に挙げた具体例も、そこから引き出される主張も、著者の想いや考えを伝えるための“通信回線”でしかないのです。
読者は、自らの経験や知識を駆使して“デコード(解釈)”を試みるわけですが、それによって著者の頭の中から“ダウンロード”できる概念は人それぞれでしょう。
でも、それで本書の目的は果たされていると考えられます。著者が伝えたいのは著者の頭の中にある概念ではなく、読者一人一人が直面している目の前の問いから、その本質を引き出すための手段の作り方であり、頭の使い方だからです。
「概念による検索」の技術が実用化される日が来るまでは、この本を繰り返し読むことになりそうです。
意味がわからない
いつもタイトルに感心します!
探し物は自分の中にある。
タイトルは○
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