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ずる 嘘とごまかしの行動経済学 [Kindle版]

ずる 嘘とごまかしの行動経済学
ずる 嘘とごまかしの行動経済学 ダン アリエリー 櫻井 祐子

早川書房 2013-01-25
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この本もまた、先だって紹介した『ファスト&スロー』と甲乙つけがたい面白さである。この分野全域にわたる博識という意味でダン・アリエリーはダニエル・カーネマンに及ばないという印象があるが、ダン・アリエリーの実験デザインはセンスがある。

心理学の面白さはどんな実験を実施できるか、実験の設計に全てがあるとまで言い切る人もいる。私はそこまで言われると賛成できないが、たしかに面白い実験は、人間心理を説得力豊かに暴露してくれる。それを面白いと思える人には、ダン・アエリエリーの全ての本は面白い。

ごまかしと先送り

とは言え「シゴタノ!」としての興味は心理実験のデザインの妙にはない。あくまで仕事を進める上での心理に私の興味は集中する。

ごまかし、とはなんだろう? 心の奥底までそっくりのぞき見られるとすごく恥ずかしいということを、しでかすことがある。ほんのちょっとしたことに過ぎず、他人からみたらさほどのことと思われないことでも、暴き出される側はそれこそ「穴があったら入りたく」なるようなスキャンダラスなことを、してしまうことがある。

はっきり言わせてもらう。あいつらはずるをする。あなたもずるをする。そしてそう、わたしもときどきはずるをする。

ずる 嘘とごまかしの行動経済学
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しかしなぜ「ずる」をするのだろう? 誰もがずるをするとしたら、どんな条件が整えば心は「ずるをしてもOK」と許可証を出すのだろうか。

ダン・アリエリーとその仲間たちは、もっぱら「不正行為」または「軽犯罪」に焦点を当てている。しかし私は、およそ人が目に見えないところでずるいことをする心理になるのは、犯罪行為と関係ないケースも少なくないと思う。というよりも、犯罪行為と関係ないところで「心に後ろめたいことをする」機会は多いものだ。

例えば「先送り」というのは「ずる」をする場合に限りなく近い。先送りでなくても、ほとんど仕事をせずに仕事をしたことにしてしまうというのは、必ずしも不正とは言えないし、まして犯罪ではないけれど、そっくり心の底まで見透かされたら結構恥ずかしいのではないだろうか。

例えば「後でぜひチェックしておいてください」といわれた校閲メモがメールで送られてきたとき。忙しさに紛れ、つい返信の締切日までまったく開くこともせず、当日になってやむを得ずファイルだけは開いてタイトルだけ見て「OKです」などと返信するようなとき。

あるいは学生たちが送りつけてくる大量の、決して読みやすいとは言えない課題のレポートを、時間がない中で「評価」する時、一切「ずる」をしていないと全ての大学教官が言い切れるものだろうか。

報酬と監視とずる

不正行為を取り締まりたいという側の視点に立ったとき、人間はどんな場合に、ずるを自戒しようとするのだろう。ダン・アリエリーもこの点に着目している。私もそうだった。先送り、仕事の手抜き。それらを自戒する気持ちになれる心理的な条件とは何だろう。

監視するのはコストがかかる。たしかに不正行為が見つかって、厳しく処罰されるとなると、いわゆる「抑止効果」が働く期待はできる。でも、たかだか仕事の先送りをなくすために、上司が一日中部下の仕事を後ろからのぞき込むというのはまったく合理的ではない。

報酬はどうか。報酬が高くなるのと低くなるのと、どちらの場合の方が不正行為ははびこりやすいか。

人間が「率直に強欲だ」と考えるとすれば、当然1タスクあたりの報酬が高ければ高いほど、不正行為をする「価値」は高くなるわけだから、単価が高い仕事でこそ不正行為が増えることになるという考え方もある。

けれどもこれはどことなく直感に反する。ばれる可能性がたとえ同じであっても、消しゴムのようなつまらないものを職場からくすねるより、お金をくすねる方が心理的ハードルが高くなる。となると、報酬が低い仕事をいいかげんにやる方が、高収入の仕事をいいかげんにやるより、心理的には楽だということになりかねない。

わたしが思うに、一問正答して得られる金額が一〇ドルのとき、協力者はごまかしをしながら自分の正直さに満足し続けることが難しくなったのではないだろうか。報酬が一問につき一〇ドルになると、職場から鉛筆を一本失敬する程度のごまかしではなくなる。ペンやホッチキスを何箱か頂戴する、コピー用紙をごっそり盗むといった行為に近くなり、目をつむったり、正当化したりするのがずっと難しくなるのだ。

だとすると、タスクをやる価値はやはりハッキリさせなければいけないのである(しかも有意義であるほど良い)。普通の人は正直者だがずるもするし、真面目だが先送りもする。どこかあいまいで矛盾したところがあるのだが、それは状況もあいまいでハッキリしないように見えるからなのだ。

大したことのないタスクを「ちょっと明日に送る」くらいなら、これは鉛筆一本失敬するのにも似て、あまり心理的なハードルが高くない「ずる」なのである。

▼編集後記:
佐々木正悟

4月21日 第8回タスクセラピー やりたいことはやれていますか?(東京都)

今回のセミナーでは「先送り」を「不正行為」とみなして扱おうというわけではありませんが「タスク管理が習慣として定着しない(定着させたい)」という参加動機は、これまででもっとも多くなっています。

習慣として定着しない大きな要因は、1つにはタスク管理ツールが決まらないことと、決めるべき基準がないことです。

さらに、結局のところ「タスク管理する」とは何をすることなのかのイメージが固まっていない人も少なくありません。その辺の基本に立ち返ることも、重視したいと思います。