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数年ぶりに紙のノートを使ってみて気づいた3つの利点



大橋悦夫
結論から言うと、次の3つです。

  1. 起動が早い
  2. 迷いが少ない
  3. カスタマイズ性が高い

 
そもそも、なぜ数年ぶりに紙のノートを使ってみることになったかというと、以下の本に紙のノートがついてきたから(感謝)。

当ブログでは原則として、僕自身による実際の実践を実況する、と決めているので、本を読むだけで何かを語るわけにはいかない。

ということで、さっそくいただいた紙のノート・・・は使わずに、以前から手元にあった、未使用の同社製の紙のノートを使い始めました(買ったまま使っていなかった)。

たった3日ですが、実際に使ってみて浮かび上がってきたのが冒頭の3つの利点でした。

以下、詳しく。

1.起動が早い

これは、PCやiPhoneなどと比べて、という意味です。PCはともかく、iPhoneなどはホームボタンなり電源ボタンを押せばすぐに起動します(厳密に言えば、ロックを解除するために“ひとスワイプ”要りますが)。

※スワイプ=画面上のアイコンやスライドボタンを横方向に指ではらう操作

 
でも、本当に「早い」と形容するためには、目的の操作を開始できるポイントに到達するまでの時間が短くなければなりません。

どれぐらい短ければいいのか。

たとえば、何かを思いついてそれを忘れないように記録に残そうと思った瞬間からスタートして、紙のノートを取り出し、白紙ページを開き、ペン先を紙面に接地させた瞬間までのリードタイムが、「まぁ、わざわざ記録に残しておくほどでもないかな」という気持ちを生じさせるのに十分な待ち時間に達しない範囲であれば、それは「早い」と言えます。

「お、もう書き始められるのか」という驚きすら入り込む余地のないくらい、思いつきから接地までの間隔が短ければ、その紙のノートは十分にその人の外部記憶装置として機能するでしょう。

一方、思いつきから記録開始までの間に、記録すること以外の思考や操作が求められる場合、

  • たとえその時間がわずか数秒であったとしても
  • 手間が指を右にひとはらいするだけのものであったとしても
  • そして「そういうものだから仕方がない」という了解があったとしても

心のどこかで煩わしさを覚えているものです。

2.迷いが少ない

起動の早さとも関わりますが、何かを思いついてからその記録を開始するまでの間に不必要なステップがはさまると、それがノイズとなって記録のモチベーションが減退したり、最悪の場合はインターセプト(≒横取り)されることもあります。

たとえば、何かを思いついてそれをiPhone上のEvernoteアプリに記録しようとした時、iPhoneがスリープモードになっていれば次のようなステップを踏むことになります。

  1. iPhoneを取り出す(かばんやポケットから)
  2. iPhoneを起動する(ホームボタンか電源ボタンを押す)
  3. ロックを解除する(指でスライドスイッチを右にスワイプする)
  4. 4桁のパスコードを入力する(パスコードロックを設定している場合のみ)
  5. Evernoteアプリのアイコンをタップする(一画面目にない場合は該当の画面が出るまでスワイプを続ける)
  6. Evernoteアプリが起動しきるのを待つ(数秒)
  7. 「テキスト」をタップする(ここれでも約1秒弱、待たされる)
  8. 記録を開始する

 
もちろん、Evernoteアプリよりももっと早く記録を開始できるアプリもあるでしょう。でも、最初の関門である1~4は避けて通れません。

そして鬼門は、パスコードロックを解除した後です。

photoこのとき、iPhoneのホーム画面にはさまざまなアプリのアイコンが並びます。メールアプリやタスク管理アプリなど、アプリによっては未読数や未処理数が数字で表示されるものがあり、本来は思いつきを記録するためにiPhoneを起動したにも関わらず、記録とは関係のない、少なくとも記録しようとしている時点では目にする必要のない情報が入って来てしまうことによって、それに反応してしまうのです。

記録することを差し置いて、とりあえず届いているメールを先にチェックしておくか、という割り込みを受け入れてしまう。運良く届いているメールが特に急を要するものでなければいいのですが、すぐに対応の必要なものであれば、記録することからさらに離れてしまうことになります。

紙のノートであれば、

  1. 紙のノートを取り出す
  2. 開く
  3. 記録を開始する

といった具合に、極めてシンプルで途中に余計な誘惑もなく、迷うことなく記録を始められます。何かを後回しにしたり、誘惑を振り切ったりするためのエネルギーを使うこともありません。

もちろん、ノートを取り出すのに苦労したり、白紙ページを見つけるのに手間取ったりしなければ、の話ですが、それは次のカスタマイズによってある程度解消できます。

3.カスタマイズ性が高い

たとえば、iPhoneの場合は、実に多彩なアプリが提供されており、その中から自分のニーズにあったものを選び、使用頻度に合わせてホーム画面に配する、といった自分仕様にカスタマイズすることができます。

それでも、カスタマイズには限界があります。

一方、紙のノートであれば持ち運ぶ容れ物を取り出しやすいものに変えたり、すぐに白紙ページが開けるようにインデックスをつけたり、栞をはさんだり、といった工夫が容易にできます。

こうしたことを繰り返していると、そのノートに愛着がわいて大事にしたい、と思うようになるのでしょう。「なるのでしょう」というのは突き放した言い方ですが、僕自身はまだ3日しか使っていないので、推測の域を出ないのです。

以上、たった3日ですが、紙のノートを使ってみて気づいた3つの利点でした。

以下、与太話が続きます。

ノートの変遷

シーケンシャルが当たり前

最初は紙のノートしか使っていませんでした。教室の中、勉強机の上、図書館。それ以外の場所では学校から支給された生徒手帳。

ノートは教科ごとに排他的に分かれていましたが、どの教科にも属さないことを書いておくためのノートを別に一冊用意していました。

手帳にはいわゆる連絡事項や覚え書きを書き付けており、時刻表や時間割表などを貼り付けたりもしていました。

ノートと手帳の共通点は、よほどのことがない限りは、1ページ目からシーケンシャル(順番)に白紙を埋めていくという使い方でしょう。

ランダムの登場

時は流れて大学時代。ルーズリーフが主流になり、バインダーにはその日に受講する講義に関するリーフだけを挟むようにしていました。必要に応じて調節できるルーズリーフの便利さに感心しつつ、しかしノートにはない問題に頭を悩ませることになります。

それは、自由の代償、といったら大げさかもしれませんが、綴じノートのシーケンシャルな制約から解放されることで生じる自己責任のようなものです。

言うまでもなくシーケンシャルなノートと違って、ルーズリーフにはページの概念がないために、ランダム(任意)に新しいページを始められるメリットがある反面、きちんと整理しておかないと順番が狂ったり、一部のページが失われたり、といった綴じノートでは起こりえないトラブルに見舞われうるのです。

綴じノートには必要のなかった、リーフの整理、という仕事が増えたわけです。

少し時間がさかのぼりますが、大学生になる直前にワープロ専用機というものを使い始めます。電源を入れるといきなりワープロが立ち上がるというものです。プリンターも内蔵されており、これ1台で一通りの文書作成をこなすことができます。

ワープロの利点はルーズリーフ以上の自由さです。ランダムに書き始めることができるのに加え、一度書いた文章を大幅に加筆修正することができたり、断片的なメモを思いつくままに箇条書きに書き付けておいて、後から順番を入れ替えたり、内容をふくらませたりといったジグソーパズルを組み上げていくような書き方を許してくれます。

シーケンシャルな原稿用紙ではこうはいきません。

そんなこともあり、大学生になってレポート提出を求められるようになると、もっぱらこのワープロ専用機を使って文章を書いていました。

そんな折、大学3年生だった1994年7月25日にたまたま池袋の新栄堂書店で出会ってしまったのが次の一冊。

今では考えられないことですが、この本では実際に著者が実践しているという次のような手法が紹介されています。

  1. 文章の素材となる文を思いつくままに箇条書きで書く
  2. 印刷する
  3. 箇条書きの単位で細長い短冊状に切り離す
  4. 切り離した短冊を意味の通る順番に並び替えて構成を練る
  5. 構成が決まったら、これに沿って、改めてワープロに向かって清書する

マインドマップはおろかアウトラインプロセッサもない時代ですから、こういうアナログ・アウトラインプロセッサを駆使するしかなかった──洗濯機のない時代における洗濯板のようなもので、それが当たり前だった──わけですが、それでもこの発想は当時の僕にとって十分に刺激的でした。

現在はすでに絶版になっている本書ですが、なぜこれほどまでに印象に残っているかというと、巻末に掲げられていた参考文献がいずれも名著だったからです。

こうして、『ワープロ作文技術』の巻末に掲げられていた上記を含むほとんどの文献を読みあさったのが僕にとっての原点になりました。

なお、『日本語の作文技術』については以下で、


『理科系の作文技術』については以下で、


それぞれ詳しく取り上げています。

まとめ

要するに、僕の頭の中では綴じノートのシーケンシャルな思考よりも、ルーズリーフやワープロのランダムな思考が優勢であるために、綴じノートに対して必要以上に制約を感じていたわけです。

でも、その制約があるからこそ一点に集中しやすくなり、望ましい結果を生み出すこともあります。

それが冒頭でご紹介した3つの利点というわけです。

ということで、「紙のノートとか不便だし…」と思っている方も、以下を一読のうえで実際に紙のノートを使ってみる(ここが大事!)と、新しい地平が開けるかもしれませんよ。




合わせて読みたい:

堀 正岳さんという人は、シーケンシャルな思考とランダムな思考の両方をバランスよく身につけておられる人なのだ、と感じさせます。以下の本と合わせて読むとそれがよくわかります。



関連エントリー:


 

▼編集後記:
大橋悦夫

堀正岳さんと佐々木正悟さんと僕の3人で対談しました。

テーマは「京大式ノートからEvernoteまで、情報に呑まれない仕事術とはいったい何だろう?」というもので、『知的生産の技術』から『iPhone情報整理術』まで、デジタル・アナログ、シーケンシャル・ランダム、問わず三者三様の仕事術についての対談を14ページにわたってまとめていただいています。

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掲載されているのは『iPadを仕事でどう使うか?』という本です。ホリエモンこと堀江貴文さん始め、実際にiPadをビジネスで活用している方の事例が豊富に紹介されています。

特に企業におけるiPad活用事例は興味深いです。使いこなし方でかなりのデバイドが生まれているな、と感じました。