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大事なことを先送りし続けないために「ちょうどよい自信」を持つ



佐々木正悟 京都でセミナーを開催してきました。

こうしたセミナーにいらっしゃる方は、総じてリアリストということもあり、「いつかやりたいこと」といってもそれは、「10億円儲けてウハウハしたい」というようなことではなく「仕事で任されている重要なプロジェクトが手がけられない」といった「悩み」なのです。

(毎日花柳界に出かけるというような話でない以上)それをやっても誰も文句は言わないはずだ、と思うわけですが、本人はそれにしても忙しく、職場に行けば立て続けに入ってくる業務案件、家に戻れば即座に片付けないとどうしようもないようなノイズでカオスな諸事雑事、というわけなのです。

しかしこの状況でもどの状況でも私が言うことは馬鹿の一つ覚えみたいに「時間管理」であって、決して「セルフマネジメント」や「意識を変えること」や「忙しいと言わない」ではありません。

そして「時間管理」といっても「スキマ時間の活用」ではありませんし、「朝活」でもありません。「スキマ」はそんなにはないし、「朝活」を無理矢理実行すればただただ寝不足になります。

「やる気」と「時間」を切り離すことはできない

食べ物をナッツ類にしてもっと元気になるというのもまったく無意味だとは思いませんし、瞑想や右脳活用などでむしろ心に余裕を持てば、たいていの事態にテンパらなくなるというのも悪くないと思うのですが、私自身は、そういうことでうまくいった経験がぜんぜんありません。

手帳で目標やゴールをはっきりさせたり、抱え込んでいることをA3用紙いっぱいに書き出してみるのは、ナッツや瞑想より幾分ましでしたが、思うほどの効果を上げるには至りませんでした。

結局私にはっきりと良い影響をもたらしたのは、ともあれタスクシュートで、ともあれ時間管理なのですが、それは、ただタスクシュートだけが私をして「セルフ・マネージメント」というものを可能にしてくれたからです。

だから私は「はい。タスクシュートをやってください! おしまい!」にしたいのですが(これが一番「ウソ」がないから)、どうしても私たちは「まず効用を聞き、それに納得してからコトを試したい」と至極当然の思考を辿ります。ここに矛盾が生じます。

海水浴は気持ちがいい。
健康にもいい。

これが事実だとします。
しかし聞き手はこう問いただします。

海に入る前に、確かに海に入ると気持ちがよくて健康になれることを実証してくれ。そうしたら海に入るから。

それはもっともなのですが、海に入らない人に、海に入ることの気持ちよさを言葉で実証するのは至難の業です。確かにタスクシュートは「水素水」みたいなものかもしれないし、海に入ったらサメにかじられるかもしれないという疑いを抱かれてもしようがないわけですが、「海の良さを知るためには、海に入ってもらうのが一番話が早い」というのも本当なわけです。

こういうジレンマを抱えているので、あの手この手で同じテーマに異なる比喩を与え続けているわけですが、今回はこう言いましょう。

「ちょうどよい自信」を持つ

私たちは、事実に基づかずに自分の仕事の達成度を評価し、事実に基づかずに自分の仕事の能力を見積もり、事実に基づかずに将来の計画を練っています

事実に基づかない私たちは、結果として自信過剰なときと、自信過小なときの、いずれかばかりになって、「ちょうどよい自信」を持つことができずにいます。

「今日、このくらいのことは終わるだろう」

このように言うときの私たちはたいていきわめて自信過剰なのに、そのことに気づいておらず、むしろ自分は控えめだくらいに思っています。決して終わるはずもないほどの壮大な計画を立てておきながら、「この程度も終わらせられないなら、社会人としていかがなものか」くらいに思っているわけです。

その結果、当然半分も終わりません。よくあるToDoリストの光景です。8項目くらいあって、チェックが入るのはだいたい3項目というヤツです。

ここで前述のように思った人は、誠実であればこう思うしかないわけです。「自分は一体今日一日何をしていたんだろう? 社会人として、いかがなものなんだろう?」

こんどは、自信過小に陥っているのです。本来2項目が終わればいいくらいの時間の中で、3項目終わらせられた自分をむしろ誇るべきなのに、そういうふうには少しも思えない。なぜなら何の根拠もなく「この8項目くらい終わって当然だ!」と思い込んでしまったからです。

こういう思考の人が、タスクシュートを実際に使うこともないままに、タスクシュートのことを見聞きすると、これをPDCAによる改善を促す装置だと誤解するのです。

8項目終わって当然のところを、3項目しか終えられなかったのは、自分の時間の使い方にひどいムダがあるからで、そのムダをそぎ落とすためにも、1分単位といった、病的とも言えるほどのこの徹底した行動記録をとり、そのデータベースを週に一回、時間をかけて徹底的にレビューせねばならない…ああ! だから週次レビューとかいうのか!

前提も誤解なら、思考展開も誤解であり、最後まで誤解されたままなのです。

タスクシュートをはじめるなら、PDCAのことはとりあえず忘れて欲しいと思います。レビューのことも、いったん忘れて欲しいほどです。

大事なのは、「この8項目が終わるはずだ!」などという思考を一瞬も頭によぎらせないようにすることなのです。こういうめちゃくちゃな計画錯誤が、「こんどの金曜日に1日かければ…」とか「毎日3項目ずつ100日間続けたなら…」といった、ありもしないスーパー時間活用術に依存する意識を生み出し、「今日の数分を徹底的に活用しない限り、非常に面倒な事態に対応させられる」という細かい意識を生み出せなくさせてしまうからです。

私たちは誰も無能力ではないけれど、「1日かけてできること」は、なぜか私たちの頭脳に生じがちな誇大妄想に比べれば、地味でショボイものです。この地味でショボイ能力を徹底的に使うことでなんとかギリギリ回していけるのが現実です。そのことにちょうどぴったりの自信を持つことが、タスクシュートで達成できることなのです。