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読書術について目配せしたいこと



倉下忠憲「読書」というのは、本を読むことです。

しかし、「読書法」で語られるのは「一冊の本を読めば、それで終了」といったものではないでしょう。そこでは「一冊の本を読むこと」ではなく「継続的に本を読み続けていくこと」が暗に示唆されています。つまり、習慣としての読書です。

これはたいへん重要なことで、ことあるごとに確認しておいた方がよいでしょう。

「それは継続的に運用が可能なのか?」

という自問です。

すばらしい読書術

何かすばらしい読書術があったとします。具体的にはよくわかりませんが、それをすれば本のすべてが手に入る、的なものをイメージしてください。で、実際にそれをやってみたとしましょう。そして、やっぱりすばらしい成果が得られたとします。

「これはすごい!」と何冊かその読書術を試してみて、結局5冊ほどでなんとなくやらなくなってしまう……、ということは実は珍しいことではありません。それはきっとその読書術が「すばらしすぎた」のでしょう。

読書術を紹介しているのはたいてい専門的な知識労働者の方であり、それをする意義や時間やお金をお持ち方の方が大半です。しかし、私たちの多くはそういうシチュエーションにはありません。だから読書術に私たちがついていけないのです。

でも、それは仕方がありません。「この読書術を実践できるように転職する!」という強い心持ちを持てるなら別ですが、そうでなければ、方法論と自分の環境が合わなかっただけの話です。

読書を習慣的行為だと捉えるなら、一冊から「すばらしい成果」を手にできるかどうかよりも、それを継続的に行っていけるかどうかで読書術を判断するのが賢明です。

読み方のバリエーション

もう一つ言えることは、読み方には目的がある、ということです。たとえばある種の速読法は、実用的なビジネス書から短時間でノウハウを抽出する目的があります。もちろんそれは有用です。しかし、「継続的に本を読み続けていくこと」を考えると、それだけで十分なのかは疑問が湧きます。

5年、10年と「実用的なビジネス書から短時間でノウハウを抽出したい」なら話は別ですが、さすがに1000冊も2000冊もそういうことをするのは、特定の人だけでしょう。そもそも「本」という文化の懐はもっと深いものです。もっと多様なジャンルがあり、読み方がありえます。

たとえば、私は『知的生産の技術」という本を通して5回以上読んでいますし、つまみ読み(つまみ食いの読書版)なら数えきれません。一冊の本とこういう付き合い方をする場合、速読法はあまり役に立ちません。それよりも、自分自身の手で情報カードを作っていくような読み方がフィットします。

つまり、

「継続的に本を読み続けていくこと」

を念頭に置くと、ある目的に特化した読み方を一つ知っているだけでは十分ではないということです。

読書というシステム

読書は習慣でもありますが、別の側面からみればそれはシステムでもあります。

本を手に入れ→本を読み→本を配置する。

このサイクルがくるくると回っていくシステムです。

そしてシステムは他のシステムと相互に影響を持ち合います。その影響はプラスのこともあれば、マイナスのこともあるでしょう。本を読むことで他のメディアの情報をうまく咀嚼できるようになるならプラスですが、本を読むことで他に使える時間・お金・置き場所が減ってしまうのはマイナスです。

つまり、読書について考える際は、読書以外のことも視野に入れなければ現実的な運用にはならないわけです。

さいごに

「効率的な読書術」

実にすばらしいものです。でも、その「すばらしさ」の射程については考えておきたいところです。

読書を習慣として捉えた場合、それは5年、10年のスパンを持ちうるものでしょうか。そうでなければ、引き出しには別の道具も入れておきたいところです。

▼今週の一冊:

すごく久しぶりに雑誌を買いました。リニューアルされ、Web版も始まったとのことで興味を持っていたのです。

読んでみるとまさに「考える人」にふさわしい内容。でも、堅苦しくなりすぎないように配慮もされています。この辺りのバランス感覚が絶妙ですね。今後が楽しみな雑誌です。

» 考える人 2016年 05 月号


▼編集後記:
倉下忠憲



Honkureというサイトを始めているのですが、やっぱり新しいサイト作りは楽しいですし、難しいですね。ちなみにPVはぜんぜんありませんが、5年くらいのスパンで考えていますのでまったく問題なしです。とりあえずはサーバー代のペイを目指します。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。


» ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由